パート勤務者の厚生年金への加入要件が変更されました

配信日: 2017.07.03 更新日: 2020.04.07

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パート勤務者の厚生年金への加入要件が変更されました
パートやアルバイトで働く人は、通常勤務の正社員と比較して、約4分の3以下の勤務時間であれば、これまでは厚生年金に加入する必要はありませんでした。そのため多くのパートが勤務時間を抑制し勤務していましたが、この制度が改正され、一定の条件を満たした人が、厚生年金に加入するよう変更になりました。
黒木達也

執筆者:黒木達也(くろき たつや)

経済ジャーナリスト

大手新聞社出版局勤務を経て現職。

一定条件以上で働く人が加入の対象

2016年10月の制度改正で対象となったのは、従業員が501人以上の会社のパートタイマー、アルバイト勤務者でした。しかし2017年4月からは、従業員500人以下の会社でも、労使間で合意するという条件をクリアすれば、厚生年金に加入できるようになりました。そして、以下の4つの条件を満たしている人は、厚生年金に加入する対象になります。
 
①週の所定の労働時間が20時間以上あること。この場合、通常の勤務時間で、残業時間は含めません。
②パートとしての雇用期間が、継続的に1年以上見込まれること。短期で辞める人はこの対象になりません。
③給与の月額が8万8千円(年収106万円)以上であること。ここでいう給与は、残業代、賞与、通勤手当、家族手当など、臨時支給の手当は除きます。
④学生ではないこと。ただし夜間や定時制に通学する学生は、この対象になります。
 
以上四つの条件に合致するパートタイマー、アルバイト勤務者は、厚生年金に加入することになります。
そのため、この条件に適合すると厚生年金保険料を納める必要があり、従来通りの勤務時間だと、手取り額が減ってしまいます。年収ベースで106万円がボーダーで、厚生年金に加入したくない人は、これまでより労働時間を抑える必要があります。
 
現状の勤務のままで厚生年金に加入すると、家計的には減収となりますが、年収をあまり気にせずに勤務時間を自由に増やすことも可能になります。また、将来年金の増額という形で家計に戻ってきます。また妻のパート収入が増えたとしても、一定年収以内なら夫の勤務先で扶養家族の扱いとなります。配偶者への扶養手当を廃止するところも増えており、この傾向は今後強まるといえます。短期的な減収に眼を奪われるのではなく、長期的に考えることが大切になると思います。

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年金加入によるメリット・デメリット

厚生年金の保険料を負担することで、手取り収入の減収になる人が増えてきます。手取り収入の減少は、最大のデメリットになります。これを問題視する人は、勤務時間を抑える必要があります。一方で、次のようなメリットもあります。
 
①将来受け取る自分の年金額が増加します。厚生年金に加入しなければ、将来受け取る年金は、国民年金部分だけになりますが、厚生年金に加入したことで、厚生年金部分の年金も受け取れ年金額が増加します。
②障害年金、遺族年金の受給が手厚くなります。どちらも万が一に備えての年金ですが、厚生年金に加入したことにより、国民年金に加入していただけのときとは異なり、受給額や受給範囲が拡大し、より充実した保障が受けられます。
③厚生年金保険料の半額は会社負担です。このため、結果として少ない負担で、より充実した保障が得られることになります。会社にとっては、それだけ負担が増えることにもなります。

年収の壁は徐々になくなる仕組みに

このようにパートタイマーやアルバイトの、厚生年金への加入条件が変更になった背景には、次の点があると思われます。

第1は、企業やパートに与える意識の変化です。
これまで、非正規のパートやアルバイトを多く採用しても、正社員の4分の3以下の労働時間であれば、厚生年金への加入は不要でした。新基準では週20時間勤務で、厚生年金への加入が必要です。パートの労働時間の延長がより自由になり、場合によっては正社員化も考えられます。
とくに労働力不足が現実となり、年収を気にするパートが多いと「忙しい年末に休まれる」などは、会社にとって好ましい事態ではありません。パートの立場でも、年収制限を気にせずに勤務ができることは好感されます。半面、会社が厚生年金への非加入にこだわり、現状の勤務時間を短縮し、パートを雇用する動きには警戒が必要です。
 
第2は、各種年収の壁が撤廃されつつあることです。
典型が「配偶者控除」です。以前は配偶者の収入が一定額(103万円)を超えると、配偶者控除(38万円)が一切受けらません。これが1987年以降、配偶者控除と並んで、段階的に控除額が変わる「配偶者特別控除」ができ、年収が105万円よりし高くても、36万円や31万円の配偶者特別控除が受けられます。

図表-配偶者控除

これは大きな違いです。年収103万円の壁を意識せずに働けます。配偶者特別控除は「所得金額」が基準となります。このレベルでは「収入金額」から65万円を差し引いた金額です。年収が141万円未満であれれば、配偶者特別控除が受けられます。2018年以降、配偶者控除は年収150万円にまで引き上げられ、一段と年収の壁を気にせず自由に働ける環境が整います。ただし配偶者控除は、夫の年収が1000万円以上の場合は受けられない仕組みになります。
 
第3は、厚生年金加入者を増やし、少しでも制度の安定化を図る狙いもあります。
団塊の世代が70歳を迎え厚生年金からの退出が続いており、年金加入者を少しでも多く確保しておきたいという、行政サイドの思惑もあります。非正規のパートやアルバイトの厚生年金への加入は、制度維持の面でも貢献するかと思われます。

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