更新日: 2022.02.25 厚生年金

働きたい60代は注目!「在職老齢年金」の改正を分かりやすく解説。

執筆者 : 伊達寿和

働きたい60代は注目!「在職老齢年金」の改正を分かりやすく解説。
近年は、政府の高年齢者雇用対策により65歳まで定年が引き上げられるケースや、継続雇用制度で60歳以降も会社員として仕事を続ける人が増えています。
 
また、60代は公的年金の受給が始まる年代であり、会社員として厚生年金に加入し、働きながら老齢厚生年金を受け取るケースもあるかもしれません。
 
この場合、年金や給与の額によっては年金の一部、または全額が支給停止になることがありますが、これを「在職老齢年金」といいます。
 
今回は在職老齢年金について、令和4年度から改正されるポイントを紹介します。
伊達寿和

執筆者:伊達寿和(だて ひさかず)

CFP(R)認定者、1級ファイナンシャルプランニング技能士、相続アドバイザー協議会認定会員

会社員時代に、充実した人生を生きるには個人がお金に関する知識を持つことが重要と思いFP資格を取得。FPとして独立後はライフプランの作成と実行サポートを中心にサービスを提供。

親身なアドバイスと分かりやすい説明を心掛けて、地域に根ざしたFPとして活動中。日本FP協会2017年「くらしとお金のFP相談室」相談員、2018年「FP広報センター」スタッフ。
https://mitaka-fp.jp

在職老齢年金とは

70歳未満の会社員・公務員は厚生年金保険に加入しています。一方で、老齢年金(老齢基礎年金と老齢厚生年金)は原則65歳になると支給が始まり、生年月日によっては65歳よりも前に「特別支給の老齢厚生年金」の支給が始まります。
 
つまり、60歳以降は会社員・公務員として給料を受け取りながら、老齢厚生年金も受け取るケースが出てくるのです。
 
「在職老齢年金」とは、老齢厚生年金の額(基本月額)と給与や賞与の額(総報酬月額相当額)の合計が一定の額を超えると、年金の一部または全額が支給停止になる制度です。
 
なお、老齢厚生年金の基本月額とは、加給年金を除いた老齢厚生年金(比例報酬部分)の月額であり、総報酬月額相当額とは、その月の給与(標準報酬月額)と、賞与(標準賞与額)の1年間の合計を12で割った額を足した額のことです。
 

令和4年度の改正点

在職老齢年金は、60歳台前半(60歳以上65歳未満)と60歳台後半(65歳以降)で制度が分かれていますが、令和4年度から改正されるのは60歳台前半の部分です。
 
現在の60歳台前半の在職老齢年金では、老齢厚生年金の基本月額と、総報酬月額相当額の合計が28万円を超えると、老齢厚生年金の一部または全額が支給停止になります。
 
しかし、改正後は基準額の28万円が47万円に引き上げられますので、合計が47万円以下であれば支給停止の対象にはなりません。
 
65歳台後半(65歳以降)の在職老齢年金については現行と同じで、基本月額と総報酬月額相当額の合計が47万円を超えると、老齢厚生年金の一部または全額が支給停止になります。
 

在職老齢年金の計算方法の変更点

60歳台前半の在職老齢年金について、改正前と改正後で支給停止になる額の計算方法がどのように変わるのでしょうか。
 

改正前の計算方法

現行の制度では、基本月額と総報酬月額相当額に応じて4つの計算式を使い分ける必要があり、やや複雑です。
 
【ケース1】基本月額と総報酬月額相当額の合計が28万円以下
支給停止なし
 
【ケース2】総報酬月額相当額が47万円以下で、基本月額が28万円以下
支給停止になる月額=(総報酬月額相当額+基本月額-28万円)÷2
 
【ケース3】総報酬月額相当額が47万円以下で、基本月額が28万円超
支給停止になる月額=総報酬月額相当額÷2
 
【ケース4】総報酬月額相当額が47万円超で、基本月額が28万円以下
支給停止になる月額=(47万円+基本月額-28万円)÷2+(総報酬月額相当額-47万円)
 
【ケース5】総報酬月額相当額が47万円超で、基本月額が28万円超
支給停止になる月額=(47万円÷2)+(総報酬月額相当額-47万円)
 

改正後の計算方法

令和4年4月の改正後は、在職老齢年金の計算方法がシンプルになります。
 
【ケース1】基本月額と総報酬月額相当額の合計が47万円以下
支給停止なし
 
【ケース2】基本月額と総報酬月額相当額の合計が47万円超
支給停止になる月額=(基本月額+総報酬月額相当額-47万円)÷2
 
なお、計算式で算出した支給停止になる月額が老齢厚生年金の支給額を超える場合は、老齢厚生年金が全額支給停止になります。
 
例として、老齢厚生年金が月10万円(基本月額10万円)、給与が月32万円(標準報酬月額32万円、賞与はなし)のケースを考えてみましょう。
 
この場合、基本月額と総報酬月額相当額の合計が42万円であり、現行の制度では基準額の28万円を超えているので年金支給額が調整されます。
 
改正前の【ケース2】に当てはまるため、支給停止になる月額は(32万円+10万円-28万円)÷2=7万円となります。従って、老齢厚生年金の月10万円のうち7万円が支給停止となり、実際に受け取るのは3万円です。
 
しかし、改正後は基準額の47万円以下ですので、支給停止はなくなり、月10万円をそのまま受け取ることができるようになります。
 

改正で影響を受ける人

在職老齢年金の改正で影響を受けるのは、65歳未満で老齢厚生年金が支給される人で、厚生年金に加入して就労するケースです。
 
老齢厚生年金は原則65歳から支給開始のため、65歳未満で老齢厚生年金が支給される人は限られており、繰上げ受給をする場合を除くと、「特別支給の老齢厚生年金」の対象となるケースです。
 
男性は昭和36年(1961年)4月1日以前に生まれた人、女性は昭和41年(1966年)4月1日以前に生まれた人が対象となります。
 
厚生労働省の2022年度末推計によると、在職老齢年金による支給停止対象者数は現行の制度では約37万人ですが、改正後は約11万人に減る見込みです。
 
これまで、年金が減るのを避けるために勤務日数や時間など働き方を調整する、あるいは60歳で退職するケースがあったかもしれません。
 
今回の改正で、60歳以降も厚生年金加入者として働いて収入があっても、年金が減額されるケースは少なくなります。老後の家計としてはプラスになる改正であり、60歳を過ぎてもこれまでどおり仕事を続ける人が増えるかもしれません。
 
出典
厚生労働省 年金制度改正法(令和2年法律第40号)が成立しました
厚生労働省 年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律の概要(令和2年法律第40号、令和2年6月5日公布)
日本年金機構 60歳台前半(60歳から65歳未満)の在職老齢年金の計算方法
日本年金機構 特別支給の老齢厚生年金
 
執筆者:伊達寿和
CFP(R)認定者、1級ファイナンシャルプランニング技能士、相続アドバイザー協議会認定会員

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