更新日: 2020.10.06 その他年金

法改正で繰上げ受給の減額率が変更に?損益分岐年齢は何歳になる?

執筆者 : 新美昌也

法改正で繰上げ受給の減額率が変更に?損益分岐年齢は何歳になる?
令和2年5月の国会で、年金制度の改正案が可決されました。年金の受給開始時期の選択肢が拡大されました。同時に繰上げ受給の減額率も変更になっています。減額率が変更になることで、損益分岐年齢も変更になります。
新美昌也

執筆者:新美昌也(にいみ まさや)

ファイナンシャル・プランナー。

ライフプラン・キャッシュフロー分析に基づいた家計相談を得意とする。法人営業をしていた経験から経営者からの相談が多い。教育資金、住宅購入、年金、資産運用、保険、離婚のお金などをテーマとしたセミナーや個別相談も多数実施している。教育資金をテーマにした講演は延べ800校以上の高校で実施。
また、保険や介護のお金に詳しいファイナンシャル・プランナーとしてテレビや新聞、雑誌の取材にも多数協力している。共著に「これで安心!入院・介護のお金」(技術評論社)がある。
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繰下げ受給の上限年齢の引き上げ

年金の受給開始時期は原則65歳からですが、受給を遅らせ、70歳から受け取ることも可能です。年金の繰下げ受給制度は、老齢年金を65歳で請求せずに、66歳以降70歳までの間で請求することで年金を増額する仕組みです。
 
今回の改正により、年金の受給開始時期の選択肢が60~75歳へと拡大されました。高齢者が就業状況等に応じて、年金を受給できる時期の選択肢が増えたのは良いことです。月単位の支給率は現行と同じ0.7%です。現行制度では最大で42%年金額が増額されますが、改正後は最大で84%の増額です。
 
増額できるのは良いことですが、収入が増えると税金や国民健康保険、後期高齢者医療保険、介護保険の保険料の負担も増える可能性がありますので留意しましょう。
 
なお、特別支給の老齢厚生年金は「繰下げ制度」はありません。また、一度、繰下げ受給の請求を行うと、支給率は生涯変更できません。

繰下げ受給の損益分岐年齢

繰下げをするとその期間、年金がもらえません。その代わり、将来受け取る年金が増額されます。年金をもらう時期を1年間遅らせると、その間の年金は100%失いますが、代わりに1年後の年金が8.4%増えます。
 
計算すると、失った年金を増額分で取り戻すのに約12年(100%÷8.4%=11.9)かかります。これは他の年齢でも同じです。つまり、受給開始年齢に約12年を加えた数字が損益分岐年齢となります。繰下げ受給後12年生存しなければ損になるということです。
 
なお、繰下げた年金に「振替加算」や「加給年金」などがある場合、損益分岐点年齢は先に延びることになります。

現行制度での繰上げ受給の損益分岐年齢

年金の受給開始時期は原則65歳からですが、受給を早めて60歳から受け取ることも可能です。年金の繰り上げ受給制度は、老齢年金を65歳で請求せずに60歳以降65歳までの間で請求し、年金を早く受給する仕組みです。早く受給するので本来の年金よりも少なくなります。
 
65歳より早く受給を開始した場合の減額率は、現行制度では月あたり0.5%(最大で▲30%)ですが、改正により0.4%(最大で▲24%)です。減額率が小さくなったのは良いことです。なお、一度繰上げ受給の請求を行うと、支給率は生涯変更できませんので注意しましょう。
 
現行制度では、5年繰上げ(60歳から受給)の減額率は30%です。本来の年金額の70%を早くもらうことができます(5年間で350%分)。この場合11.67年(=350%÷30%)、つまり約76歳8ヶ月が損益分岐年齢になります。つまり、5年繰上げ受給の場合、76歳8ヶ月より長生きすると損ということです。
 
他の年齢で繰上げ受給をした場合、同じように計算すると、損益分岐年齢は繰上げ請求から16年8ヶ月後です。具体的には、61歳から繰り上げた場合は77歳8ヶ月、62歳から繰り上げた場合は78歳8ヶ月、63歳から繰り上げた場合は79歳8ヶ月、64歳から繰り上げた場合は80歳8ヶ月となります。

法改正後の繰上げ受給の損益分岐年齢

では、減額率が4%(月)になったときはどうでしょうか。5年繰上げ(60歳から受給)の減額率は24%です。本来の年金額の76%を早くもらうことができます(5年間で380%分)。
 
この場合、15.83年(=380%÷24%)、つまり、損益分岐点年齢は約80歳10ヶ月になります。5年繰上げ受給の場合、80歳10ヶ月より長生きすると損ということです。
 
他の年齢で繰上げ受給をした場合、同じように計算すると、損益分岐年齢は繰上げ請求から20年10~11ヶ月後付近です。減額率が5%のときと比べ、損益分岐年齢が4年2~3ヶ月程度上がります。なお、繰上げ受給の減額率の変更は令和4年度からとなります。

繰上げ受給の留意点

繰上げをすると、減額率は生涯変更が認められません。国民年金の任意加入者は繰り上げ受給の請求は認められません。また、原則として、障害基礎年金や寡婦年金を受けられないなどのデメリットがありますので注意しましょう。
 
執筆者:新美昌也
ファイナンシャル・プランナー

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