更新日: 2022.10.20 定年・退職

定年退職をしたら「隠居生活」する予定です。60歳以降の生活費はいくらかかりますか?

執筆者 : 柘植輝

定年退職をしたら「隠居生活」する予定です。60歳以降の生活費はいくらかかりますか?
ファイナンシャルプランナーとして老後の生活について相談を受けていると、「定年退職後は隠居生活をして余生を満喫したい」といった希望を述べられることがあります。
 
しかし、現役を退いた後は就労せず、のんびりと生活することを考えていても、気になるのはやはりお金の問題です。そこで、老後に隠居生活を送るためにどれくらいお金が必要なのか、定年後の生活費についての統計や年金を基に考えてみます。
柘植輝

執筆者:柘植輝(つげ ひかる)

行政書士
 
◆お問い合わせはこちら
https://www.secure-cloud.jp/sf/1611279407LKVRaLQD/

2級ファイナンシャルプランナー
大学在学中から行政書士、2級FP技能士、宅建士の資格を活かして活動を始める。
現在では行政書士・ファイナンシャルプランナーとして活躍する傍ら、フリーライターとして精力的に活動中。広範な知識をもとに市民法務から企業法務まで幅広く手掛ける。

老後の平均的な生活費はどれくらい?

総務省統計局の「家計調査報告」(令和3年)によれば、65歳以上の夫婦のみの無職世帯での1ヶ月の支出額は、平均で25万5100円となっています。
 
図表1


出典:総務省統計局 「家計調査報告(家計収支編) 2021年(令和3年)平均結果の概要」
 
また、65歳以上の単身無職世帯の場合、1ヶ月の支出は平均で14万4747円となっていました。
 
図表2

出典:総務省統計局 「家計調査報告(家計収支編) 2021年(令和3年)平均結果の概要」
 
これらは65歳以上の無職世帯での平均的な支出ですが、例えば60歳で定年退職して、その後は就労しない場合でも参考になるでしょう。
 
この統計を基に、定年退職後は夫婦2人なら月に26万円程度、単身の場合では15万円程度の生活費が必要となることを1つの目安として説明を進めていきます。
 

65歳までの生活費をどうするか

仮に60歳で定年退職して、その後は就労しない場合、ネックとなるのは65歳までの生活費です。老齢年金は原則65歳からの受給開始となりますが、最短で60歳から繰上げ受給することもできます。しかし、受給開始時期を繰り上げると、1ヶ月ごとに受け取れる年金額が0.4%減少します。
 
例えば、60歳から年金を受給すると5年(60ヶ月)の繰り上げとなり、24%減額された年金を受け取ることになります。国民年金(老齢基礎年金)の場合、令和4年度の満額では満額の年間の受給額が77万7792円となるところ、5年の繰り上げによって59万1122円に減額されるということです。
 
なお、繰上げ受給の申請は原則、国民年金と厚生年金の両方を同時に行わなければならないため、厚生年金部分も含めて減額となることに注意する必要があります。繰上げ受給により減額された年金を受け取ると、その減額率は生涯続くため、60歳から隠居する場合、年金の受給が始まる65歳までの生活費をどう工面するかが課題となります。
 
また、65歳から年金を受給したとしても、1ヶ月当たりの国民年金の支給額は6万4816円(令和4年度の満額)で、平均的な収入(賞与を含む月額換算の平均標準報酬で43.9万円)で40年間就労した場合に受け取れる厚生年金は、令和4年度の給付水準で単身者なら月額15万4777円、夫婦(老齢厚生年金と2人分の満額の老齢基礎年金)で21万9593円となっています。
 
前述の統計による65歳以上の生活費を参考にすると、平均的な金額の厚生年金を受給できる単身者を除いて、貯蓄などで老後資金が十分にある場合や現役世代の家族と同居している状況などではない限り、年金収入のみでの老後の生活は難しそうです。
 

仙人のような隠居生活は現実的か?

隠居というと、中には山奥で自給自足する仙人のような暮らしや、田舎の空き家を借りて生活費が月10万円未満など、質素な生活をイメージされる方もいるでしょう。
 
しかし、そういった生活を送るには、転居や生活の基盤を新たに作るための用意のほか、親族の理解といった事前の準備が必要なだけでなく、俗世離れした生活に満足できるか自身の適性も大きく関係してきます。
 
定年退職後、なるべく生活費をかけない隠居生活を思い描いている場合は、そういった生活が実現可能なのか、しっかりと検討するべきといえます。
 

年金以外の老後の収入について考える

老後の生活を安定させるには、十分な老後資金があるといった状況でもない限りは、年金以外にも何らかの収入源を用意しておくべきでしょう。例えば定年退職して隠居する前に、財産の一部を株や債権、投資信託に換えて、年金以外にも不労所得を得られるようにしておくなどです。
 
また、完全な隠居生活とはなりませんが、シルバー人材として週1日や2日程度でも働いて、生活費の不足分をカバーできるだけの収入を得ることなども有効でしょう。
 

定年退職後に隠居を希望するなら、老後の収支に加えて生活スタイルなどの確認も必要

老後に一般的な生活を送るためには、1ヶ月の生活費として夫婦で26万円、単身者で15万円程度が目安となりますが、これだけの生活費を年金収入のみで得るのは難しいといえます。
 
定年退職後に隠居生活を希望するのであれば、現役時代の貯蓄も含めて老後の収支を計算し、生活スタイルについて考え、必要によっては不労所得や最小限の就労によって収入を得ることなど、より現実的な方法を検討していくべきでしょう。
 

出典

総務省統計局 家計調査報告(家計収支編) 2021年(令和3年)平均結果の概要
日本年金機構 令和4年4月分からの年金額等について
 
執筆者:柘植輝
行政書士

ライターさん募集