更新日: 2019.06.14 その他暮らし

身の回りにある小さな発電所 水力発電で地域おこし

執筆者 : 藤森禮一郎

身の回りにある小さな発電所 水力発電で地域おこし
再生可能エネルギーの水力発電が話題になっています。
 
大きな発電所の建設地点はほとんどありませんが、ちいさな発電所地点はまだ、皆さんの身の回りにもありそうです。
 
藤森禮一郎

執筆者:藤森禮一郎(ふじもり れいいちろう)

フリージャーナリスト

中央大学法学部卒。電気新聞入社、電力・原子力・電力自由化など、主としてエネルギー行政を担当。編集局長、論説主幹、特別編集委員を経て2010年より現職。電力問題のコメンテーターとしてテレビ、雑誌などでも活躍中。主な著書に『電力系統をやさしく科学する』、『知ってナットク原子力』、『データ通信をやさしく科学する』、『身近な電気のクエスション』、『火力発電、温暖化を防ぐカギのカギ』、『電気の未来、スマートグリッド』(いずれも電気新聞刊)など多数。

豊富な水資源

化石エネルギーには恵まれていない日本ですが、四方を海に囲まれ、美しい山々があり自然条件には恵まれています。国内では石油や石炭などの化石燃料を産出しないので、燃料を輸入、沿岸部に発電所を建設し電気をつくっています。
 
中部、北陸、東北地方には3,000メートル級の山脈が連なっています。冬には大量の雪が積もり天然のダムになっています。春になると雪が解けて水はせせらぎとなり、小川は勢いを増して峡谷を下り、平野部でいくつかの支流を集めて大河となり海に注いでいます。その間に水資源は農業に電気に上水道に、多目的に利用され人々の生活を潤しています。
 

19世紀末に続々登場

電気による第二次産業革命は、19世紀末に始まりました。日・米・欧ほぼ同時でしたね。日本でも水力発電所が各地につくられるようになりました。全国各地に沢山の発電所ができ、地域に様々な産業をおこし、町や村を明るく照らし、人々の生活を豊かにしてきました。
 
肥料工場、化学工場、紡績工場など、水力の電気を使った工場が誕生し、主要な都市には電気鉄道(市電)が走るようになりました。街路灯が輝き、街や村は安全になりました。
 
川筋の町や村には競って発電所が誕生しました。工場で余った電力は近隣住民の電灯用として配電されました。電気を使った「地産地消」型ビジネスモデルの原型ですね。
 
時は至って1970年代の中ごろ、昭和40年代まで、わが国の電力供給は「水主火従」でした。火力発電でつくる電気より、水力発電でつくる電気の方が多かったのですね。団塊の世代が成人になるころには、火力発電が主流の「火主水従」に変わりました。中東から安価な石油が大量に輸入されるようになりました。大気汚染が問題になりました。それから石油危機が・・・。
 
歩みは牛歩のごとくですが、日本国内には水力発電所が大小とりまぜ2,200か所以上もあります。電力会社の社員が住み込んで運転・保守の仕事をしていましたが、現在、運転はすべて自動化されています。無人のダム・発電所もすっかり地域に溶け込み、風景の一部と化して観光資源となっているところが多いですね。
 

位置のエネルギーを電気エネルギーに

私たちに身近な水力発電所の基本的なことから調べてみましょう。
 
水力発電は、水が高いところから低いところへ流れるときの「位置のエネルギー」を利用して発電を行います。位置のエネルギーを電気エネルギーに変換しているのです。ですから落差が大きく流量の多い発電所ほど、沢山の電気をつく売ることができるのですね。ここがポイントです。
 
自然の地形を利用した大規模発電所は、落差が得やすい山間部に設置されています。河川の流れを巧みに利用して水車を回し発電します。水力発電は需用の変化に対応していく発電方式を基本としていますが、現在はダムで水をせき止める方法だけではなく、上池に下池の水を汲み上げる方法も行うなど、様々な水の利用法で電力需要の変化に上手に対応するようになりました。
 
水力発電にはどのような方法があるのでしょうか。水流の利用法の違いによる4つの発電方法とは。
 
(流れ込み式(自流式))・・・河川流量をそのまま利用する発電方式です。   天候の変化に左右されます。
(調整池式)・・・・・・・・ 河川の流量を調整池(ダム)で調整して発電します。1日のうちの需要の変化に応じて調整する、短期的な発電量調整に活用しています。
(貯水式)・・・・・・・・・河川の水流をダムでせき止め、ダムに貯まった水を利用する発電方式です。雪解け水を貯めて需要の多い夏場に発電していいます。季節的な発電量調整ですね。
(揚水式)・・・・・・・・・発電所の上部と下部に大きな調整池をつくり、電力供給に余裕のある夜間帯に水を汲み上げ、昼間発電します。昼夜間調整ですね。
 
水力発電所には構造物の違いによっても分類されます。
 
①水路式:河川から長い水路で水を引込、落差が得られる場所で発電します。
②ダム式:ダムで水をせき止めて人工湖をつくり、その落差を利用して発電します。
③ダム水路式:ダムで貯めた水を水路で引き込み、落差が得られる場所で発電します。
 

純国産エネルギーだが・・・

水力発電は言うまでもなく、最もクリーンな発電方法です。温室効果ガスも、SOx、NOxなど大気汚染の原因となる酸化物も排出しません。そのうえ水流や水量を変化させることで、発電量を容易にコントロールすることができます。運転の柔軟性に富むのです。
 
降水量が多く水資源に恵まれた日本ですが、大型の水力発電所はほぼ開発されつくしています。森林など自然環境に与える影響が大きく、ダム・発電所が大型構造物であること、需要地から離れた遠隔地に建設されることなどから、多大な建設費用や送電コストがかかると言った問題点もあり、建設が困難になってきています。
 
水力発電所はどの位の電気をつくっているのでしょうか。発電所の数は沢山あるのですが、発電量で見ると、平成28年度実績は764億kWh(発電端)で、全体に占める割合は8%強です。火力発電は7402億kWhで全体の約80%を占めています。
 
日本は火力発電依存国です。温暖化対策の視点からは、もう少し水力開発を進めてほしいですね。まだ、国の包蔵水力調査によると、小規模水力の地点はまだまだ残されているようです。
 
大型の水力発電所は、大量の水を確保できる、急峻な山間地に建設されます。ちなみに、現在、日本で最大の一般水力発電所(揚水発電所を除く)は、奥只見発電所(電源開発、Jパワー)です。その最大出力は56万kW、ダムの最大貯水量は5億100万立方メートル(東京ドーム約485杯分)です。
 
最大出力と言う点では他にもあります。揚水発電ですが、現在最大出力日本一は、関西電力の奥多々良木発電所(兵庫県:円山川水系、市川水系)で認可出力193万2000kW、世界一の規模でもあります。
 
建設中のものとしては、東京電力の神流川発電所(群馬県:利根川水系、長野県:信濃川水系)で282万kWがあります。ちなみに世界で一番大きいのは中国の三峡発電所で、出力は1820万kWです。
 
水力発電は位置のエネルギーだとお話ししましたが、高落差発電所を紹介しましょう。一般水力発電所では、
☆621.20m(一般水力で日本一)北陸電力・小口川第三発電所:富山県・常願寺川水系 認可出力1万450kW
☆599.70m 住友共同電力・東平発電所:愛媛県・国領川水系(二級河川) 認可出力 2万kW
☆545.50m 関西電力・黒部川第四発電所:富山県黒部川水系 33万5000kW
☆世界一はスイスのビュードロン発電所(半揚水式)で1883m、最大出力は126万9000kW。2番はオーストリアのライセック発電所で1773m、最大出力は6万7500kWです。
 
揚水発電所についても見てみましょう。上池ダムと下池ダムをつくり、水を汲み上げては発電する揚水発電は高落差が得やすいこともあり、落差が500mを超える発電所が国内には8つあります。
☆714.00m 東京電力・葛野川発電所:山梨県・相模水系 認可出力80万kW
☆671.80m 九州電力・小丸川発電所:宮崎県・小丸川水系 認可出力120万kW
☆653.00m 東京電力・神流川発電所:群馬県・利根川水系、長野県・信濃川水系 認可出力282万kW。
☆1165m(揚水式世界一)フランス・スーパービゾート発電所 最大出力72万kW。
 
これらの発電所は大きさといい落差といい、それを可能にした技術といい、レジェンド発電所です。でも、小さくてもいい。身の回りの小規模発電所で電気をつくり、省エネに役立てることができれば、それが脱温暖化への一歩です。
 
執筆者:藤森禮一郎(ふじもり れいいちろう)
フリージャーナリスト