更新日: 2022.03.23 セカンドライフ

特殊詐欺の標的になりやすい高齢者。手口も複雑で巧妙化

特殊詐欺の標的になりやすい高齢者。手口も複雑で巧妙化
言葉巧みに電話口でささやき、不安感をあおり、お金をだまし取る「特殊詐欺」の被害が後を絶ちません。特に狙われやすいのがひとり暮らしの高齢者です。最近では、コロナの不安に付け入った手口も増えています。対応策はあるのでしょうか。
黒木達也

執筆者:黒木達也(くろき たつや)

経済ジャーナリスト

大手新聞社出版局勤務を経て現職。

中嶋正廣

監修:中嶋正廣(なかじま まさひろ)

行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、資格保有者。

長野県松本市在住。

古典的な「なりすまし詐欺」は健在

最も典型的な特殊詐欺は、電話を使った手口です。息子やおいなどになりすまし、高齢者宅に電話をかけて、「仕事のお金の入ったカバンを電車に忘れた」「得意先の小切手を居酒屋で落とした」などと泣きながら話をし、その気にさせます。
 
以前は金融機関のATMに誘導し、そこから携帯電話で指示を与えながら、お金を振り込ませる手口が圧倒的でした。ところが最近では、金融機関側の目も厳しくなり、ATMの前での携帯電話の操作もほとんどできなりました。
 
そのため「友だちに行かせるから準備して」などと言って、仲間が受け取りにくるパターンが多くなりました。相手をあせらせて考えさせないことが、この作戦の大きなポイントです。
 
さらに、警察官、銀行員、百貨店・家電量販店社員などを名乗る人物が電話をかけてきた後で、彼らになりすまし、高齢者の自宅を訪問し、だまし取る手口が横行しています。
 
例えば「あなたのカードが犯罪に利用された」「古い預金通帳を新しく変更する」「あなたのカードを誰かが当店で使った」などと焦燥感を誘い、巧みに現金だけでなく、キャッシュカードや通帳までを持ち去る、あるいはその場ですり替える手口です。
 
新型コロナの流行に便乗した詐欺も最近の特徴です。「安い料金でワクチンの優先接種ができる」「高齢者向けコロナ給付金が出る」などと言い高齢者宅を訪問します。そこで「手続きに必要なので預かります」と言って、現金やカードを持ち去る手口です。
 

被害者の多くは高齢者

特殊詐欺に遭うのは、65歳以上の高齢者が多いです。被害金額も、100万円以下のこともありますが、500万円、場合によっては1000万円を超えるケースさえあります。
 
電話を使った詐欺だけではなく、訪問販売により高額な物品を売りつける、高金利を吹聴し粗悪な金融商品を売りつける、などの手口が後を絶ちません。なぜ多くの高齢者が、だまされてしまうのでしょうか。
 
その理由の1つは、ひとり暮らしで相談相手が少ない高齢者が被害に遭いやすいことです。急いで対応しようと焦り、頭がパニック状態になってしまう傾向にあります。
 
電話を使った詐欺は、いかに相手をあせらせるか、平常心を失わせるかを考えています。訪問販売による詐欺は、話し相手の少ない高齢者と親しくなり、信頼感を植え付けながら、商品にありもしない効能を巧みに紹介しながら売りつけるのです。
 
高齢者は比較的在宅時間も長く、スマホより固定電話を利用する方が、若い世代と比べて多いのではないでしょうか。コロナ禍で外出の機会が制限され、来訪客も少ないかと思われます。
 
電話が鳴ると反射的に受話器を取る、客が来ると喜んで話をする、といったことが、特殊詐欺の実行者に絶好の機会を与えています。これだけテレビ・新聞などで、高齢者の特殊詐欺の被害が報道されているにも関わらず、「私は詐欺にはだまされない」と過信している高齢者の方が、意外にいらっしゃるのです。
 
しかしこういう方ほど、かかってきた電話で長く話す、訪問販売の相手と親しく話し込むようになり、詐欺に引き込まれていきます。
 
お金の要求をされない世間話から、住所、氏名、年齢、銀行口座などの個人情報を伝えてしまうこともあります。詐欺グループが暴力団関係者とつながっている場合も多く、相手を刺激する不用意な発言は禁物です。
 
「自分だけは詐欺に遭わない」と過信せずに、他人との長話は避け、おかしいと思ったらすぐに身近な人や警察などに相談しましょう。誰にも相談せずに1人で判断することは避けたいものです。
 
親がひとり暮らしをしている方も、面倒だと思わずに親と電話連絡を頻繁にとり、常に特殊詐欺への注意を喚起することが大切です。
 

詐欺から高齢者を守る努力を

高齢者を特殊詐欺から守る努力も、社会全体で進んできました。まず金融機関のATMから振り込ませる手口への対応策として、金融機関のATM付近では、携帯電話の通話を遮断しました。ATMに誘導し、そこから振り込ませる手口を防ぐには効果的です。
 
さらにATMから現金の振り込みに限度額を設定した、多額のお金を振り込む高齢者に積極的に声をかけた、などの対応を金融機関が行ったために、ATMを介した特殊詐欺の被害は減ってきたといえます。
 
そのため詐欺グループは直接自宅を訪れ、現金やキャッシュカードを受け取る手口を使うようになりました。その防衛策としては、留守番電話にして出ない習慣を徹底する、電話機に自動録音機能をつけ相手に警告感を与える、着信時に迷惑電話を通知する旨の注意喚起をする、などの自衛措置の徹底です。
 
子どもの同僚だと名乗ったとしても、初めて会う人には、現金はもちろん、預貯金通帳、キャッシュカードを絶対に渡さないことです。特にひとり暮らしの高齢者は、子どもや孫などと相談の上、月に3~4回程度は電話で話をする習慣を身に付けたいものです。
 
そのことで、子どもや孫の話し方の特徴や会話のテンポを、耳で体感できます。そうすれば、別の人間からの電話とかなり区別がつけやすくなり、詐欺被害の軽減に役立つといえます。
 
高齢者の多くは、電話口で対応すると、どうしてもとっさの判断が遅れがちです。実際に、警察官、金融機関の職員、百貨店・量販店の社員などが、お金やキャッシュカードを預かる目的で自宅を訪れることは絶対にありません。
 
普通に考えれば当たり前のことですが、詐欺グループの人間は、焦りや恐怖心をあおり、通常の判断を狂わせようと仕組んで行動します。電話口で判断に迷ったら、取りあえず電話を切る習慣を身に付けましょう。このことを肝に銘じて行動する必要があります。
 
執筆者:黒木達也
経済ジャーナリスト
 
監修:中嶋正廣
行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、資格保有者。

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