更新日: 2022.08.31 介護
親が認知症で介護が必要になった! 介護費や医療費を抑える方法とは?
特に、認知症は介護が必要となる主な原因の1位であり、2025年には、65歳以上の約5人に1人程度が認知症有病者になる、と推測されています。
親が認知症になると、介護や医療にどのくらいお金がかかるのか、どこから支出するのかなど、心配している方も多いのではないでしょうか。
今回は、認知症による介護費や医療費を抑えるために、知っておきたい制度や方法についてお伝えしたいと思います。
介護費・医療費を抑えるために
認知症で介護が必要になったら、どのくらいのお金が必要になるのでしょうか。
在宅介護であれば親の年金で賄えることも
在宅介護を行う場合、訪問ヘルパーやデイサービスの利用など、介護保険による介護サービスの利用にかかる費用と、 医療費やおむつ代などの介護サービス以外の費用があります。
公益財団法人 家計経済研究所のデータによると、両者を併せた在宅介護にかかる1ヶ月あたりの費用の合計は、全体平均で5万円でした。
厚生労働省によれば、65歳以上の高齢者のうち、半数以上が年金収入だけで暮らしていますが、認知症が軽度の状態かつ在宅介護であれば、親の収入が国民年金(月額5万5809円/平成30年度厚労省資料より)だけでも、ほぼ賄えるといえるかもしれません。
しかし、在宅介護に必要なベッド代やリフォーム代といった費用は別途かかりますし、親と離れて暮らしている場合や、重度の認知症で自宅介護が難しくなった場合には、施設への入居を検討しなくてはなりません。
次は、介護費や医療費を抑えるためにはどのような方法があるのか、知っておきたい制度についてみてみましょう。
高額療養費制度
「高額療養費制度」とは、医療機関や薬局で支払う1ヶ月の医療費が一定の限度額を超えると、その超えた額が後で支給される仕組みです。入院中の食事、差額ベッド代、先進医療の費用は対象外となります。
75歳以上の後期高齢者の場合は、初めて支給対象になると申請書が届き、一度申請すると以降は申請不要になります。
また、治療が始まる前に、親が国民健康保険や後期高齢者医療制度を利用していれば、市区町村の窓口などに申請し、「限度額適用認定証(所得の区分によっては異なる)」を入手して医療機関の窓口に提出しておけば、支払い自体が限度額までになります。
介護保険サービス費用の支給限度額を知っておく
要介護認定が行われ介護度が決まると、「介護保険サービス」を利用することができます。
介護保険サービス費用は、要介護度ごとに1ヶ月の支給限度額が決まっており、本人の所得と世帯所得によって、自己負担額の割合が1割から3割まで変わります。
なお、福祉用具の購入や住宅改修については、要介護度にかかわらず、別途支給限度額が設けられています。
要介護度が高いほど支給限度額が上がり、利用できるサービスも増えますが、支給限度額を上回ってサービスを利用したときには、超えた分が全額自己負担となります。
要介護度が上がると、特別養護老人ホームなどの施設サービスや、デイサービス、ショートステイなどの基本料金も共に高くなることがあり、その分自己負担額も増えてしまいます。
もしも支給限度額を超えるほど介護保険サービスを利用しているなら、要介護度の区分変更を行うと、金銭的負担が減る可能性があります。担当ケアマネジャーなどに相談してみましょう。
高額介護サービス費
「高額介護サービス費」とは、介護保険サービスを利用する際、自己負担割合と世帯所得に応じて定められた1ヶ月の利用料の上限額を超えた場合、その超えた部分を払い戻してもらえる制度です。
2021(令和3)年8月より、改正によって高額介護サービス費、および介護保険施設の負担限度額が変更されています。自治体によっては、親が制度の対象になれば、自動的にお知らせと申請書が届く所もあります。
一定の収入がある高所得世帯では負担増となったり、預貯金などの合計によっては食費の負担が増加したりすることがあります。
また、対象にならないものとして、福祉用具の購入費、住宅改修費の利用者負担分、介護施設などの食費、居住費(滞在費)、日常生活費、デイサービスを利用したときの食事代やおやつ代があります。
負担増や対象外の費用がかさみ、生活が苦しくなる場合は、さらに「食費および居住費の特例減額措置」や「社会福祉法人等による利用者負担軽減事業制度」といった制度も利用することができます。
高額医療・高額介護合算療養費制度
上記のような制度を利用しても、なお支出が多いという場合、年単位での後払いになりますが、「高額医療・高額介護合算療養費制度」といったものがあります。算定期間は8月1日から翌年の7月31日までの1年間です。
加入している健康保険組合か、役所の窓口に問い合わせてみましょう。
そのほかに知っておきたいこと
ほかにも経済的な負担を減らす方法として、次のようなことを検討してみてもよいかもしれません。
親を扶養に入れる
親と離れて暮らしている場合でも、条件を満たせば「健康保険上の扶養」と「税金上の扶養」にすることができ、費用を抑えることが可能です。
「健康保険上の扶養」については、60歳以上の親の年収が180万円未満であり、親の収入が子からの仕送りの合計額未満であるといった条件を満たせば、子の健康保険に加入させることで親の保険料の支払いをなくすことができます。
さらに親子で同じ健康保険に加入しているなら、高額療養費制度で合算ができるので、医療費の節約にもなります。
ただし、75歳以上の親は、後期高齢者医療制度に移行し、保険料は原則、親の年金から天引きされるため、世帯合算のメリットは享受できません。
「税金上の扶養」については、親の年間所得が48万円以下などの条件が必要になりますが、それらをいずれも満たせば、子が所得控除を受けることができます。
親の年齢や所得によって控除額は変わり、こちらも親への仕送りが基準の一つとなります。
障害者手帳を取得する
障害者手帳を取得すると、公共施設の利用料の減免、医療費の助成、公営住宅への優先入居、公共交通機関の運賃割引、税金の減免といったサービスが受けられます。
認知症で体に障害がない場合には「精神障害者保健福祉手帳」、脳血管性認知症などで体に障害がある場合は「身体障害者手帳」が、市区町村の障害福祉担当の窓口で申請できます。
それぞれ受けられるサービスが異なりますが、申請は医療機関に認知症で初めてかかった日から6ヶ月過ぎてから行い、障害の程度で障害等級が決められます。
手帳を取得していなくても、「障害者控除対象者証明書」の入手で、障害者控除という一定の控除が受けられます。
また、障害の程度によっては「特別障害者控除」もありますが、これらの判定基準は自治体によって違うため確認が必要です。
親の障害者控除によって控除額が増え、住民税が非課税になれば、介護保険料や高額医療費制度などの負担が減ることもあります。
まとめ
今回は、親が認知症になり介護が必要となった場合に、介護費や医療費を抑える方法についてお伝えしました。
どのような制度が利用できるのかを情報収集しておくことで、金銭的な不安がかなり軽減するのではないでしょうか。それぞれの措置や制度は一定の要件を満たす必要がありますので、詳細については市区町村の窓口で確認してください。
金銭的な負担を抑えつつ、親にとって最良の介護を選択できるよう、早い段階で親の収入と支出、財産を正確に把握し、どこまで介護や療養費に使えるかを検討しておくことも重要です。
出典
厚生労働省 平成28年 国民生活基礎調査の概況
厚生労働科学研究成果データベース 厚生労働科学研究費補助金(厚生労働科学特別研究事業)「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」
公益財団法人家計経済研究所 在宅介護にかかる費用
執筆者:藤丸史果
ファイナンシャルプランナー