更新日: 2022.10.05 セカンドライフ

年金がもらえなければ生活保護で問題ない? 両制度の違いについて解説

年金がもらえなければ生活保護で問題ない? 両制度の違いについて解説
将来、年金を受給できなくなったとしても、生活保護を受ければ問題ないのではないかという考え方があります。生活苦や国民年金の満額受給額がさらに減少するのではないかとの懸念から、年金保険料を支払うよりも生活費の捻出を優先し、生活保護を受給することで老後の不安も解消できるという意見にも一見、筋が通っているかのように思われるかもしれません。
 
本記事では、国民年金と生活保護の違いについて解説した上で、国民年金を生活保護で代替できるのかどうかという疑問にお答えし、その基本的な考え方を紹介していきます。
古田靖昭

執筆者:古田靖昭(ふるた やすあき)

二級ファイナンシャルプランニング技能士

国民年金と生活保護の違い

生活保護は、国民年金のように区分ごとにある程度の給付額が決まっているわけではありません。生活費として足りない分を補填(ほてん)するのが、生活保護の基本的な仕組みです。収入によって最低限の生活費をどのくらい賄えるかを調査した上で、支給額が決まります。
 
最低生活費は、住んでいる地域や世帯人数、年齢によって異なり、「家賃が高い」や「借金の返済額が多い」といった個人的な事情は考慮されません。
 

国民年金について

ここで改めて、国民年金と生活保護の違いについて確認しましょう。日本の年金制度では、公的年金の加入が国民に義務付けられている国民皆年金制度が採用されています。国民年金は、20歳以上60歳未満の日本に住む全員が加入する年金で、10年以上加入していると65歳から給付を受け取れます。
 
国民年金の給付額は、40年間支払い続けた場合に約6万5000円で、仮に夫婦2人世帯であれば、合わせると月額約13万円となります。ただし保険料を納めていない期間があったり、納付免除を受けていたりといった場合、給付額がこの水準よりも低くなる可能性があります。
 

生活保護制度について

一方、生活保護制度とは、資産や能力など全てのリソースを活用しても生活に困窮する人に対し、困窮の程度に応じた支援によって必要最低限度の生活を保障し、自立を助ける制度です。
 
生活保護は憲法に基づいて認められた国民の権利であり、図表1のように生活する上で必要な費用に応じて扶助されます。
 
図表1


出典:厚生労働省 生活保護制度より筆者作成
 
生活保護費の水準は、「生活扶助」と「住宅扶助」を合算することで概算できます。例えば、68歳と65歳の高齢者夫婦世帯の場合、東京都であれば生活扶助が約12万1000円、住宅扶助上限額が6万4000円となり、合計で約18万5000円です(実際の金額は収入などの状況によって異なります)。
 

国民年金よりも生活保護の方が得なのか?

国民年金と生活保護の水準感をここまでの例で比べると、国民年金が約13万円に対し、生活保護の場合には約18万5000円。この結果だけを見れば、国民年金よりも生活保護の方が得ではないかと感じられるのも、当然かもしれません。
 
しかし先述のとおり、生活保護は自立を助けるための制度なので、申請時には「収入や資産状況」「働けるかどうか」「3親等内の親類から資金援助が可能なのか」が調査されることになります。調査を行った上で、足りない分に対して8つの項目の該当部分を扶助されるという仕組みです。
 
また受給中は年に数回、福祉事務所のケースワーカーが訪問調査に来ます。生活保護受給中の審査では、生活状況や収入・資産状況なども調査されます。
 
ケースワーカーによる調査が入らなくても、資産や収入、世帯構成などが変われば報告する義務があります。報告を怠ったり、訪問調査に応じなかったりした場合、生活保護の減額や打ち切りの可能性もあります。
 

生活保護は国民年金の「代替品」ではない

給付額の水準だけを比べると一見、生活保護の方が国民年金よりも得ではないかと思われるかもしれませんが、生活保護は自立を助けるための制度であり、本記事で紹介したようにさまざまな制約があります。
 
一方で国民年金の受給額は、今後減額される可能性はあるとはいえ、国民皆年金の考え方に基づいて基本的には全ての人に給付されます。
 
生活保護を国民年金の「代替」とみなすことには無理があるので、現役時代にはできるだけ国民年金の保険料を払い続け、それが難しい場合には保険料免除や納付猶予などの制度を活用することが、より確実な老後の安心につながると言えるでしょう。
 

 

出典

日本年金機構 令和4年4月分からの年金額等について
日本年金機構 老齢基礎年金の受給要件・支給開始時期・年金額
厚生労働省 生活保護制度
厚生労働省 生活保護制度の概要等について 最低生活保障水準の具体的事例
 
執筆者:古田靖昭
二級ファイナンシャルプランニング技能士

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