更新日: 2022.04.06 国民年金

年金の「繰下げ受給」はメリットだけじゃない? どんなデメリットがある?

執筆者 : 堀江佳久

年金の「繰下げ受給」はメリットだけじゃない? どんなデメリットがある?
公的年金は原則65歳開始ですが、65歳で受け取らずに66歳以降に年金を繰り下げると、繰り下げるほど受給額を増やすことができます。これが「繰下げ受給」です。
 
また、2022年4月から年金の繰下げ受給の開始年齢の上限が、70歳から75歳に引き上げられ、年金受給額の増額割合が「最大42%」から「最大84%」まで倍増します。
 
一方で、繰り下げをする場合に、年金を受給するまで健康で働けるのか、貯蓄はあるのかなどといった問題もあります。
 
今回は、この「繰下げ受給」の基本を振り返り、メリットとデメリットについて解説したいと思います。
堀江佳久

執筆者:堀江佳久(ほりえ よしひさ)

ファイナンシャル・プランナー

中小企業診断士
早稲田大学理工学部卒業。副業OKの会社に勤務する現役の理科系サラリーマン部長。趣味が貯金であり、株・FX・仮想通貨を運用し、毎年利益を上げている。サラリーマンの立場でお金に関することをアドバイスすることをライフワークにしている。

年金の「繰下げ受給」とは?

(1)制度の概要

老齢基礎(厚生)年金は、65歳で受け取らずに66歳以降75歳まで(注1)の間で繰り下げて増額した年金を受け取ることができます。繰り下げた期間によって年金額が増額され、その増額率は一生変わらず受給できます。
 
また、老齢基礎年金と老齢厚生年金は別々に繰り下げることができますので、生活スタイルに合わせて選択するのもよいかと思います。
 
ただし、65歳に達する前に受け取っている特別支給の老齢厚生年金は、「繰下げ制度」はありませんので注意が必要です。
 
(注1)
昭和27年4月1日以前生まれの方(または平成29年3月31日以前に老齢基礎(厚生)年金を受け取る権利が発生している方)は、繰り下げをする上限は70歳(権利を得てから5年後)までです。
 

(2)加算額

繰下げ受給をした場合の加算額は、振替加算額を除いた老齢基礎年金の額と、加給年金額を除いた老齢厚生年金の額に、以下に記した増額率を乗じて計算します。
 
増額率 (最大84%:※1)= 0.7%×65歳に達した月(※2)から繰下げ申出月までの月数(※3)
 
例えば、68歳まで繰り下げた場合は、25.2%、70歳で42.0%、75歳で84%です。
 
しかし、注意点があります。以下の場合には、在職老齢年金制度において支給が停止となる金額は、増額の対象にすることはできません。

●65歳以降で厚生年金保険に加入した期間がある
●70歳以降に厚生年金保険が適用された事務所に勤めていた期間がある

(※1)
昭和27年4月1日以前生まれの方(または平成29年3月31日以前に老齢基礎〈厚生)年金を受け取る権利が発生している方)は、繰り下げできる上限の年齢は70歳(権利を得てから5年後)までとなり、増額率は最大で42%です。
 
(※2)
年齢の計算は「年齢計算に関する法律」に基づいて行われ、65歳に達した日は、65歳の誕生日の前日になります。
(例)4月1日生まれの方が65歳に達した日は、誕生日の前日の3月31日です。
 
(※3)
65歳以降に年金を受け取る権利が発生した場合は、年金を受け取る権利が発生した月から繰下げ申出月までの月数で計算します。
 

繰下げ受給のメリットとデメリット

(1)メリット

上記でみてきたように、メリットとしては、1ヶ月当たりの年金受給額が増額される点です。
 
年金を受け取って超低金利の定期預金で運用することと比較すると、非常に大きな金利(増額率)となっています。特に、2022年4月からは75歳まで繰り下げすることが可能となったので、最大84%増額します。
 
65歳以降年金受給開始年齢を繰り下げする場合には、それまで働いて収入を得る、貯金でつなぐ、もしくは両方を組み合わせて、繰り下げした年齢からは増額した年金で生活するといった人生設計が必要です。
 

(2)デメリット

1. 長生きできなかった場合には、年金の総受給額が少なくなる
65歳から年金を受け取れたものを、仮に70歳へ繰り下げた場合には、42.0%の受給額の増額が見込めますが、早めに亡くなった場合には、年金のもらい損となります。
 
2. 税金や社会保険料が増える
受給される年金が増えると、その分所得税や住民税といった税金、国民健康保険料や介護保険料などの社外保険料が増えるので、その分の負担が大きくなります。
 
3. 加給年金(注2)が受給されなくなる
老齢厚生年金を繰り下げる場合、繰り下げ期間中は、年金の家族手当といわれる「加給年金」が支給されません。
 
ただし、老齢基礎年金のみを繰り下げて、老齢厚生年金を繰り下げなければ、加給年金を受給することは可能です。
 
(注2)
「加給年金」は、厚生年金の被保険者月数が240月以上の老齢厚生年金の受給権者が65歳未満の配偶者の生計を維持している場合に、老齢厚生年金に加算されるもの。
 
これまでみてきたように、公的年金を繰り下げれば受給額が増えるからと、安易に繰下げ受給をすることなく、デメリットを踏まえ、ご自身の健康状況、資産保有額やライフプランを考えて慎重に選択をする必要があると考えます。
 
出典
日本年金機構 年金の繰下げ受給
厚生労働省年金局 年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律の概要(令和2年法律第40号、令和2年6月5日公布)
厚生労働省年金局 年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律 参考資料集(令和2年法律第40号、令和2年6月5日公布)
 
執筆者:堀江佳久
ファイナンシャル・プランナー

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