更新日: 2019.06.14 その他暮らし
イオン太陽光発電へ加速 再エネ拡大は「FIT」から「RE100」へ
フリージャーナリスト
中央大学法学部卒。電気新聞入社、電力・原子力・電力自由化など、主としてエネルギー行政を担当。編集局長、論説主幹、特別編集委員を経て2010年より現職。電力問題のコメンテーターとしてテレビ、雑誌などでも活躍中。主な著書に『電力系統をやさしく科学する』、『知ってナットク原子力』、『データ通信をやさしく科学する』、『身近な電気のクエスション』、『火力発電、温暖化を防ぐカギのカギ』、『電気の未来、スマートグリッド』(いずれも電気新聞刊)など多数。
目次
太陽光発電は「売る」から「使う」へ
2012年に制度がスタートした当初、FIT価格は40円/キロワット時でした。通常の電力価格の2倍以上もしていましたが、電力会社は、その差額分を電気料金として上乗せして徴収していましたから、実は消費者の負担でFIT制度は運用されていたのですね。
その後、太陽光パネルの値下がり受けて経済産業省はFIT価格を毎年引き下げてきています。19年度は14円/キロワット時で18年度より2円値下がりしました。
産業用電気料金は15~18円ですから、FIT価格が市場価格を下回ってきているのです。こうした状況になるとFITには太陽光発電をけん引する力(価格インセンティブ)はなくなってきます。つまり、太陽光発電は「売る」時代から自家消費で「使う」時代に変わってきたのです。
そこでFITに代わって登場してきたのが、「RE100」と呼ばれる国際的イニシアティブ(運動)です。
新たな再生可能エネルギーの推進力!? 「RE100」イニシアティブ
「RE100」は、国際環境NGOのThe Climate Group(TCG)が2014年に開始したイニシアティブです。
The Climate Groupは2004年に、当時の英国ブレア首相の支援を受け、英国のロンドンに設立されました。今では英国のほか米国、インド、中国などにも支部を置き、世界中の企業や州・市政府が参画しています。
The Climate Groupは国連総会の時期に合わせ、毎年9月に年次報告会「Climate Week NYC」を開催しています。2014年の報告会の際に「RE100」プロジェクトは発足しました。
報告会では各種イベントが開催されますが、報告会は参加企業の代表がRE100プロジェクトへの参加表明の場にもなっています。
RE100イニシアティブは急速な広がりを見せています。米国、英国、日本、インド、中国などの有力企業が次々と加盟し、2019年4月時点で加盟社数は171社で、うち日本の加盟社は18社に上っています。
有名企業が続々と加盟
加盟企業を見てみましょう。
☆BMWグループ(ドイツ)☆GM(米国)☆タタ・モーターズ(インド)☆HP(米国)☆ヒューレット・パッカード・エンタープライズ(米国)☆ヴェスタス(デンマーク)☆レゴ(デンマーク)☆P&G(米国)☆ネスレ(スイス)☆ダノン(フランス)☆スターバックス(米国)☆NIKI(米国)☆バーバリー(英国)☆H&M(スウェーデン)☆イケア(スウェーデン)☆テスコ(英国)☆ゴールドマン・サックス(米国)☆モルガン・スタンレー(米国)☆シティーグループ(米国)☆マイクロソフト(米国)☆アップル(米国)☆グーグル(米国)☆フェイスブック(米国)など、世界の有名企業が名を連ねています。
日本企業では、19年4月時点でリコー、積水ハウス、ダイワハウス、ワタミ、イオン、城南信用金庫、富士通、ソニー、東急不動産など18社が加盟しています。現在も参加表明企業は増え続けており、脱炭素社会に向けて大きなうねりになりつつあります。
RE100に加盟するためにはいくつか要件があります。「事業用電力を100%再生可能エネルギーにします」と宣言すると同時に、目標達成年次を明らかにしなければなりません。
RE100に加盟企業は、進歩状況を指定のフォーマットでRE100事務局に提出しなければなりません。報告された情報はRE100のホームページや年次報告書の中で公開されます。わが国ではこの国際イニシアティブを環境省も後押ししています。
しかし、RE100に加盟するのは簡単なことではありません。
100%達成は企業単位で達成することが要求され、世界各地に事業所がある場合は、そのすべてで100%を達成しなければいけません。再生可能エネルギーは水力、太陽光、風力、地熱、バイオマスで、原子力発電は含まれていません。
国際環境NGOの進めるイニシアティブですが、加盟企業は厳しい責務を負うことになります。日本の場合、FITにより太陽光発電の導入は進みましたが、電気は電力会社に引き取られて他の電気とミックスして供給していますから、再生可能エネルギーとしてはカウントしてもらえません。
加盟企業にとっては、100%達成に向けて2つのオプションがあります。
(1)自社施設や他の施設で再生可能エネルギー電力を自ら発電する(その場合、自社の再生可能エネルギー発電所で発電された電力の消費は、電力系統に連系されたものでも、そうでないものでも構いません)。
(2)市場での発電事業者または仲介供給者から再生可能エネルギー電力を購入する(再生可能電力の購入は、再生可能エネルギー発電所との電力購入契約(PPA)、電力事業者とのグリーン電力商品契約、グリーン電力証書のいずれかの方法でも可能です)。
加盟企業が世界的に急速に増えてきているのは、「有力投資家からの投資が得やすくなる」こと、中小企業にとっては「そうしなければ大企業から取引先として選ばれなくなる」といった心配があるようです。
イオンがPPAで再生可能エネルギー100%電力を調達
イオンでは、初期費用なしで太陽光発電を店舗の屋上に設置し、電力を購入する新しい発電システムを導入することになりました。年内に滋賀県の商業施設からスタートし、数年以内に200店舗まで対象を広げることとしています。
イオンが導入するのは、PPA(事業者間での電力販売契約)と呼ばれるシステム。同社の計画によれば、発電設備会社がイオン系店舗の屋上を無償で借り、太陽光パネルを設置し運転します。
パネルなどの保守は設備会社が請け負い、一定の契約期間が過ぎるとイオンに設備が譲渡されます。
設備会社は屋上を借りることで低コストの発電ができ、発電した電力を大手電力並みの価格でイオンに販売し、設備費用を回収します。これによりイオンは、初期費用なしで手軽に太陽光発電を導入でき、CO2排出量を減らすことができます。
イオンはすでに太陽光発電で約7万kWの設備能力を持っています。18年2月には事業運営で使用する電力をすべて再生可能エネルギーで賄うことを目指して「RE100」に加盟しました。2050年までに事業で使う電力を100%再生可能エネルギーで賄う計画です。
イーレックス、再生可能エネルギー100%電力で東電と新会社
また、特別高圧市場で実績のある老舗企業の「イーレックス」が、東京電力エナジーパートナー(EP)と小売電気事業を手掛ける新会社「エバーグリーン・マーケティング株式会社」(egm)を設立しました。
大きな工場やオフィスビル、スーパーなど大規模小売店、家電など量販店、商店、町工場などが対象の特別高圧および高圧分野は、大手電力同士あるいは大手電力会社と新電力が需要家の奪い合いで激突する市場です。
その高圧市場のライバル同士のイーレックスと東電EPが手を組むのは、「再生可能エネルギー由来電力」の販路拡大が狙いとみられています。
イーレックスは、バイオマスなど再生可能エネルギーを中心に自前の電源を持っていますが、安定した電力供給に不安がありました。東電と手を組むことで特別高圧と高圧市場への参入障壁を乗り越えようというのです。
エバーグリーン・マーケティングの主力事業の一つは、新会社の名前が示すように、再生可能エネルギー由来電力の販売強化です。
気候変動対策に向け、事業用電力を再生可能エネルギー由来100%とする国際イニシアティブ「RE100」への加盟を表明する企業が増えてきているという背景があります。
両親会社の協力を得て再生可能エネルギー由来100%の電力プランを積極的に提案して販売拡大を狙っています。
イーレックスは全国に6か所(計画中も含む)、35万kWの発電所を持つ国内最大のバイオマス発電所事業者です。
しかし、「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」(FIT)を利用しているため、発電する電気は電力会社に売電しているので、CO2排出ゼロの環境価値をもつ電気としては一般販売出来ません。
再生可能エネルギー由来100%として販売する場合は、非化石証書などと組み合わせてCO2排出係数ゼロの電力を供給するしかないのです。業容を拡大するためには供給力に不安があるので、東電EPからの供給に期待するというわけです。
東電EPには、高圧需要分野に同社の子会社「テプコカスタマーサービス(TCS)」があります。また、東電EP自身も再生可能エネルギー由来100%電力を法人向け電力プラン「アクアプレミア」を販売しています。
京セラが関電と太陽光屋根貸しサービス
京セラと関西電力が太陽光発電の屋根貸しサービスなどを行う新会社「京セラ関電エナジー合同会社」を4月1日付けで設立しました。
新会社は関東、中部圏を対象に2019年秋頃のサービス開始を予定しており、24年度には累計4万戸へのサービス提供を目標にしています。小売電気事業者としての登録後、この夏にもサービス料金を公表し、受付を開始します。
計画によると、新会社が顧客の屋根に京セラ製の太陽光発電設備を設置し、系統電力停電時には太陽光発電の自立運転で電気を使用できます。対象の顧客は新築の戸建て住宅で、発電設備の規模は10kW未満を想定しています。
新会社は太陽光で発電した電力と、天候不順などによる出力不足分を補う(電力会社からの)系統電力を顧客に売電します。系統電力は関電グループから調達します。サービス提供期間は原則10年間です。
再生可能エネルギーの主力である太陽光発電の弱点は、天候により出力が不安定なこと。この弱点を大手電力会社に補ってもらい、家庭用太陽光発電の販路を拡大したい京セラ。関東・中部地域の家庭用電力市場で、販促の足掛かりを得たい関電との利害が一致したのでしょう。
執筆者:藤森禮一郎(ふじもり れいいちろう)
フリージャーナリスト