更新日: 2020.12.01 その他老後

いつまで乗る? 高齢者のクルマとライフプラン

いつまで乗る? 高齢者のクルマとライフプラン
ライフプランを考えるときに、クルマの保有の有無は重要な検討要素になっています。若者のクルマ保有率はここ数年間継続的に下がっています(※1)が、高齢者世代は、クルマは持って乗ることが当たり前の世代ともいっても過言ではありません。その高齢者のクルマ保有は、生活の質(クオリティー)を左右する大きな課題でもあります。
 
ここでは、クルマ保有と高齢者のライフプランについて考えてみましょう。
植田英三郎

執筆者:植田英三郎(うえだ えいざぶろう)

ファイナンシャルプランナー CFP

家電メーカーに37年間勤務後、MBA・CFPファイナンシャルプランナー・福祉住環境コーディネーター等の資格を取得。大阪府立職業訓練校で非常勤講師(2018/3まで)、2014年ウエダFPオフィスを設立し、事業継続中。NPO法人の事務局長として介護施設でのボランティア活動のコーディネートを担当。日本FP協会兵庫支部幹事として活動中。

クルマの保有コスト

クルマ(自動車)を保有するに当たって、保有コストは大きな問題です。自動車工業会の2019年調査データ(※2)に基づき、筆者が計算してみたところ、クルマの保有コストは年間29.4万円になります。ただし、項目別にかかる費用を積算すると実際はもう少し増えそうです。保有コストの内訳は図表1の通りになります。
 
 【図表1】
(10円以下切り捨て)

項 目 年間金額 計算の根拠
自動車税 3万100円 車種別単純平均値
重量税 1万5000円 車種別単純平均値
自動車損害賠償責任保険
(自賠責保険)
1万2600円 車種別単純平均値
自動車任意保険 3万300円 総務省家計調査 2019年
点検費用 3万4500円 総務省家計調査 2019年
駐車場費用 12万5000円 e-Stat 月車庫借料の12ヶ月分 
2019年
車検費用 6万円 通常平均値 2年分の2分の1
合計 30万7500円

車種や使い方により増減はあると思いますが、これにガソリン代年間約8万円を加えた約40万円が、全国平均的な保有コストとと考えられます。首都圏を中心とする都会地の駐車料金は、上記の2倍(月2万円)以上になりますので、マンション内や外部の駐車場を借りる場合は、保有コストは年間50万円を超えるケースも多くなります。
 
次に、クルマの保有コストと家計の関係を見てみましょう。
 

家計支出との関係

二人以上世帯の平均的な家計支出は、2019年で月額約29.3万円(※3)となっていますが、この数字から考えると、全国で見た場合は、クルマの保有コストは家計全体の約10%を占めることになります。
 
駐車場料金の高い都会地では、ガソリン代を含めると家計の15%を占めるのが実態です。
 
このため、若者のクルマ離れは定着した傾向にあります。高齢者世帯においても既に持っている自動車の保有を止める時期が、ライフプラン上の大きな課題となっているのは、間違いのないところです。
 
ここからは、高齢者世帯のクルマと家計、そしてライフプラン・マネープランについて
考えてみましょう。
 
例として、70歳で老後資金として2000万円程の貯蓄を持つ、二人世帯の家計を試算してみましょう。収入と支出は総務省の2019年の高齢者2人の無職世帯のデータ(※4)です。
 
 1ヶ月実収入  23万7659円
 1ヶ月実支出  27万929円 
 1ヶ月不足額   3万3270円、12ヶ月不足額 39万9240円、25年不足額 998万円
 
25年で998万円の不足となりますが、これに物価上昇率毎年1%を加算すると、仮に95歳までの25年間の不足額は1127万円になります。
 
70歳時、老後資金2000万円の場合は、運用リターンがゼロで物価上昇を考慮した場合は資金の残高は873万円になり、介護施設への入所一時金などを想定した場合、不足感があります。
 
また、月27万円の生活費は、決して余裕のある生活費とはいえない金額です。そこで、クルマ保有の観点から、もう少し余裕のある暮らしの選択を考えてみましょう。
 

クルマ保有なし生活の選択

クルマが生活の必需品である田舎暮らしの場合は、駐車場コストが掛からないこともあり、できるだけ長く保有する選択肢が考えられますが、都会のマンション暮らしの場合は、より早くクルマなし生活へ踏み出すことが、より豊かな生活につながるかもしれません。
 
クルマなし生活に踏み切った場合、全国平均のクルマ保有コストで計算すると以下のようになります。
 
75歳でクルマなし生活  40万円×20年  800万円を老後生活費に加算できる。
70歳でクルマなし生活  40万円×25年  1000万円を老後生活費に加算できる。
この資金は施設入所時の一時金や、より豊かな生活の資金となるのではないでしょうか。
(計算が分かりやすいように、クルマ維持費を40万としました)
 
なお、クルマの保有コストの中で駐車場代が大きなウエイトを占めることは明らかです。その点、最近利用が伸びているカーシェアは駐車場代などがかからず、体力や考え方にもよると思いますが、70歳から78歳程度までは、選択肢の一つとなるでしょう。
 
クルマなしで、日々の暮らしを楽しむには少し時間はかかるかもしれませんが、より前向きにクルマなし生活の準備を考えるのも良い選択ではないでしょうか。
 

まとめ

クルマのある生活に長く親しんだ人にとって、クルマなしの生活は、不自由と共に行楽や買い物の楽しみをなくしてしまう選択かもしれません。しかし、クルマなしにすることによって、経済的にはむしろ豊かになり、新しい楽しみを見つけることも可能かもしれません。
 
今回は、クルマの保有コストをできるだけ細かく調べてみました。自分のケースに当てはめてみて、新しい楽しみを見つけるキッカケとなれば幸いと感じるところです。
 
出典
(※1)一般社団法人日本自動車販売協会連合会「自動車流通市場の調査研究について【2018年調査 最終報告(案)】」(11P)
(※2)一般社団法人日本自動車工業会「2019年度 乗用車市場動向調査」(106P)
(※3)総務省統計局「家計調査(家計収支編) 時系列データ(二人以上の世帯)2. 用途分類:収入及び支出金額」
(※4)政府統計の総合窓口e-Stat「家計調査 家計収支編 4(高齢者のいる世帯)世帯主の就業状態別 二人以上の世帯
 
執筆者:植田英三郎
ファイナンシャルプランナー CFP


 

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