更新日: 2022.07.22 厚生年金
夫が脱サラして起業。これまで支払っていた厚生年金はどうなりますか?
それでは、これまでに支払ってきた厚生年金保険料は、どのように扱われるのでしょうか。
今回は、脱サラして自営業となった場合の年金手続きと厚生年金の扱いについて解説します。
執筆者:辻章嗣(つじ のりつぐ)
ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士
元航空自衛隊の戦闘機パイロット。在職中にCFP(R)、社会保険労務士の資格を取得。退官後は、保険会社で防衛省向けライフプラン・セミナー、社会保険労務士法人で介護離職防止セミナー等の講師を担当。現在は、独立系FP事務所「ウィングFP相談室」を開業し、「あなたの夢を実現し不安を軽減するための資金計画や家計の見直しをお手伝いする家計のホームドクター(R)」をモットーに個別相談やセミナー講師を務めている。
https://www.wing-fp.com/
国民年金の加入手続き
会社員の夫が退職して自営業となる場合、厚生年金の被保険者であった夫とその夫に扶養されていた妻は、退職日の翌日から国民年金の第1号被保険者となります。
そして、夫婦ともに退職日の翌日から14日以内に、住所地の市区町村役場で第1号被保険者の加入手続きをする必要があります。手続きには、基礎年金番号通知書または年金手帳などの基礎年金番号が分かる書類が必要です(※1)。
なお、会社が加入していた健康保険組合からも脱退することになりますので、被保険者であった健康保険組合の任意継続被保険者になるか、ご夫婦で国民健康保険に加入する必要がありますが、ここでは手続き方法などの説明は省略します。
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支払った厚生年金保険料は老齢厚生年金に反映される
厚生年金の被保険者であった期間に支払った厚生年金保険料は、老齢基礎年金の受給資格期間を満たせば、将来受給する老齢基礎年金に上乗せされる老齢厚生年金として受給することができます(※2)。
1.老齢基礎年金の受給資格期間とは
受給資格期間とは、国民年金の保険料を納めた期間、厚生年金の被保険者および厚生年金の被保険者の被扶養配偶者(国民年金の第3号被保険者)であった期間、ならびに年金額には反映されない合算対象期間や保険料が免除された期間を含んだ期間をいいます。
そして、老齢基礎年金はもとより老齢厚生年金も、受給するためには受給資格期間が10年以上あることが必要となります(※2)。
2.受給できる老齢厚生年金の額は
老齢厚生年金は原則として65歳から受給でき、その年金額は下式のとおり報酬比例部分に経過的加算と加給年金額を合計した額になります(※3)。
老齢厚生年金の年金額 = 報酬比例部分 + 経過的加算額 + 加給年金額
(1)報酬比例部分
報酬比例部分は、老齢厚生年金の年金額において基礎となるもので、厚生年金の加入期間と過去の報酬などに応じて下式により求められた額になります(※4)。
報酬比例部分の額 = 平均標準報酬額 × 0.005481 × 加入期間の月数(注1)
注1:平成15年3月までの加入期間に関する計算式は異なります。
平均標準報酬額とは、計算の基礎となる各月の標準報酬月額と標準賞与額の総額を、加入期間で割って得た額です。
また、厚生年金保険料は、加入期間の標準報酬月額や標準賞与額に保険料率を掛けて計算された額を支払っていますので、今までに支払った保険料は、老齢厚生年金の報酬比例分に反映されます。
(2)経過的加算
経過的加算は、昭和61年4月の年金制度改正に伴って設けられた制度で、以下の計算式で求められた額となります(※3、5)。
経過的加算=(1621円(注2)× 厚生年金加入月数)-(77万7800円(注2)×20歳以上60歳未満の厚生年金加入月数/480月)
注2:令和4年度の額
経過的加算額は通常数百円程度ですが、20歳未満の加入期間がある方は多少多くなります(支給対象であるかは、生年月日によります)。
(3)加給年金額
加給年金は、退職するまでの厚生年金保険の被保険者期間が20年以上ある方が、65歳到達時点で、その方に生計を維持されている下記の配偶者または子がいるときに加算されます(※3)。
対象者 | 加給年金額 (令和4年度額) |
年齢制限 |
---|---|---|
配偶者(注3) | 38万8900円(注4) | 65歳未満であること |
1人目・2人目の子 | 各22万3800円 | 18歳到達年度の末日までの間の子 または、1級・2級の障害の状態にある20歳未満の子 |
3人目以降の子 | 各7万4600円 |
(※3を基に筆者作成)
注3:配偶者が、被保険者期間が20年以上の老齢厚生年金などを受け取る権利があるとき、または障害年金を受けられる間は、配偶者加給年金額は支給停止されます。
注4:配偶者の加給年金額は、16万5100円の特別加算額を含んだ額です。なお、老齢厚生年金を受けている方の生年月日が昭和18年4月1日以前の場合は、特別加算額が異なります。
まとめ
会社員の夫が退職して自営業となる場合、夫婦ともに退職日の翌日から14日以内に、第1号被保険者の加入手続きをする必要があります(妻が第3号被保険者であった場合)。
これまで支払っていた厚生年金保険料については、老齢基礎年金の受給資格期間を満たしていれば老齢厚生年金の報酬比例分として受給することができますし、経過的加算にも反映されます。
さらに、厚生年金の加入期間が20年以上である方には、一定の要件を満たす配偶者と子供に加給年金が支給されます。
出典
(※1)日本年金機構 国民年金に加入するための手続き
(※2)日本年金機構 老齢年金
(※3)日本年金機構 老齢厚生年金の受給要件・支給開始時期・年金額
(※4)日本年金機構 年金用語集 は行 報酬比例部分
(※5)日本年金機構 年金用語集 た行 定額部分
執筆者:辻章嗣
ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士