更新日: 2022.05.30 その他年金

シニア世代の再婚、年金制度で注意することは?

執筆者 : 棚田将史

シニア世代の再婚、年金制度で注意することは?
婚姻件数などを取りまとめた政府統計の「人口動態調査」によると、2019年度の再婚者の平均年齢は男性44.1歳・女性40.8歳との結果が出ており、シニア世代を中心とした再婚は以前より珍しいものではなくなってきました。
 
年齢的に年金制度が身近となるシニア世代は、再婚前に年金について注意すべきポイントがあります。今回は「年金分割」「遺族年金」「加給年金」の3つについて解説します。
棚田将史

執筆者:棚田将史(たなだ まさふみ)

2級ファイナンシャル・プランニング技能士・証券外務員1種

離婚しても年金分割した厚生年金記録は継続する

離婚や事実婚解消などを行った際、一定の条件に該当した場合は「年金分割」ができます。
 
年金分割とは、当事者の一方または双方からの請求によって、婚姻期間中の厚生年金記録(標準報酬月額・標準賞与額)を一定の割合で分割できる制度です(国民年金や厚生年金基金などは対象外)。
 
年金分割の条件は次の3つです。

・婚姻期間中に厚生年金記録がある
・当事者の合意または裁判手続きで按分割合を決める
・請求期限の2年を経過していない

図表1

 
(出典:日本年金機構 離婚時の年金分割について)
 
年金の金額ではなく、厚生年金保険料の納付記録を分け合います。例えば婚姻期間中に保険料300万円分の納付記録が発生したときは、年金分割によって夫が200万円・妻が100万円支払ったことにできます。
 
分割の方法は、夫婦の合意で割合を決定する「合意分割」と、一定の条件を満たす国民年金第3号被保険者(専業主婦・主夫など)の請求によって2分の1ずつに分割する「3号分割」の2種類です。この年金分割の効果は、離婚後に再婚・事実婚または元配偶者が死亡した場合も継続されます。被保険者に分割分が戻ることはありません。
 
被保険者期間も長くなるシニア離婚だと、年金分割による年金の変動幅も大きくなります。再婚時のライフプラン見直し時には、年金分割分を忘れずに考慮しましょう。
 

再婚したときの遺族年金の取り扱い

原則として、遺族厚生年金および遺族基礎年金の受給権を持つ人が再婚・事実婚をした場合、遺族年金の受給権は消滅します。
 
そのため遺族年金の受給者は再婚後、年金の種類ごとに決められた期限内に「遺族年金失権届」を、年金事務所または年金相談センターへ提出しなければなりません。
 

年金の種類 遺族年金失権届の提出期限
遺族厚生年金 再婚した日などの失権理由に該当した日から10日以内
遺族基礎年金 再婚した日などの失権理由に該当した日から14日以内

日本年金機構の「遺族年金を受けている方が結婚や養子縁組などをしたとき」を基に筆者作成
 
提出を怠ると遺族年金の不正受給とみなされ、不正受給分の返還と延滞金の支払いが命じられます。悪質なケースは詐欺罪として、懲役または罰金刑が科される可能性もあります。若い世代と比べて遺族年金の受給者が多くなるシニア結婚においては、自分または相手の受給権を確認しておきましょう。
 
なお、遺族年金の受給者に子どもがいる場合は、再婚時に受給権が子どもへ移るケースがあります。また、受給権を持つ子どもを再婚相手と養子縁組にしたときは、受給権の消滅条件である「直系血族または直系姻族以外の者の養子になること」に該当せず、その他の消滅自由に当てはまらない限りは引き続き遺族年金を受け取れます。
 
とはいえシニア結婚では、子どもの年齢的に遺族年金の対象外となるケースも珍しくありません。参考程度の情報になります。
 

再婚時の年齢によっては加給年金・振替加算の対象にならない?

加給年金とは、ある人が「加給年金の条件を満たした時点」で生計を維持している配偶者または子どもがいる場合、人数に応じた年金が加算される制度です。条件は次のとおりです。

・厚生年金保険の被保険者期間が20年以上ある人が、65歳に到達した
・65歳になった後に、厚生年金保険の被保険者期間が20年に到達した

加給年金の対象者や年齢制限、加給年金額もみていきましょう。

対象者 年齢制限 加給年金額(年額)
配偶者 65歳未満 22万4700円
1人目・2人目の子ども ・18歳到達年度の3月31日
・1級・2級の障害状態であるときは20歳未満
各22万4700円
3人目以降の子ども ・18歳到達年度の3月31日
・1級・2級の障害状態であるときは20歳未満
各7万4900円

日本年金機構の「加給年金額と振替加算」を基に筆者作成
 
65歳前後での結婚も多いシニア結婚だと、結婚するタイミングによっては加給年金が受け取れない可能性があります。
 
例えば被保険者期間20年以上の人が65歳に到達したときに、生計を維持する配偶者や子どもがいないと、到達時点では加給年金の対象者が存在しないことになります。この場合、その後に結婚したとしても加給年金は支給されません。
 
65歳到達時点で被保険者期間が20年未満の人も同様で、20年に到達した時点で対象者がいないと、加給年金が受け取れなくなります。また、加給年金を受け取れない場合は振替加算(配偶者が65歳以上になったら加算される年金)も適用できません。
 
60代でのシニア結婚は、再婚するタイミングによって生涯受け取れる年金額が大きく変わる可能性があります。加給年金については、結婚前に年金事務所や専門家に確認しておきましょう。
 

出典

政府統計の総合窓口 人口動態調査 人口動態統計 確定数 婚姻
日本年金機構 離婚時の年金分割
国家公務員共済組合連合会 Q 離婚した元配偶者から分割した年金を受給している者です。再婚した場合、現在受給している年金はどのようになりますか。また、何か手続きは必要ですか。
日本年金機構 遺族年金を受けている方が結婚や養子縁組などをしたとき
日本年金機構 遺族年金ガイド
日本年金機構 加給年金額と振替加算
 
執筆者:棚田将史
2級ファイナンシャル・プランニング技能士・証券外務員1種

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