更新日: 2022.07.07 セカンドライフ
高齢者に人気の「敬老パス」だけど…自治体の負担が大きく見直しも進む
高齢者の外出を支援する意味で大きな効果がありますが、半面、多額の財政負担が課題となっています。
高齢者の外出促進が主な目的
敬老パスは各自治体が発行するもので、自治体ごとに内容が異なります。一定料金を支払えば「敬老パス」が交付され、パスを見せるだけで何回も乗車できる方式や、乗車のたびに低額の料金を支払う方式など多様です。また、このような敬老パスを発行しているのは、全自治体ではなく、政令指定都市などの大きな自治体が中心です。
この制度の目的は、高齢者に外出の機会を増やし、健康増進に役立ててもらうことです。特に都会に住む高齢者は、自宅中心の生活となると、足腰が弱くなる、認知症のリスクが増えるなど、結果として医療費が増え、自治体としても好ましい事態ではありません。
また、高齢者ドライバーによる事故が大きな社会問題となっており、高齢者の自動車免許所有者に、返納を促す契機にもなっています。クルマでの外出ができなくても、敬老パスがあれば外出を確保できからです。過疎に悩む市町村と違い、バス路線も多い大都市であれば、クルマを手放すことが可能になります。
優待内容は東京都と名古屋市が充実
自治体により、優待の内容は大きく異なります。では、いくつかの例をみてみましょう。
代表的な敬老パスは、東京都の「シルバーパス」です。東京都の本人負担額は、住民税の非課税者の場合は年間1000円、住民税の課税対象者の場合は年間2万510円、この2種類です。
70歳以上が対象で、都営地下鉄、都内のバス(民営バスを含みます)、日暮里舎人ライナーに、パスを見せるだけで「乗り放題」です。ただし東京メトロ(地下鉄)などの鉄道は対象外です。制度自体の見直しも、現段階では予定されていません。
名古屋市の「敬老パス」も、利用者にとっては好評です。年齢が65歳以上で利用でき、市営バス、民営バス以外に、名古屋市内の鉄道(JR、名鉄、近鉄)も、利用できます。本人負担額は、所得に応じて1000円、3000円、5000円があり、パスがあれば無料で乗車できますが、2022年から、年間利用回数が730回までに制限されました。
低額料金を負担して乗車する
札幌市の「敬老優待乗車証」は、本人負担額に応じて利用できます。年間のチャージ額、例えば1000円のチャージで1万円分、最高額の1万7000円のチャージで、7万円分が利用可能となります。ICカードが発行されて、乗車時に引き落とされます。70歳以上が対象で、札幌市内の地下鉄、バス(民営を含みます)、市電が利用可能です。
仙台市の「敬老乗車証」は、チャージをすれば、通常運賃の1割の金額で乗車できる仕組みです。年間12万円分まで利用できます。市営の地下鉄、市営バス、宮城交通バスに乗車できます。70歳以上の方が対象で、福祉対象の割引もあります。
横浜市の「敬老特別乗車証」は8段階に分かれています。障がい者は無料ですが、所得に応じて支払額は増え、最高額は2万500円です。70歳以上が対象で、市内バス(民営を含む)と市営地下鉄、金沢シーサイドラインに乗車できます。乗り放題方式のため、市やバス会社の負担が大きく、制度の見直しも検討されています。
大阪市の「敬老優待乗車証」は、毎回50円を支払えば何度でも乗車できるシステムです。ICカードに事前にチャージし、乗車の際に50円ずつ引き落とされる仕組みです。70歳以上の人が対象で、従来大阪市が運営し民営化された大阪シティバスとオオサカ・メトロで利用できます。
乗り放題から少額料金を負担する方式へ
敬老パス制度を抜本見直しや廃止した自治体もあります。
政令指定都市では、京都市が抜本的に見直します。これまで所得に応じて、負担ゼロから最高1万5000円の負担で20万円分まで乗り放題だった「敬老優待乗車証制度」を、2022年10月から、(1)70歳受給を段階的に75歳に引き上げる、(2)利用者の負担額を引き上げる、(3)所得制限を設け年間所得700万円以下を対象にする、という見直しがなされます。
また、千葉市などは、制度自体を廃止しています。千葉市の場合、以前は敬老乗車券として、利用制限のある市営バス回数券とモノレールカードを、70歳以上の希望者に配布していましたが、2017年以降廃止しています。廃止を決断した理由は、財政事情などが大きく影響していると考えられます。
また政令指定都市の、さいたま市や相模原市には敬老パスの制度自体がありません。
制度的な見直しは、まず「乗り放題」にメスが入りました。札幌、仙台、大阪のように、乗車時に少なくとも1割は負担する制度へと見直されると、利用者はかなり減るようです。
横浜市は乗り放題のため、市が想定していた以上に乗車率が増え、バス事業者からも見直しを求める要望が強くなっています。乗車時に一定料金を負担する制度にすれば、乗車回数の減少になることは間違いありません。さらに高齢者の増加に応じて、利用対象年齢の引き上げ、利用者の負担額の増加が必要かと思います。
名古屋市は利用回数を制限しましたが、それでも、東京都の「乗り放題」と名古屋市の「65歳から」「JRや私鉄にも乗れる」という条件は、非常に恵まれています。一方で、制度自体が財政負担を理由に、変更または廃止する都市も今後は増えるかもしれません。
自治体による住民サービスの一環で、地域住民からすれば恩恵を受けられる評価の高い政策ですが、必ず予算措置を伴います。高齢者優遇策との批判も根強くあります。また敬老パスのない近隣自治体の住民からすれば、不公平感を味わうことになるかもしれません。
平均寿命が大きく伸び、団塊の世代が75歳を超えようとしている現在、制度設計の議論は、各自治体で今後増えてくると思われます。
出典
東京都福祉保健局 シルバーパスについて
名古屋市 敬老パスの交付
札幌市 ホームページ[敬老優待乗車証(敬老パス)]
仙台市 ホームページ(敬老乗車証)
横浜市 ホームページ(敬老特別乗車証(敬老パス))
大阪市 70歳になったら敬老優待乗車証(敬老パス)が利用できます
京都市情報館 敬老乗車証制度について
千葉市 よくある質問と回答 「敬老乗車券」が廃止されましたが、いつまで使用できますか。
執筆者:黒木達也
経済ジャーナリスト
監修:中嶋正廣
行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、資格保有者。