更新日: 2022.06.20 教育ローン
奨学金が日本でも「出世払い」に!? 所得に応じて返済するオーストラリアの奨学金「HECS-HELP」とは?
政府は教育未来創造会議で「出世払い」方式の新たな奨学金を創設しようと検討しています。日本が今後モデルとして据えている、オーストラリアの奨学金「HECS」をご存じでしょうか?
本記事ではこのHECSの概要を解説します。日本の制度とどこが違うか踏まえながら解説するので、参考にしてみてください。
執筆者:川辺拓也(かわべ たくや)
2級ファイナンシャルプランナー
HECSはオーストラリアが採用した所得連動方式の奨学金システム
HECSとは、1989年にオーストラリアが世界で初めて導入した、所得に応じて教育ローンを返済するシステムです。HECSは現在HECS-HELPと名前を変えていますが、主な特徴は以下の3点です。
・HECSを利用している場合は在学中の授業料は免除
・融資を受けられる金額の上限は10万9206豪ドル(約990万円)で無利子
・年収が4万7014豪ドル(約427万円)の所得から源泉徴収によって返済スタート
※金額は、1豪ドル=90.79円で計算しています。為替レートは変動する可能性があります。
HECSの特徴は、大学に在学中は授業料を払わなくてもよい点です。一般的に、大学は在学している生徒に対して授業料を求めますが、HECSを利用した学生は政府の介入で支払う必要がありません。
大学を卒業後に、収入が4万7014豪ドル(約427万円)以上になると、返済がスタートする仕組みです。そのため、所得が一定の水準に達しないと奨学金の返済義務が発生しません。卒業後は本人の所得に応じて、段階的に返済する金額の割合を大きくしています。
「出世払い」としているポイントは、所得の上昇に応じて返済する割合が増えていく点です。
日本の奨学金にも適用されている所得連動返還方式
日本の奨学金にも、所得連動返還方式は適用されています。JASSO(独立行政法人 日本学生支援機構)が提供している第一種奨学金では、所得連動返還方式の選択が可能です。第一種奨学金とは無利子で融資を受けられる奨学金で、学力と家計水準の条件に合致した場合に利用できます。
所得連動返還方式は、図表2にあるように第一種奨学金にだけ設けられている制度です。そのため、第一種奨学金ではない方式で奨学金を利用している場合は、選択できません。
学生自身が大学をはじめとする高等教育機関から、授業料を徴収されるかどうかも大きな違いです。日本の場合は奨学金を利用した場合、大学に授業料を納めますが、オーストラリアの場合は大学に授業料を納めません。
以上から、同じ所得に連動した返済方法をとっていても、大きく内容が違います。
日本の奨学金に大きな影響を及ぼす可能性が高いオーストラリアのHECS
オーストラリアのHECSについて、日本の奨学金と制度を比較しながら解説しました。HECSの利用によって、オーストラリアでは低所得学生でも大学進学率は増加したと発表されています。
進学率の格差までは解消されていない点も指摘されているので、必ずしも所得連動返還方式をすることが教育格差の解消につながるとはいえないでしょう。政府が奨学金や教育制度について、今後どのように舵を切るか注目です。
出典
公益財団法人 未来工学研究所 所得連動型教育費負担制度による高等教育費の家計負担の軽減に関する調査研究
Australian Government 2022 Commonwealth supported places and HECS‑HELP information
独立行政法人 日本学生支援機構 第一種奨学金(無利子で借りる)
独立行政法人 日本学生支援機構 所得連動返還方式のご案内
内閣官房 教育未来創造会議 資料
執筆者:川辺拓也
2級ファイナンシャルプランナー