更新日: 2021.09.29 その他老後
高齢者の資産運用。リスク型商品は徐々に減額する
銀行預金だけでは資産が増えない
近年は低金利時代が長期化し、銀行の定期預金も普通預金との差がなくなるほど魅力がありません。一方で米国株に代表される海外の株式などは、年に10%以上の収益をあげるものもあり、投資家の注目を集めています。証券会社もネット取引が一般的となり、以前のように立派な店構えで敷居の高い存在ではなくなりつつあります。
そのため30歳、40歳の若い世代だけでなく、会社を定年退職した年代の方でも、昔に比べて気軽に外国株式や外貨建て投資信託、外貨預金ができるようになっています。なかには年10%近い金利の付く新興国通貨もあり、購入したいという意欲が出てくる人もいらっしゃるでしょう。しかしこうした商品は非常にリスクが高く、貨幣価値が下がり期待する収益が上げられないどころか、大きな損失を被る可能性もあります。
老後の資金を少しでも増やしたいと思いとった投資行動が、結果として保有する金融資産を大きく棄損させる結果となっては意味がありません。
うまい投資話には乗らなかったとしても、自分の自己責任で行った投資行動が、失敗に終わることは十分に考えられます。若い時であれば、取り戻せる機会もあるかもしれませんが、定年後で収入の中心が年金だけだと、失った金融資産は大きく響き、取り返しがつかなくなるかもしれません。
まずは高リスク商品を減らす
安全資産への移行は大切ですが、ほとんどが低金利の金融商品では資産が増えることもほとんど期待できません。例えば、金融資産のうち、4~5割を定期預金と国債というわけにもいかないかもしれません。資産は減る可能性は確かにありませんが、低金利の金融商品は元本確保型資産で持つ必要はあるにせよ、これが9割を超えるようだと逆に困るかもしれません。
大切なポイントは、(1)極端に高リスク型の商品は減らす、(2)高齢になるほど安全資産の比率は高める、という資産管理の原則を維持したいものです。
例えば、高リスク商品の典型は、新興国通貨への投資です。米ドルやユーロといった先進国通貨の保有とは大きな違いがあります。非常に高金利な通貨も多いため誘惑に駆られるかもしれません。
この通貨を保有することで高い利息を得ることができても、政治的混乱などで通貨価値が一挙に下落し、多大な損失が起こる可能性があります。購入時や売却時に支払う手数料も高額になることがあります。それ以外でも、商品の組み立てが複雑な、外貨建ての生命保険や仕組債などは、バラ色のうたい文句に踊らされて購入しないほうが無難です。
一方で、国内・海外の株式あるいは投資信託は、銀行預金や国債と比較するとリスクはありますが、一定程度は所有して良いと筆者は思います。例えば業績が安定している会社の株式を保有していれば、配当が得られます。日本株では2~5%、米国株だと10%近い配当が得られる会社も存在します。
購入時に手数料はかかりますが、長期に保有するほどメリットが出てきます。大幅な値下がりという事態がなく、株価も安定という前提がありますが、定期預金などと比較すれば、魅力があるといえそうです。
投資信託も、株式の上昇基調や長期保有により、極端な値崩れがない限り、一定の成果が期待できるからです。例えば、株式だけに投資するのでなく、株式、債券、不動産投信などに分散投資する投資信託は、特定商品に投資するよりは低リスクです。また毎月分配金の得られる投資信託も高齢者に人気がありますが、場合によっては、元本を減らしながら配当を続ける商品もありますので、注意しましょう。
これらから得られる配当収入は、生活費として使うことも可能ですし、再投資して資産を増やすことも可能です。投資への過度な自信は禁物ですが、ある程度情報収集を行いながら、こうした金融資産を保有し続けても大きな損害を被ることは少ないかもしれません。
高齢になるにつれて安全資産を増やす
人生100年時代といわれています。例えば現在65歳の方は、80歳代の平均寿命を人生のゴールとしたプランでは、行き詰まることも考えられます。年金を含めたこれから得られる収入と、現在保有する金融資産額によって、行動パターンも変わってきます。
高齢になるほど、交際費や外食費の消費が減るかもしれません。定年退職を迎える65歳前後の方は、年金を中心とした収入が今後どのくらいあるか、現在保有する金融資産がどの程度あるか、一度棚卸しをしましょう。もし金融資産を8000万円以上保有していれば、十分に余裕をもった老後が送れるはずです。保有資産の内訳も、リスク商品を多く持ち続けても、問題がないかもしれません。
一方で、金融資産が1500万円前後の方は、株式などのリスク商品の比率が高いと、株価の暴落などがあれば、たちまち大きな損害を被ります。生活費自体の見直しを行いつつ、年齢が高くなるにつれ、株式、投資信託、外貨預金などの比率を徐々に減らし、銀行預金や国債など安全資産の比率を高めておく必要があります。一度に移し変えるのではなく、1年単位で徐々に移し変えることをお勧めします。
特に重大な病気や認知症の兆候がある場合は、家族と情報共有が大切です。預貯金の保有については、定期預金は引き出しに手間がかかるので安全な半面、相続が発生すると手続きが面倒です。
普通預金へ移管し、家族とカードの暗証番号を共有しておくと、いざというときもスムーズに引き出しができます。証券会社から対面式で買った株式や投資信託なども、ネットで取引できる形態に変更し、引き出しやすくしておきましょう。家族が誰も知らないような投資行動は避けたほうがよいでしょう。
執筆者:黒木達也
経済ジャーナリスト
監修:中嶋正廣
行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、資格保有者。