【親の介護】遠距離介護を始める前に知っておきたいこと
配信日: 2023.05.30
遠く離れて暮らす親に介護が必要になったとき、仕事を辞めて実家に帰るわけにはいかないし、親を呼び寄せるのも難しいというケースは多いと思います。遠距離で通いながら介護をする可能性があるなら、事前に知って準備しておきたいことがあります。
執筆者:蟹山淳子(かにやま・じゅんこ)
CFP(R)認定者
宅地建物取引士、住宅ローンアドバイザー
蟹山FPオフィス代表
大学卒業後、銀行勤務を経て専業主婦となり、二世帯住宅で夫の両親と同居、2人の子どもを育てる。1997年夫と死別、シングルマザーとなる。以後、自身の資産管理、義父の認知症介護、相続など、自分でプランを立てながら対応。2004年CFP取得。2011年慶應義塾大学経済学部(通信過程)卒業。2015年、日本FP協会「くらしとお金のFP相談室」相談員。2016年日本FP協会、広報センタースタッフ。子どもの受験は幼稚園から大学まですべて経験。3回の介護と3回の相続を経験。その他、宅地建物取引士、住宅ローンアドバイザー等の資格も保有。
1. 介護保険サービスについて知っておく
介護が必要になったら、公的介護保険制度の要介護認定を受け、ケアマネジャーにケアプランを作成してもらい、それに沿って介護保険サービスを受けることになるでしょう。介護保険の範囲であれば、自己負担額は利用額の1割(親の所得によっては2~3割)となります。
介護保険の利用は、本人か家族が申請して要介護認定を受けることから始まります。窓口となるのは主に住所地を管轄する地域包括支援センターです。
地域包括支援センターでは、要介護認定を申請する前でも介護に関するさまざまな相談に乗ってもらえます。
帰省したときに相談に行って事情を話し、利用できるサービスや利用方法を教えてもらっておくと、いざというときに慌てずにすみます。相談に行くことで、親がひとり暮らしで介護の心配が出てきたことを知っておいてもらえるメリットもあります。
2. 親の身のまわりのことを知っておく
(1) かかりつけの病院や持病
親が入院して、急に呼ばれることも考えられます。病院では、今までかかった病気や持病、いつも飲んでいる薬などを聞かれますが、離れて暮らしているとわからないことが多いものです。どんな病気でどこの病院にかかっているのか、どんな薬を飲んでいるのか聞いておきましょう。できれば、診察に付き添って主治医にあいさつしておくと安心です。
(2) 健康保険証や介護保険証、診察券をどこにしまっているか
急に倒れて入院した場合、病院から健康保険証を持って来るよういわれることもあるでしょう。健康保険証や介護保険証、診察券も家のどこにしまっているか、分からないことが多いと思います。元気なうちにしまい場所を聞いて、目で見て確認しておきましょう。
(3) 近所で仲良くしている人のこと
体調や行動の異変も日ごろ親しくしている人だからこそ、分かることがあります。お友だちなどお世話になっている人には、親と一緒におみやげを持ってあいさつに行っておくと良いかもしれません。可能なら何かあったときに連絡してもらえるよう、連絡先を渡しておくと安心です。
(4) 介護で使える地域の制度
例えば、地域の民生委員と顔見知りになっておくと、見守りを手伝ってくれるでしょう。また、シルバー人材センターを利用すれば、手ごろな利用料で掃除や買い物、庭の手入れなどをお願いできます。
その他、介護保険制度以外でも、介護で利用できる自治体のサービスは市区町村によって違うことが多いので、自治体のホームページや地域包括支援センターで調べておきましょう。
3. 親の「お金」について知っておく
お金の話はなかなか切り出しにくいものですが、「心配だから、もしもの時のために教えて」と帰省した時に聞いてみてはいかがでしょうか。
介護が必要になったとき、在宅介護と施設介護のどちらを選ぶにせよ、親の貯蓄と年金で賄える範囲が基本と考えておきましょう。親のためにできるだけ良い介護環境を整えてあげたい、と思って自己負担のサービスを増やしても、介護期間が長くなったときに資金が乏しくなってしまっては元も子もありません。年金が少ない場合も金額が分かっていれば、スタート時点から対応策を考えることができます。
貯蓄の金額も聞きにくいのですが、倒れたときの入院費用を払うために必要なので、預金通帳やキャッシュカードなどの保管場所を確認し、できれば金額もチェックしておきます。
キャッシュカードの暗証番号を聞いておけば、いざというときにお金を引き出せますが、親子であれば「代理人カード」を作っておくことも可能です。倒れてからではそれも難しいので、元気なうちに一緒に銀行に行って、代理人カードを作ってもらい預かっておくと安心です。
4. 介護休業・介護休暇について知っておく
遠距離で暮らしながら、できるだけ介護サービスを利用して仕事と介護を両立させると決めても、環境を整えるためには時間も手間もかかるでしょう。また、病院で説明を受ける際に付き添ったり、様子を見に行ったり帰省の回数も増えたりすることが予想されます。
そのようなときに使える制度として、「介護休暇」と「介護休業」があります。どちらも、正社員だけでなく、パートや契約社員でも利用が可能です。
介護休暇は、介護のために短期的な休暇を取得できる制度で、年間5日まで、半日単位や1時間単位でも取得できます。一方、介護休業は、介護のために長期の休みを取得できる制度で、通算93日まで、最大3回まで分割して取得できます。どちらも賃金は支払われないことが多いのですが、介護休業は要件を満たせば介護休業給付金の受給が可能です。
仕事を続けながら遠距離介護をするのは、体力的にも精神的にも大変なことでしょう。親の希望も聞きながら、介護を続けられる環境を作れるよう、早めに情報を集めておきましょう。
執筆者:蟹山淳子
CFP(R)認定者