更新日: 2021.05.28 その他老後
40代からできる「おひとりさまの老後準備」どう備えるべき?
マンションを買う? 一戸建て? 賃貸住宅? 住居に関する考え方はもちろん、貯蓄額、老後家計の考え方など、思い描く老後生活は十人十色です。よりよい老後生活に向けて、40代からできる、住居・生活・貯蓄の“選択肢”をFPがご紹介します。
執筆者:西山広高(にしやま ひろたか)
ファイナンシャル・プランナー(CFP®)、上級相続診断士、宅地建物取引士、宅建マイスター、西山ライフデザイン代表取締役
http://www.nishiyama-ld.com/
「円満な相続のための対策」「家計の見直し」「資産形成・運用アドバイス」のほか、不動産・お金の知識と大手建設会社での勤務経験を活かし、「マイホーム取得などの不動産仲介」「不動産活用」について、ご相談者の立場に立ったアドバイスを行っている。
西山ライフデザイン株式会社 HP
http://www.nishiyama-ld.com/
ひとりで生きていくことを選択する人が増えている
国立社会保障・人口問題研究所が公表する「人口統計資料集(2021年)(※1)」によると、2015年の「50歳時の未婚率」は男性が23.37%、女性は14.06%となっています。今から約50年前の1970年には男性1.70%、女性3.33%であったことを考えれば、その割合は非常に大きくなっているといえます。
「50歳時の未婚率」とは、総務省統計局「国勢調査報告」による45~49歳と50~54歳における率の平均値によって算出したもので、これ以上年をとってから結婚する可能性は少ないと考えられることから、生涯独身でいる人の統計指標ともされています(※2)。
「結婚せずに生きていく」ことを選択する方が増えているのは明らかです。日本の教育では「集団生活への適応」を美徳とする考え方が強いことから、孤独・孤立をあたかも悪いことのように捉える機運があるように筆者は感じます。
しかし、内向的な性格の方もいらっしゃいますし、そうした方にとっては、むしろひとりのほうが自分の持つ力を発揮できるということもあるかもしれません。「おひとりさま」を選択することは、決して悪いことではありません。
一方で、人間はひとりでは生きられないともいえます。まったく誰ともかかわらず、誰にも負担をかけずに過ごすことは不可能です。
経済面での問題点
生きていくうえでは少なからずお金がかかります。住宅関連費、食費、被服費、そのほかにもかかる費用はあるでしょう。こうした生活に必要な資金を確保することは夫婦・家族があっても必要なことですが、ひとりの場合には、自分自身で老後にかかる費用まで確保する必要があります。
現在の資産状況に加え、今後予測される収入と支出を考慮した老後のための資産形成をしっかり検討しておく必要があります。
<老後資金の考え方の手順>
1.現在の資産状態の把握
現在の主に金融資産も資産状況を把握します。金融資産は流動資産、すなわち現預金や株式・投資信託など比較的換金しやすい資産のことを指します。不動産などのように資金化するのに時間がかかる資産もお持ちであれば把握しておきたいところですが、金融資産とは分けて考えます。
2.今後の収入予測
給与を得ている人であれば給与収入がメインです。個人事業主や不動産賃貸などによって収入を得ている人などもいらっしゃるでしょう。そうした方は、手元に残る可処分所得を把握する必要があります。厳しめに考えておくほうが安全です。
3.今後の支出予測
日常の基本的な生活費(食費、水道光熱費、通信費、被服費など)、住居関連費(賃貸であれば家賃、更新料、保険料など。持ち家であれば住宅ローン、固定資産税、管理費、修繕費など)、保険料、旅行や趣味などのレジャー費や交際費なども含め、月ごとあるいは年ごとに予測します。少し余裕をもって計画しておいたほうが安全です。
4.キャッシュフロー表の作成
現在の資産状況をベースに毎年の収入と支出の予測を反映し、年ごとに金融資産残高を計算したものがキャッシュフロー表です。老後100年といわれる時代であり、長めの期間。少なくとも自分が90歳、できれば100歳になるまでのキャッシュフロー表を作成するのがよいでしょう。エクセルなどの表計算ソフトを使える方は利用したほうが便利です。
<キャッシュフロー表サンプル>
(表:筆者作成)
非常に簡易なものですが、上のような表になります。
FP相談では、現状の把握と改善策を検討するために、それぞれの項目についてより詳しく記載したキャッシュフロー表を作成するのが一般的です。把握し、内容を分析するためにはこれよりも詳細情報が必要ですが、この表でもある程度の状況を把握することは可能です。
キャッシュフロー表を作成し、年ごとの金融資産の残高を確認することで、将来資金が枯渇しないことを確認します。もし、金融資産が枯渇してしまうと予測される場合には早めに対策が必要です。高齢になってからでは、対応が難しくなります。
住宅の考え方
キャッシュフロー表を作成するとわかると思いますが、生活していくうえで住宅にかかる費用は少なくありません。賃貸に住み続けるか、持ち家を取得するかは悩ましい問題です。それぞれの人の生活スタイルによっても異なるため、一概に「どちらが正解」ということはできません。しかし、それぞれにメリット・デメリットがあります。
■賃貸のメリット・デメリット
賃貸に住むことの最大のメリットは、ご自身のライフスタイルの変化に合わせて住み換えることが容易ということでしょう。
一方、デメリットは生きている限り家賃を負担し続けなければならないということです。特に、年金生活に入ると負担が重くなります。収入が減ったからといって急に生活レベルを落とすことは容易ではありません。
また、介護が必要になったときには有料老人ホームにお世話になるかもしれません。こうした可能性も考慮し、年金生活に入る前にしっかり資産形成をしておくことが望ましいといえます。
もうひとつ、覚えておかなければいけない問題があります。高齢になってから別の賃貸住宅に引っ越す場合、連帯保証人など自身の身元と万が一の際にかかる費用を負担してくれる人が必要になります。最近は家賃や連帯保証については一定の保証料を支払うことで「保証会社」を利用できるケースが増えました。
しかし、貸主(=大家さん)としては、入居者に何かあった場合にすぐに連絡が取れる「緊急連絡先」としてお近くにお住まいの身内の方を求めるケースがほとんどです。そうした人がいないと、入居審査が通らないどころか、審査すらしてもらえないケースが少なくありません。
どうしてもそうした人が見つからない場合には自治体やその関連団体などが協力してくれるケースもあるようですが、できればそうしたことをお願いできる身内の方を確保しておきたいところです。
■持ち家のメリット・デメリット
持ち家の最大のメリットは、「ローンが終われば自分のものになる」ということでしょう。
ローンの返済が終われば住宅費負担が小さくなり、その先の住居に関する不安は小さくなります。
一方、持ち家のデメリットは「容易に住み換えられない」「住宅ローンの返済が長期におよぶ」ということでしょう。また、持ち家を取得した後も固定資産税などの税金や、リフォームなどの負担があります。マンションならば管理費や修繕積立金もかかります。
こうした、自分の資産でだからこそかかる費用負担を念頭に置く必要があります。
自分がこの世を去った後のことは?
ご自身が亡くなったとき、身元を引き受け、葬儀を手配し、遺品を整理してくださるのは誰でしょう。「葬式なんていらない」といっても、火葬はしなければなりませんし、共同墓地に入ったり、永代供養にしたりするにしても手続きをしてくれる人は必要です。
先述の賃貸住宅の場合だけでなく、持ち家でもこの問題がなくなるわけではありません。どなたかに身元保証人や緊急連絡先を引き受けてもらう場合、引き受けてくださる方が見返りを求めていないとしても、そうした労力を割いてくださることに対し、何らかの形で応えられるようにしておいたほうがよいのではないかと思います。
そうした対応を誰かにお願いするためにも「遺言書」は有効です。
遺言書では、残される遺族・相続人に対し、遺産分割方針を示すだけでなく、相続人以外の人に「遺贈」、すなわち自身が亡くなったことで効力を発生する「贈与」を行うことも可能です。
どなたかに自分が亡くなった後の手続きを託す代わりに、多少の資産を譲り渡す「負担付き贈与」を指定することもできます。遺贈はそれを受ける人(=受遺者)が受諾しなければ成立しないため、確実とはいえません。
また、遺贈を行う場合には「遺言執行人」を指定しておくべきであることも注意が必要です。頼れる親族がいない場合でも、生前に良好な関係を築いていた身近な方や、弁護士、司法書士、FPなどの専門家を遺言執行人に指定しておくことで、スムーズに手続きを進められる可能性が高まります。
まとめ
ひとりで生きていくことを選択することは、決して悪いことではありません。しかしながら、まったく誰の世話にもならずにいることは不可能です。また、高齢になってから老後資金が不足すると、回復することが難しくなります。
住居についても、賃貸であれば、引っ越しを余儀なくされるような場合に身元を保証してくれる方や、緊急連絡先を引き受けてくださる方がいないと苦労することになります。
いざというときに備えておくことは重要です。万が一のことが起きたときのためにも身の回りを整理しておくとともに、遺言書を活用するなどし、不安を軽減する策を講じておきましょう。
(※1)国立社会保障・人口問題研究所「人口統計資料集(2021年)」
(※2)生命保険文化センター「「50歳時の未婚率」は何を意味する?」
執筆者:西山広高
ファイナンシャル・プランナー、宅地建物取引士、宅建マイスター(上級宅建士)、上級相続診断士、西山ライフデザイン代表取締役