【定年延長後の給与】定年延長の「条件」で給与を減らされました。これって問題はないのですか?
配信日: 2024.02.25
執筆者:柘植輝(つげ ひかる)
行政書士
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2級ファイナンシャルプランナー
大学在学中から行政書士、2級FP技能士、宅建士の資格を活かして活動を始める。
現在では行政書士・ファイナンシャルプランナーとして活躍する傍ら、フリーライターとして精力的に活動中。広範な知識をもとに市民法務から企業法務まで幅広く手掛ける。
定年延長による給与減は、一律に許されないわけではない
定年延長とは、いわば勤務期間の延長です。仮に60歳定年のところを65歳定年とすれば、それは5年間の勤務期間の延長と考えられます。
このように勤務期間を延長する場合、一度定年退職してから再度雇い入れる「再雇用」とは、定年前の契約が継続するという点で異なります。そのため、定年延長したからと簡単に会社が給与を減らすことはできないでしょう。すでに決まっている労働条件を変更することは、不利益変更に当たる可能性があるからです。
例えば、65歳までの定年延長を踏まえて、退職までの総支給額をある程度調整する目的で給与や退職金の額を減らすと、不利益変更に当たる場合があります。
具体例としては、55歳になってから月々の給与をいきなり50万円から20万円に減少させること、本来1000万円支給されるはずの退職金について、定年延長を理由に「それ以上の給与を支給した」として退職金を0円とするようなことは、許されない可能性があると考えられます。
もちろん、個別具体的な状況によって結論は異なるところではあります。しかし、定年後に新しく契約をしなおす再雇用と異なり、純粋な定年延長においては、給与減含む労働条件の変更はそう容易には認められないと考えていいでしょう。
合意があるなど、一定の条件の下では許される可能性もある
とはいえ、定年延長に伴う給与の減額が、一律で許されないわけではないといえます。例えば延長された60歳以降の契約内容について、労働者との合意や、それが必要となる合理的な理由、例えば勤務時間の日数や職務内容の変更などがある場合は、その限りではないでしょう。
労働者との合意があるなど一定の背景の下で、会社側が十分に説明責任を果たせば、定年延長に伴う給与の減額が許される可能性もあるでしょう。
定年延長後に給与が下がった場合は、高年齢雇用継続給付の利用を
もし、定年延長で給与が下がってしまった場合、高年齢雇用継続給付の基本手当の受給を検討してみてください。本給付金は下記条件を満たすことで受給ができます。
●60歳以後の給与が60歳時点の75%未満になる
●雇用保険について、60歳以上65歳未満の一般被保険者である
●雇用保険の被保険者であった期間が5年以上ある
支給額は、60歳到達時の賃金と現在の賃金とを比較した場合の、低下率によって変わります。支給額は、60歳到達時の賃金月額と比較した賃金額の低下率に応じた支給率を、現在の賃金額に乗ずることによって算出できます。低下率は下記のように計算します(下記の速算表もあわせて確認してください)。
「低下率」(%)=支給対象月に支払われた賃金額/60歳到達時の賃金月額×100
表1
※出典:厚生労働省「Q&A~高年齢雇用継続給付~ Q8」
参考までに、60歳到達時の給与が30万円で、その後月額20万円に賃金が低下した場合、低下率は66.67%で、1万6340円が支給されます。
※出典:厚生労働省「Q&A~高年齢雇用継続給付~ Q9」
高年齢雇用継続給付の基本手当は65歳になるまで受給できるため、最大で5年間受け取ることができます。先ほどの例の場合、最大で98万400円も受け取ることができます。
なお、高年齢雇用継続給付の申請は、原則事業主を通じて行います。詳細については、勤務先へ相談してみてください。
まとめ
定年延長の条件で給与を減らされた場合、それについて合意もなく、かつ合理的理由もないような状態であれば、違法である可能性もあります。仮に違法ではないケースで給与が下がっても、65歳までは高年齢雇用継続給付もあり、一定部分までは給与が減少しても減額分をカバーできるようになっています。
しかし、定年延長の条件での給与減が違法であるかは一概に判断できないため、悩んだときは専門家などに相談することをおすすめします。
出典
厚生労働省 Q&A~高年齢雇用継続給付~
執筆者:柘植輝
行政書士