更新日: 2019.01.10 定年・退職

退職金の失敗しない守り方・育て方・増やし方

執筆者 : 木田美智子

退職金の失敗しない守り方・育て方・増やし方
この3月で退職、そんな人も多いでしょう。60歳になると、公務員であってもいったん退職金を受け取ります。
 
そして、また続けて再雇用で働く人もいます。高校卒業してずっと働いてきた祥子さん(仮名)も、今年の3月で退職し退職金を受け取りました。入社は事務職でしたが、管理職まで昇格し退職金は1550万円でした。
 
祥子さんは独身で、お母さんと2人で暮らしています。将来は自分1人の生活を年金でやり繰りしていかなければなりません。
 
長い年数働いてきたので、もうゆっくり休みたいと考え再雇用は受けずのんびりすることにしました。今まで行けなかった海外旅行やコーラスなど、趣味を楽しみたいと考えています。
 
まとめて入ってきた退職金は、そのまま普通預金に入れておくとあっという間になくなりそうに感じています。退職金を老後資金にするよい方法はないのでしょうか? こんな問い合わせを受けました。
 
そこで、祥子さんと一緒に将来必要なお金が足りるのか不安を明確にし、退職金をどのようにしていくか、検討していくことになったのです。
 
読者の皆さんも、将来の年金で生活できるかをチェックできる簡単な方法なので、当てはめてやってみてはいかがでしょう。

木田美智子

Text:木田美智子(きだ みちこ)

CFP(R)認定者

1級ファイナンシャル・プランニング技能士
確定拠出年金相談ねっと認定FP、DCアドバイザー、証券外務員内部管理責任者、相続士、金融知力インストラクター、FP未来への扉(幹事)、SANWA DCサポート代表。

使えるお金はいくらになるかをシミュレーション

祥子さんは頑張って働いてきました。これからの収入は、公的年金と10年間受け取れる個人年金のみとなります。
 
最初に祥子さんの財産の全体像を把握しましょう。そして、これから受け取ることになる年金見込み額と合わせて、いくらになるのか計算してみましょう。
 
祥子さんの家計の資産状況
 普通預金 1700万円
 定期預金 300万円
 保険・年金 800万円
 合計 2800万円
 
祥子さんは、現在60歳です。100歳までにはあと40年間あります。その期間でやっていけるかをざっくりと概算計算してみます。
 
普通預金には振り込まれた退職金も含まれています。そのままにしておいたらうっかり使ってしまい、将来使えるものがなくなってしまわないか不安に感じています。定期保険は別にしてあるので、何とか使わないでいられそうです。
 
そして、保険は終身保険で200万円加入していました。1人ならこれくらいでいいかなと掛けていたものです。残す人がいないので、自分の最後のお世話になる方へのお礼のつもりで用意していました。そして入院保障が一生涯ついているのも安心という理由からでした。
 
60歳から70歳までの10年間は、毎月5万円ずつの年金が降りてくることになっています。60歳からの10年間は、少し好きなことをして過ごしたいなと思い、掛けてきた個人年金です。
 
祥子さんの年金はどれくらい?
将来の年金額は、59歳のときに送られてくる大きな封筒に入った「ねんきん定期便」を確認してもらうとわかります。この「ねんきん定期便」は50歳未満では、掛金の実績に応じた年金額が記載され、そして50歳からはそのまま今の状態が継続したものとして計算されます。
 
59歳時に送られてくる書類はほぼ受け取り金額に近い数字になっています。
 
そこには、60歳から約8.6万円、65歳から約15.1万円と書かれていました。その数字から計算をしていきます。そうするとこんな計算になりました。
 
60歳から65歳まで5年間と65歳から100歳までの35年間で計算
8.6万円×12月×5年=516万円
15.1万円×12月×35年=6342万円
 
今あるお金と100歳までの年金見込み金額をあわせると、9658万円になりました。80歳までなら年金受取見込み額は3234万円です。
 
年金に関しては見込みとなり、将来の少子高齢化や人口減少の影響で減ってしまうことも考えられます。子供もいないので、介護状態になったらと考えるともう少し余裕が必要に感じます。
 

100歳までに使うお金はどれくらい?

生活費などこれから使いそうな費用を書き出してみましょう。
 
リタイア後の支出には、生活費、イベント費、医療費などがあります。ここでもざっくりと生活費のなかに含めて計算をしてみます。高齢単身世帯の平均生活費は約15万円です。この数字を入れて計算してみました。
 
そのほかに祥子さんの希望のイベントをプラスしています。 
 
生活費 15万円(食費、医療費、光熱費など)
趣味 3万円(おけいこ代、発表会の費用など)
旅行 2万円(年間24万円使えるように計画)
年間で240万円 40年間で9600万円
 

退職金は、国の優遇制度を活用して賢く運用!

退職金が入る頃、金融機関から退職金キャンペーンの案内が届くことがあります。そのなかには、円定期預金+投資信託のセット商品が多いようです。勧められるままにセット商品を利用するには一度にまとめて投資することになり、投資初心者の祥子さんにとってリスクが大きいのです。
 
そこで、800万円を郵便局の定額貯金に預け、1年毎に40万円ずつネット証券会社のMRFに移していき、つみたてNISAで1年間に40万円ずつ投資信託に預けていく方法を提案しました。
 
800万円は、80歳以降に使うお金として分けておくことができます。定額貯金を使った理由は、6カ月経てばいつでも解約できる自由満期。口数を分けて預けておくことで800万円まとめて預けても1万円単位で2万円でも、6万円でも、40万円でも一部解約ができます。
 
定額預金は1年後の応当日に手続きしないといけない不便さがなく、普通預金のように6カ月経過後はいつでも払い出しできて、とても便利なのです。10年満期というのも長期的な視点で考えることができます。
 
そして20年間つみたてNISAで運用しながら、80歳からは運用したものを取り崩して生活費に加えていくことができます。人生の後半に使えるお金を国の税制優遇を受けて運用しながら準備することができます。
 
毎月3.3万円ずつ20年間積立をすると20年後に下記のような金額になっています。積立総額は792万円です。
 
●つみたてNISAで運用した20年後の金額
利回り 運用で増えた金額 運用後の合計金額
1%   84.4万円    876.4万円
2%  180.8万円    972.8万円
3%  291.4万円   1,083.4万円
4%  418.4万円   1,210.4万円
5%  564.4万円   1,356.4万円
20年後運用しながら取り崩していくとさらに効果が高まります。
 

まとめ

つみたてNISAは、2018年1月から1年間に40万円までの投資信託の積立に対して、投資信託から受け取れる分配金や運用益が非課税になる、とても税制優遇された制度です。金融庁が手数料や運用方針など厳しい審査を合格した商品だけ選ばれています。
 
長期運用に向いていて、初心者でも失敗しにくい商品です。
 
退職金などまとまったお金がある場合でも、いきなりまとめてではなく少しずつ分散して資産を増やしていくのもよいのではないでしょうか。資産運用に慣れていない人や、リスクを抑えたい人には、こんな退職金運用にも活用できます。
 
Text:木田美智子(きだ みちこ)
1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP(R)認定者