更新日: 2022.05.12 セカンドライフ
老後資金、貯められなかったらどうすればいい? どんなことが想定される?
老後資金が貯められなかった場合、どのように家計をやりくりしたら良いのでしょう。資金を貯められることに越したことはないのですが、そうならなかった場合にどうしたら良いか、解説します。
執筆者:中村将士(なかむら まさし)
新東綜合開発株式会社代表取締役 1級ファイナンシャル・プランニング技能士 CFP(R)(日本FP協会認定) 宅地建物取引士 公認不動産コンサルティングマスター 上級心理カウンセラー
私がFP相談を行うとき、一番優先していることは「あなたが前向きになれるかどうか」です。セミナーを行うときに、大事にしていることは「楽しいかどうか」です。
ファイナンシャル・プランニングは、数字遊びであってはなりません。そこに「幸せ」や「前向きな気持ち」があって初めて価値があるものです。私は、そういった気持ちを何よりも大切に思っています。
老後資金は年金だけでは足りない
総務省統計局の「家計調査報告(家計収支編)」によると、高齢者のいる世帯(65歳以上の者がいる世帯で、世帯主が65歳以上、かつ、無職の場合)の1ヶ月間の収入と支出は、以下のとおりです。
・収入(実収入):24万7768円
・支出(実支出):26万247円
実収入の内訳は、経常収入が24万1854円、特別収入が5914円です。公的年金は、経常収入のうち「他の経常収入」に分類され、その額は20万179円となっています。ちなみに、経常収入の内訳は、勤め先収入2万9672円、事業・内職収入5448円、他の経常収入20万6734円となっています。
実支出の内訳は、消費支出が22万7585円、非消費支出3万2661円です。消費支出は、食費、住居費、水道光熱費、医療費、娯楽費などのことです。非消費支出は、税金、社会保険料などのことです。
家計調査報告はあくまで平均値ですが、ここから分かることは、月間収支がマイナス1万2479円(年間収支はマイナス14万9748円)になるということです。
ただし、実収入には勤め先収入や事業・内職収入も含まれています。収入を公的年金だけ(20万179円)で考えた場合、月間収支は、およそマイナス6万円(年間収支はマイナス72万円)となります。
なお、日本年金機構の「令和4年4月分からの年金額等について」によると、令和4年度の厚生年金の平均受給月額(夫婦2人分の老齢基礎年金を含む標準的な年金額)は、21万9593円となっています。この金額で計算すると、実支出との差はマイナス4万654円(年間ではマイナス48万7848円)となります。
老後資金が貯められなかった場合の選択肢は3つ
一般に、老後資金は年金と貯蓄で賄われます。先の例でいえば、年金と実支出の差額はおよそ5万円と想定され、この5万円については貯蓄で賄うと考えられます。老後資金がいくら必要かは、不足する金額に想定される年数を乗じることで計算します。
例えば、毎月貯蓄を5万円ずつ取り崩すとした場合、それが30年(65歳から95歳まで)にわたると想定するなら1800万円、25年(65歳から90歳まで)にわたると想定するなら1500万円が必要になります。もし、老後資金を貯められなかった場合、以下のことを検討してみると良いでしょう。
・65歳以降も働く
・年金を繰り下げて受給する
・資産を売却する
1つ目は、65歳以降も働くということです。年金に加え、給与を受け取るということです。ただし、「在職老齢年金制度」には注意が必要です。
在職老齢年金制度とは、「厚生年金受給者が厚生年金の被保険者であるとき、受給している厚生年金の基本月額と総報酬月額相当額に応じて、年金額が減額される」というものです。
減額される基準は、基本月額と総報酬月額相当額の合計額が47万円以下であるかどうかです。合計額が47万円以下であれば年金は全額支給されます。
2つ目は、年金を繰り下げて受給するということです。公的年金は、受給年齢を75歳まで引き上げることができます。このとき、受給を1ヶ月繰り下げる(遅らせる)ごとに、年金受給額が0.7%上乗せされます。
例えば、受給開始を66歳とした(1年繰り下げた)場合、年金受給額は8.4%上乗せした金額になり、その金額を生涯にわたり受け取ることができます(最大で84%)。
3つ目は、資産がある場合は、資産を売却するということです。資産には持ち家も含まれます。持ち家を売却する場合は、賃貸物件に引っ越すか、リースバックを利用して自宅に住み続けるかの選択肢があります。
リースバックとは、自宅を売却した後、自宅を賃借することによってそのまま住み続けることができるというサービスです。
なお、「支出を減らす」「お金を借りる」「生活保護を受ける」については、選択肢に入れていません。支出を減らすことは、前提条件として考えています。お金を借りることは、返済能力を考慮して選択肢から省きました。生活保護を受けることは、“対策”とはいえないと思い、選択肢から省いています。
まとめ
総務省統計局の調査報告からも分かるように、年金を受け取るだけでは、資金が足りません。月額およそ5万円程度足りないと推察されます。支出を減らす工夫も必要ですが、それだけでは5万円の差額は埋まらないと思っておいた方が無難です。
検討すべき選択肢として、3つ挙げられます。
・65歳以降も働く
・年金を繰り下げて受給する
・資産を売却する
このうちいずれか1つ、もしくは複数を選択することで、家計が改善されないか検討してみましょう。とはいえ、頭の中でシミュレーションするのは難しいでしょう。できればキャッシュフロー表(お金の流れを把握する表)を作成して、見える化することをおすすめします。
この機会に、(できればファイナンシャルプランナーと一緒に)キャッシュフロー表を作成してみてはいかがでしょう。
出典・参考
総務省統計局 「家計調査(2021年) 3-12(高齢者のいる世帯)世帯主の就業状態別」
日本年金機構 「令和4年4月分からの年金額等について」
日本年金機構 「在職老齢年金の計算方法」
執筆者:中村将士
新東綜合開発株式会社代表取締役 1級ファイナンシャル・プランニング技能士 CFP(R)(日本FP協会認定) 宅地建物取引士 公認不動産コンサルティングマスター 上級心理カウンセラー