更新日: 2022.01.26 セカンドライフ
退職目前、住宅ローンが残っている場合の考え方
住宅ローンを抱えての退職後・老後、どのように考えたらよいのでしょうか。
執筆者:植田周司(うえだ しゅうじ)
CFP(R)認定者、一級ファイナンシャルプラン二ング技能士、円満相続遺言支援士(R)
外資系IT企業を経て、FPとして「PCとFPオフィス植田」を起業。独立系のFPとして常に相談者の利益と希望を最優先に考え、ライフプランをご提案します。
お客様に「相談して良かった」と言っていただけるよう、日々努力しています。
定年後も残る住宅ローン
国土交通省の住宅市場動向調査(令和2年 ※)によれば、中古を除き住宅を初めて購入した人の平均年齢は約39歳。仮に40歳で念願のマイホームを購入した場合、35年ローンを組めば完済は75歳。65歳定年とすると、退職後10年間もローンの返済が続く計算になります。住宅ローンの返済は、定年後の収入が先細るなか、現役時代と変わらぬ金額を払い続ける必要があります。
住宅ローンを組む時に「退職金を住宅ローンの一括返済に」と考えている人もいらっしゃると思います。しかし、退職後の生活設計をする上で、老後資金としての退職金の重要性はさらに高まっています。住宅ローンの返済にまわすにしても、その程度については慎重に考えたいものです。
返済方法の選び方
退職時の住宅ローンの返済は、老後資金が途中で不足しないよう、返済方法を検討しましょう。住宅ローンの金利と残高、手持ちの金融資産、退職金や年金額などをもとにキャッシュフローを作成し、返済方法を考えます。
退職時の住宅ローンの返済については、主に以下の3つの方法があります。
(1) そのまま支払いを続ける
現在は住宅ローン金利が非常に低くなっています。このような場合、無理に一括返済をしなくても、同額を資産運用にまわすことで、手元に資金を置きながら、一括返済と同じ効果を得ることができるかもしれません。
ただし、資産運用にはリスクが伴いますので、投資の知識があり、すでにNISAなどで資産運用を実践している人にお勧めです。逆に、投資経験のない人が、投資の勉強をせずに証券会社へ行くことはお勧めできません。
(2) 一括返済する
住宅ローンの残高と比較して退職金がかなり多い場合は、一括返済するのもよいでしょう。また、今まで資産運用の経験がない(または少ない)人にも、一括返済をお勧めします。リスクのある資産運用に手を出さずにすむとともに、無駄な住宅ローンの金利を払わずにすみます。併せて団信保険料も払う必要がなくなります。
ただし一括返済の直後に万が一死亡した場合は、返済した全額が無駄になりますのでご注意ください。
(3) 一部を繰り上げ返済する
住宅ローンの残高が多く、一括返済をすると退職金がほとんどなくなる、もしくは退職金だけでは足りないときは、繰り上げ返済が有効です。
繰り上げ返済には、期間短縮型と、返済額軽減型(返済期間は変わらず、返済額が少なくなる)があります。定年後も残りのローンを払い続ける場合は、返済額軽減型を検討しましょう。毎月の住宅ローンの支払額が減り、年金から支払うことができれば、自宅を売却せずに住み続けることができるかもしれません。
繰り上げ返済の額は可能な範囲で、ということが大切です。利息の軽減や借金の心理的不安から、本来必要な現金までも繰り上げ返済しないよう注意してください。(1)と同じように、残った退職金をNISAなどの資産運用にまわすことも、併せて検討しましょう。
65歳で定年のAさんの場合
Aさんは65歳で定年退職を迎えるにあたり、住宅ローンを退職金で一括返済すべきか相談に見えました。退職金は約1300万円あり、住宅ローンの残りの期間は9年間、残債は約1000万円でした。
単純には、一括返済したほうが利息の支払いや、団信保険料の支払いがなくなり良さそうですが、Aさんの場合、一括返済すると退職金が手元に300万円程度しか残りません。作成したキャッシュフローを見ると、手元の現預金が少なく想定外の出費があると不足する恐れがありました。
退職金を手元に残して資産運用をすることについては、リスクの伴う資産運用はできれば避けたいとのことでした。そのため、ローンの利払いや団信料など、一括返済よりもキャッシュフローが悪くなり、現状のまま毎月のローンを払い続けるのは難しい状況でした。
これらのことから、可能な範囲で繰り上げ返済をすることをお勧めしました。残り9年の住宅ローンも年金で払える程度になり、手元の現預金にも多少余裕ができ、老後資金の不安を解消することができました。また、不慣れな資産運用に手を出さずにすむことにも、Aさんは安心されたようでした。
退職後のローン返済が困難な場合
退職金を繰り上げ返済に充てても、退職後のローンが払えない場合があります。そのようなときは、定年後も一定期間働くことを検討します。また、自宅を担保にしたリバースモーゲージの利用が可能か相談しましょう。うまく利用できれば自宅に住み続けることもできます。
どの方法も難しい場合は、売却の検討が必要になります。ローンが払えなくなってからでは、任意売却や競売の手続きとなり、いろいろな意味で制約ができるかもしれません。もし売却するのであれば、ローンが滞る前に一般売却しましょう。早めに判断をするためにも、退職後のライフプランとキャッシュフローを作成することが重要です。
まとめ
住宅ローンの返済は、老後の生活設計に大きく影響します。退職金が銀行口座に振り込まれると、「残っている住宅ローンを返済してスッキリしたい」と、返済を急ぐ人がいます。繰り返しになりますが、退職金は大切な老後資金の一部です。退職後のライフプランを踏まえた上で、返済方法を決定しましょう。少しでも不安や疑問がある場合は、FP等にご相談ください。
出典
(※)国土交通省「令和2年度 住宅市場動向調査報告書」
執筆者:植田周司
CFP(R)認定者、一級ファイナンシャルプラン二ング技能士、円満相続遺言支援士(R)