更新日: 2023.08.28 セカンドライフ

どちらが安心? 預貯金3000万円で収入ゼロVS預貯金ゼロで国民年金月額7万円 それぞれどう行動すべき?

執筆者 : 柴沼直美

どちらが安心? 預貯金3000万円で収入ゼロVS預貯金ゼロで国民年金月額7万円 それぞれどう行動すべき?
不定期で電話相談を開催すると、決まって受ける相談内容に「まとまった預貯金はあるが、現役世代にあまり働いた経験がなく、納付実績もほとんどない。親が亡くなった後は定期収入がほぼゼロだ」という不安を打ち明けるケースが必ずあります。
 
一方、預貯金はほとんどなく、国民年金も月額換算で7万円弱というケースもあります。どちらの不安がより深刻でしょうか。考えてみたいと思います。
柴沼直美

執筆者:柴沼直美(しばぬま なおみ)

CFP(R)認定者

大学を卒業後、保険営業に従事したのち渡米。MBAを修得後、外資系金融機関にて企業分析・運用に従事。出産・介護を機に現職。3人の子育てから教育費の捻出・方法・留学まで助言経験豊富。老後問題では、成年後見人・介護施設選び・相続発生時の手続きについてもアドバイス経験多数。現在は、FP業務と教育機関での講師業を行う。2017年6月より2018年5月まで日本FP協会広報スタッフ
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預貯金3000万円で親と同居の築50年の一戸建て

60歳時点であと自分はどのくらい生きられるのか、そのうち何年ぐらいが健康でいられるのかわからないので、3000万円の預貯金で十分かどうかは寿命しだいです。ただ、このケースの場合、入ってくるもの(収入)がほとんどないこと、就労経験があまりないことから、60歳を過ぎてから仕事を探す、働くということ自体に抵抗があることから、預貯金を取り崩すだけの生活になります。
 
時間があれば、「自分はいつまで食いつないでいけるだろう」という、考えても相談しても答えが見つからない問題と四六時中向き合わざるを得ないという不安は、精神的にも大きな負担になることでしょう。
 
不動産があったとしても、高齢になれば行動範囲も狭くなり、若い時は何ともなかった段差も加齢とともに転倒を引き起こす要因になります。築年数が経過すれば劣化が進みますから、水回りを中心にリフォームに迫られます。リフォーム等に数百万円のコストがかかることを考えれば、“3000万円の預貯金があれば安心”とは言えません。
 
これらを考えると、将来施設入所の可能性もふまえて自分の行動力が残っている間に住まいのダウンサイジングをやるのが最優先かつ現実的な取り組みでしょう。
 
住まいに対する取り組みは、先送りにしても差し支えないと考えがちですが、加齢とともに気力もうせてしまうことがあります。
 
またこういった取り組みの過程で介護施設の情報が入ってくる場合もあり、次に自分がやるべきことが見えてくるかもしれません。そういう副次的なことも考え合わせると、リフォーム等の必要な取り組みはちゅうちょなく着手することが望ましいと思われます。
 

年金は月額7万円だが預貯金はほとんどない場合

一方、月額換算で約7万円の老齢年金の受給を受ける場合は、寿命に関わらずその人が生きている限り、途切れることはないと考えることができますので、先ほどのケースと違って「自分はいつまで」という切羽詰まった不安はないかもしれません。
 
しかし、絶対的に金額不足といえるでしょう。
 
総務省の家計調査(※)によれば、2022年の65歳以上単身世帯の平均収入額が12万8000円、これに対して平均支出額は14万3000円となっています。統計平均値で収入がモデルケースよりも5万8000円多い場合でも赤字となり、それを預貯金の取り崩しで賄っているという実態がわかります。
 
預貯金がほぼゼロとなった理由としてよく考えられるのが、定年と同時に住宅ローンを完済したことでリセットされたというものです。確かに定収入が亡くなってもローンを残したままでは家計は立ち行かなくなることもありますので、その懸念要因を取り除くことはベストチョイスではあります。
 
その結果、赤字を補てんできる原資がなくなってしまうということで、まずは就労の機会を探し、少額であったとしても働かなければならないかもしれません。
 

就労の機会を見つけできる限り働くことと、住まいのダウンサイジングは必須

「定年を過ぎても働かなければやっていけない」と思うかもしれませんが、就労にはプラスの副産物がついてくる場合があります。
 
場合によっては、社会保険に加入できますので、健康保険などで恩恵を受けられるということは心強いですね。また、職場の仲間との情報交換でよりよい選択肢が見つかる場合もあり、1人でもんもんと悩むよりはより健全な健康・精神状態を維持できるかもしれません。
 
こちらのケースで住宅ローン完済のマイホームはあったとしても、早めにダウンサイジングを意識して自宅の売却を検討するのも選択肢です。家屋はどうしても経年劣化と住む人の加齢からリフォームしなければならなくなること、保有している限り固定資産税納付が必要になります。
 
また加齢とともに、段差でつまずいたり手すりがないと移動が難しくなったりするようになります。補助金を獲得できたとしてもかなりの持ち出しは覚悟しなければなりません。
 
せっかく完済されて負担が軽減されたと思ったら、また新たな支払いの心配をしなければならなくなることを考えると、施設入居を前提に考えるべきで、特に預貯金残高があまりない場合には手を加えることは慎重に検討したほうがよいかと思われます。
 

まとめ

時計の針をもとに戻すことができない以上、どちらがより安心とは言い難いと結論づけざるを得ないでしょう。あえて言うなら、預貯金ゼロでも国民年金という定収入が確実に入るほうが働き方しだいで生計を維持できるかもしれませんが、こちらも健康状態に依存することになります。
 
どちらのケースについても、将来を見据えて今やらなければならないことにちゅうちょなく取り組むことが大切であるといえそうです。
 

出典

(※)総務省家計調査 職業別1世帯当たり1か月間の収入と支出-2022年
 
執筆者:柴沼直美
CFP(R)認定者

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