更新日: 2022.09.20 定年・退職
早期退職優遇制度を利用して退職すると、失業保険はすぐもらえないの?
答えはこうです。
「条件が合えばもらえますが、人によってもらえるタイミングと金額は変わります」
どういうことでしょうか。本記事で解説します。
執筆者:酒井 乙(さかい きのと)
CFP認定者、米国公認会計士、MBA、米国Institute of Divorce FinancialAnalyst会員。
長期に渡り離婚問題に苦しんだ経験から、財産に関する問題は、感情に惑わされず冷静な判断が必要なことを実感。
人生の転機にある方へのサービス開発、提供を行うため、Z FinancialandAssociatesを設立。
目次
早期退職優遇制度 = リストラではない
早期退職、と聞くと、報道などで耳にする「リストラ」を連想する方もいるかもしれません。しかし、「リストラ」は一般的に「希望退職制度」によるもので、本記事で扱う「早期退職優遇制度」とは違います。
そこで誤解がないように、この2つの制度の違いを押さえておきましょう。
希望退職制度とは
希望退職制度とは、「業績の悪化」や「事業環境の変化」などの理由で、会社側が募集期間を定めて希望退職者を募る制度です。応募の見返りとして、退職者には優遇措置が与えられます。
具体的には、募集期間がだいたい1ヶ月から3ヶ月ほど、優遇措置は割増退職金、未消化の有給休暇の買い上げ、希望者への再就職支援などがあります。
さらに、退職理由は通常の場合、失業保険上退職者に有利な「会社都合による退職」となります。
早期退職優遇制度とは
早期退職優遇制度とは、会社があらかじめ就業規則や規約に定めた条件に基づき、定例的に早期退職者を募集する制度です。
割増退職金などの優遇がある点では希望退職制度と同じですが、制度に応募できる従業員の条件(年齢、勤続年数など)や応募できる期間(毎年〇月〇日から〇月〇日まで、など)があらかじめ規約で決められている点が、希望退職制度と異なります。
さらに、大抵の場合退職理由は「自己都合」です。あくまで希望者が自分の意思で退職した場合の制度だからです。
失業保険の「1日あたりの支給額」は、給与と退職時年齢によって変わる
自己都合による退職の場合、失業保険は離職の日以前の2年間に、雇用保険の被保険者期間が通算して 12ヶ月以上ある場合に支給されます。
それでは、具体的にいくら、どれだけの間支給されるのでしょうか。
支給額は、次の式で計算します。
失業保険の支給額 = 基本手当の日額 × 所定給付日数
この式の内、「基本手当の日額」は、給与の額と退職時の年齢によって変わります。
具体的には、退職前6ヶ月の給与(賞与は除く)の合計を180日で割った「賃金日額」に、給付率(60歳未満の場合50~80%。賃金日額が高いほど給付率は低くなる)を掛けて算出します。ただし、賃金日額、基本手当の日額には図表1のとおり上限額と下限額が決められています(毎年8月に見直されます)。
【図表1】
(出典:厚生労働省 雇用保険の基本手当日額が変更になります 〜令和4年8月1日〜(※1) より筆者加工
失業保険の「所定給付日数」は、給与の額と退職時の年齢によって変わる。
失業保険の給付額を決めるもう一方の要素「所定給付日数」は、年齢に関係なく勤務期間(≒被保険者期間)によって90日~150日となります。
【図表2】
(出典:ハローワーク インターネットサービス 基本手当の所定給付日数(※2) より、筆者作成)
ここまでの説明を元に、例を用いて給付額を計算してみましょう。
早期退職優遇制度の利用を考えているBさん(50歳、勤続年数25年)が賃金日額を計算したところ1万5000円でした。すると、失業保険の1日あたり給付額(基本手当日額)は7500円です。
1万5000円×50%(50歳の給付率)=7500円
さらに、勤続年数(被保険者であった期間)は25年なので、図表2にあてはめると所定給付日数は150日です。
すると、支給期間満了までにもらえる失業手当の合計は7500円×150日=112万5000円となります。
自己都合退職の場合の注意点
ここまで早期退職優遇制度を利用していわゆる「自己都合」退職した場合の失業保険について見てきましたが、いくつか注意点があります。
1つ目は、支給期間に関する制限です。
退職後ハローワークで手続きを行い失業手当の受給が決定しても、7日+原則2ヶ月間(給付制限期間)は失業手当が受け取れません(※3)。
2つ目は、年金との併給調整です。
60歳以上で「特別支給の老齢厚生年金」を受給している方が失業手当を受けると、年金が全額支給停止になります(※4)。(なお、障害年金は調整の対象とはなりません)
3つ目は、ハローワークでの手続きです。
失業保険の受給期間は最長で退職した日の翌日から1年間です。手続きが遅れると支給開始日が遅れ、結果として所定給付日数の一部がカットされてしまう可能性があります。退職後はすみやかにハローワークで手続きをするようにしましょう。
制度への応募の際は、メリット・デメリットの十分な検討を
本記事では詳細を割愛しましたが、「自己都合」ではなく「会社都合」で退職した場合、例えば以下のメリットがあります。
1.失業保険の所定給付日数が長くなる。
2.給付制限期間なしで失業保険を受給できる
3.国民健康保険料の軽減制度が受けられる場合がある(※5)
このような違いは、特に退職後のライフプランやキャリアプランに不安がある方にとっては重要です。
とはいえ、実際に自己都合と会社都合退職の両方を選択できる場面は少ないかと思いますが、早期退職制度への応募を考える場合は、それぞれのメリット・デメリットを十分に検討することを心がけてください。
出典
(※1)厚生労働省 雇用保険の基本手当日額が変更になります 〜令和4年8月1日〜
(※2)ハローワーク インターネットサービス 基本手当の所定給付日数
(※3)厚生労働省 「給付制限期間」が2か月に短縮されます 〜令和2年10月1日から適用〜
(※4)日本年金機構 年金と雇用保険の失業給付との調整
(※5)仙台市 保険料の軽減、減免
執筆者:酒井 乙
CFP認定者、米国公認会計士、MBA、米国Institute of Divorce FinancialAnalyst会員。
長期に渡り離婚問題に苦しんだ経験から、財産に関する問題は、感情に惑わされず冷静な判断が必要なことを実感。
人生の転機にある方へのサービス開発、提供を行うため、Z FinancialandAssociatesを設立。