退職金とiDeCoを一時金で受け取る人が知っておきたい「退職金の5年ルール」
配信日: 2025.01.07
今回は、一時金を受け取るときに注意すべきタイミングや、退職金とiDeCoの関係について解説します。
執筆者:水上克朗(みずかみ かつろう)
ファイナンシャルプランナー、CFP(R)認定者、1級ファイナンシャルプランニング技能士、DC(確定拠出年金)プランナー
iDeCoの受け取り方
iDeCoの受け取り方には、以下の3通りがあります。
1. 一時金での受け取り(一括受取)
2. 年金での受け取り(分割受取)
3. 一時金と年金を併用した受け取り
このなかでかかる税金の額がもっとも少ないのは、1の「一時金として受け取る方法」といわれています。なぜならば、退職金とiDeCoを一時金で受け取ると「退職所得」として扱われ、退職所得控除を利用することができるからです。
一時金として受け取る際のポイント
まず確認すべきなのは、会社の退職金です。iDeCoを一時金の形で受け取る場合、会社の退職金があると、どちらを先に受け取るかで、税額が変わってくるからです。
退職金とiDeCoを一時金として受け取るタイミングには、3つのパターンがあります。具体例として、Aさん(60歳)の場合を見てみましょう。
・勤続年数:30年
・退職一時金:1800万円
・iDeCo:500万円(拠出15年)
1.退職金とiDeCoを同時に一時金として受け取る場合
まず、60歳のときに退職金とiDeCoの一時金を、両方とも受け取った場合です。
・退職所得控除(※1):800万円+(30年-20年)×70万円=1500万円
(※1)退職所得控除の計算式
・勤続年数20年以下…40万円×勤続年数
・勤続年数20年超…800万円+70万円×(勤続年数-20年)(=退職所得控除額)
・退職金+iDeCo:1800万円+500万円=2300万円
・両方同時に一時金として受け取る場合の税額:
(2300万円-1500万円)×1/2=400万円(=課税所得金額(※2))
400万円×(所得税率)20%-42万7500円=37万2500円
(※2)課税所得金額=(退職一時金-退職所得控除額)×1/2
退職金とiDeCoの一時金を同時に受け取ると、かかる税金の総額は37万2500円となり、結果として退職所得控除額をオーバーしてしまいます。
2.60歳のときに退職金を一時金で受け取った後、61歳のときにiDeCoを一時金で受け取る場合
次に、60歳で退職金、61歳でiDeCoの一時金を受け取った場合です。
・退職金:(1800万円-1500万円)×1/2=150万円(=課税所得金額)
150万円×5%=7万5000円(=税額)…(1)
・iDeCo:500万円×1/2=250万円(=課税所得金額の金額)(※3)
250万円×10%-9万7500円=15万2500円(=税額)…(2)
(1)+(2)=22万7500円
(※3)退職所得控除は使えませんが、「2分の1課税」は適用されます。
それぞれにかかる税額は別々に計算されますが、退職金にかかる税金の総額は22万7500円となります。
結果として、退職金とiDeCoを同時に受け取る場合より、所得税の金額を14万5000円(=37万2500円-22万7500円)減らせることになります。iDeCoを受け取る時期を退職金よりも1年遅らせるだけで、大きな節税効果があります。
退職金の受け取り時期が60歳と決まっている場合は、iDeCoの一時金の受け取り時期はその翌年以降に回しましょう。
3.60歳のときにiDeCoを一時金で受け取った後、65歳のときに退職金を一時金で受け取る場合
最後に、60歳でiDeCoの一時金を受け取り、65歳で退職金を受け取った場合です。
・iDeCo: 退職所得:500万円-600万円
退職所得ゼロ、非課税で受け取れます。
・退職金:(1800万円-1500万円)×1/2=150万円(=課税所得金額の金額)
150万円×5%=7万5000円(=税額)
退職金にかかる税金の総額は、「7万5000円」となります。結果として、退職金とiDeCoを同時に受け取る場合より、所得税の金額を29万7500円(=37万2500円-7万5000円)減らせることになります。
このように、先にiDeCoの一時金を受け取り、後から退職金を受け取る場合は退職所得控除の「5年ルール」が適用されます。5年以上あける形で受け取るタイミングをずらすと、それぞれの退職所得控除が活用できるため、税制上有利に受け取ることができるのです。
まとめ
まずは、自分のライフプランに合わせ、退職金を受け取ることが大切です。iDeCoを一時金で受け取り、その後5年以上あけて退職金を一時金で受け取ると、一番お得になるので特におすすめです。
かかる税額を抑えたいなら、このように「退職金5年ルール」を活用するのがよいでしょう。
出典
国税庁 No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)
国税庁 No.2260 所得税の税率
執筆者:水上克朗
ファイナンシャルプランナー、CFP(R)認定者、1級ファイナンシャルプランニング技能士、DC(確定拠出年金)プランナー