熟年離婚を考えている?「年金分割」で老後の生活は本当に安心?
配信日: 2021.11.05
ただ、長年連れ添った夫婦の離婚、いわゆる「熟年離婚」は、その後の生活も含めて慎重に検討する必要があります。
「年金分割」はそれまでの婚姻期間に形成される財産を分割できる制度ですが、誤解も多く、年金分割を当てにした離婚は避けたいものです。
執筆者:大竹麻佐子(おおたけまさこ)
CFP®認定者・相続診断士
ゆめプランニング笑顔相続・FP事務所 代表
証券会社、銀行、保険会社など金融機関での業務を経て現在に至る。家計管理に役立つのでは、との思いからAFP取得(2000年)、日本FP協会東京支部主催地域イベントへの参加をきっかけにFP活動開始(2011年)、日本FP協会 「くらしとお金のFP相談室」相談員(2016年)。
「目の前にいるその人が、より豊かに、よりよくなるために、今できること」を考え、サポートし続ける。
従業員向け「50代からのライフデザイン」セミナーや個人相談、生活するの観点から学ぶ「お金の基礎知識」講座など開催。
2人の男子(高3と小6)の母。品川区在住
ゆめプランニング笑顔相続・FP事務所 代表 https://fp-yumeplan.com/
目次
熟年離婚したい。データでみる離婚件数の推移
長年にわたる婚姻のなかで、多少の不満は誰にでもあるものです。夫婦関係にはさまざまな問題が存在しますが、これ以上人生を共にすることができないとなれば、離婚も選択肢です。
「亭主元気で留守がいい」というフレーズがはやった記憶もありますが、退職後に自宅で長時間共に過ごす時間が増えると、これまで気にならなかったことが気になる、という声もあります。また、当人たちには、他人には分からない理由があるのでしょう。
上図は、人口動態調査より同居期間別にみた離婚件数の推移です。件数総数は、2002年をピークに減少傾向にありますが、同居期間35年以上の夫婦の離婚件数は、1975年には300件でしたが、2007年には5000件を超え、ここ数年は6000件前後で推移しています。
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夫婦で形成した財産には、金融資産や自宅のほか「年金」も含まれる
離婚が成立すれば、自由が得られる一方で、離婚に伴い、財産分与や感情のぶつけ合いなど心身ともに疲弊するケースが多くみられるため、慎重に考えたいものです。
持ち家や金融資産などは、婚姻中に夫婦が共同で形成し維持してきた「共同の財産」です。夫婦いずれかの名義であっても2人のものという前提です。
財産分与にあたって、金融資産などは残高で分割することが可能ですが、自宅などの不動産は半分にすることができません。売却したうえで資金を等分するのか、どちらが受け取るのか、ローンをどうするのかなどもめるケースや、評価額の鑑定などに予想外に多額の費用が生じる場合もあります。
また、こうした財産のうち、将来受け取る年金の受給権も分割の対象とすることができます。
「年金分割」で夫が受け取る年金を分割して受け取る
婚姻期間に納めた厚生年金を「夫婦共同で納めた年金」として受給時に分割することができます。
例えば、会社員の夫は、働くことで収入を得て家族の生活を支えます。報酬に応じた年金保険料は将来受け取る老齢厚生年金の受給額に反映しますが、家で家族のためにサポートする専業主婦の妻には厚生年金の上乗せがありません。
そんな2人が離婚した場合、夫と妻の年金に不公平が生じることになります。夫の厚生年金受給権は妻のサポートがあったからこその観点から是正するための制度といえます。年金分割制度には以下の2種類があります。
(1)合意分割制度
2007年4月1日以降に離婚した場合、最大50%を限度に、分割割合を夫婦間の話し合いで決定します。話し合いで合意が得られなかった場合は、裁判所が分割割合を決定します。
(2)3号分割制度
2008年4月1日以降に専業主婦または主夫だった場合に請求でき、双方の合意なく半分(50%)ずつ分割します。
合意分割の請求が行われた場合、婚姻期間に3号分割の対象となる期間が含まれるときは、合意分割と同時に3号分割の請求があったとみなされ、同時併用が可能です。
分割をした人は、ご自身の厚生年金記録から、相手方に分割をした残りの標準報酬に基づき年金額が計算され、一方、分割を受けた人は、ご自身の記録と分割された標準報酬に基づき年金額が計算されます。
合意分割制度、3号分割制度ともに、離婚した日の翌日から2年以内に請求することが要件となりますので注意が必要です。離婚が確定するまでに相当事由がある場合や死亡の場合には特例が適用される場合もありますので、年金事務所へお問い合わせください。
知らないと後悔する結果に
「離婚後は夫の年金を半分受け取ることができる」と安易に考えるのは、とても危険です。ねんきん定期便に記載されている65歳以降に受け取ることのできる年金額は、老齢基礎年金と老齢厚生年金が合算された額ですが、分割の対象となるのは、厚生年金部分の「婚姻期間分」のみです。
実際には、自分の老齢基礎年金と合わせても、10万円に満たず、家賃を支払ったら生活していけないというケースも散見されます。生活のために仕事をして収入が得られればよいのですが、仕事も見つからず、生活保護を受けたり、子世代に迷惑をかけることになる場合も考えられます。
思わぬアクシデントや長年たまったストレスから「離婚」に踏み切るのも選択肢です。ただし、損得勘定では立ち行かぬ感情もありますが、今後の生活をふまえた選択をすべきでしょう。
よく考えたうえでの人生の選択を
年金分割という制度は、「会社員として働き、家族のために収入を得る人」と「家で、家族を守る人」との役割分担が公平に評価されるという点で画期的なものです。
ただし、年金分割を当てにした離婚は、期待した成果を得られるものではないことを知っておきたいものです。離婚を考えたのであれば、弁護士などに相談をしながら慎重に進めていくことが望ましいでしょう。
出典
政府統計の総合窓口(e-Stat)「年次別にみた同居期間別離婚件数及び百分率並びに平均同居期間」
執筆者:大竹麻佐子
CFP🄬認定者・相続診断士