更新日: 2019.07.15 その他暮らし
洋上風力発電のこれからと今の課題
欧州・北海では最大出力1GW(100万kW)以上の世界最大の洋上風力発電プロジェクトの建設が進み、その一部が完成し営業運転を開始したと、英国メディアが報じています。
フリージャーナリスト
中央大学法学部卒。電気新聞入社、電力・原子力・電力自由化など、主としてエネルギー行政を担当。編集局長、論説主幹、特別編集委員を経て2010年より現職。電力問題のコメンテーターとしてテレビ、雑誌などでも活躍中。主な著書に『電力系統をやさしく科学する』、『知ってナットク原子力』、『データ通信をやさしく科学する』、『身近な電気のクエスション』、『火力発電、温暖化を防ぐカギのカギ』、『電気の未来、スマートグリッド』(いずれも電気新聞刊)など多数。
世界最大100kWの洋上風力が運開へ
件のプロジェクトは、風力発電事業などを展開するデンマークのエルステッド社がイングランドのハーバー川河口から120kmの北海沖合で開発している「ホーンジー・プロジェクト1」です。
1基出力7000kWの大型風車174基を予定、すでに50基以上が完成しているといいます。全てが完成し営業運転を開始すると、英国の100万世帯以上に電力を供給できると試算しています。
2020年に完成後の合計出力は121万kWに達し、洋上風力発電所としては世界最大の発電所となります。
これまで運転を開始している最大の発電所は、同じエルステッド社がイングランド西岸のアイリッシュ海に設置した「ウォルニー・エクステンション・プロジェクト」で、出力は66万kWです。エルステッド社は、ホーンジーに引き続き、ヨークシャー海岸沖約100kmの北海に「ホーンジー・プロジェクト2」を計画しています。
出力は1.4GW(140万kW)で、約130万世帯以上に電力を供給できる出力です。
北海には出力1億kWの計画も進行中
北海にはこれ以外にも、日本企業が参加する100万kW級の風力発電プルジェクトが相次いでいます。が、圧巻はオランダ、デンマーク、ドイツの送電系統運用者(TSO)が協定を結んで進めている「風力発電人工島建設計画」です。
オランダ、デンマーク、ドイツ、英国、ノルウェー、ベルギーの欧州6カ国からほぼ等距離の北海の中央に人工島を建設し、約1万基の風力発電を建設します。100GW(1億kW)の発電をして、北海湾岸に住む最大1億人に電力を供給する計画です。
スケールの大きな計画ですね。北海は水深が50~60mと浅く、風況も穏やかで風力発電向きの地域です。央部でも100m超ですから、着床式の風力発電所の建設に向いています。
かつて北海油田・ガス田で有名でしたが資源は涸渇してきていて、いま北海は風力にとって「宝の海」です。
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洋上風力発電 日本は実用目前
日本の場合はどうでしょうか。
風力発電は陸上が中心で、洋上発電は実用一歩手前の様相です。海洋国家で四方を海に囲まれていますが、北海のような好条件の海洋には恵まれていません。遠浅の海岸は少なく、数10m沖合に行くと急に海が深くなり、水深も数100mにもなります。
ですから、海底に備え付ける着床型の発電所は不向きで、発電所を海中に浮かべる「浮体型発電所」が有望だとみられています。まだ実績に乏しい発電方式で、大手電力会社が中心になって実証試験を進めている段階です。
日本は台風が多いので、風況も安定しません。台風が来れば発電停止に追い込まれます。
海洋風力発電の適地は東北・北海道に偏在しています。地元だけでは消費しきれませんから、関東・中部・関西方面に送電する必要がありますが、地域間を連係する送電線に空き容量がないため、新しく連携送電線を建設する必要があります。このコスト負担問題も海洋発電を実用化する際の改題になってきますね。
「原発〇〇基分」の表現は間違い
ところで、再生エネルギー発電所の規模を説明する際に、原発〇〇基分との表現が使われますが、これは正確な表現ではありません。
例えば、ホーンジーの合計出力は120万kWですが、60万kWの原発2基分と表現するのは間違いです。なぜなら発電量が異なるからです。原発の稼働率は80~90%ですが、風力発電は天候次第で出力が変動し、ホーンジーの場合は37%程度だそうです。
最大出力が同じでも、設備の稼働率が異なります。風力発電は原発の半分ほどですから、作る電気の量も半分ということになります。
同じ出力では原発>再エネ
陸上風力発電は、海洋ほど風況が良くないので、稼働率はさらに低く20%台ですから、発電量は原発の3分の1程度だそうです。
原発出力=再エネ電力規模とはならないのですね。
同じ出力規模だと発電量(kWh)は、原発>再エネとなります。
執筆者:藤森禮一郎(ふじもり れいいちろう)
フリージャーナリスト