更新日: 2022.08.29 その他年金

年金額が不服なら「不服申し立て」すべき? 「容認」されるのは何パーセント?

執筆者 : 柘植輝

年金額が不服なら「不服申し立て」すべき? 「容認」されるのは何パーセント?
決定した年金の金額が思った以上に少なく、不服に感じることもあるかもしれません。
 
そのようなとき、不服申し立てをするべきなのでしょうか。また、実際に不服申し立てを行ったとして、それが容認されるケースは何パーセントくらいなのでしょうか。
 
今回は、年金の不服申し立てについて解説していきます。
柘植輝

執筆者:柘植輝(つげ ひかる)

行政書士
 
◆お問い合わせはこちら
https://www.secure-cloud.jp/sf/1611279407LKVRaLQD/

2級ファイナンシャルプランナー
大学在学中から行政書士、2級FP技能士、宅建士の資格を活かして活動を始める。
現在では行政書士・ファイナンシャルプランナーとして活躍する傍ら、フリーライターとして精力的に活動中。広範な知識をもとに市民法務から企業法務まで幅広く手掛ける。

年金の決定に不満があれば不服申し立てができる

知らない方もいるかと思いますが、年金について決定された事項に不服があるときは、国に不服申し立てをすることができます。例えば、年金額や障害年金の等級に納得がいかない場合などですが、この申し立てを「審査請求」といいます。
 
審査請求ができるのは、年金の決定があったことを知った日の翌日から起算して3ヶ月以内であり、請求方法は文書または口頭とされています。また、請求先は地方厚生局内に設置された社会保険審査官となります。
 
審査請求の裁決(下された結論のこと)に不服があれば、決定書の謄本が送付された日の翌日から起算して2ヶ月以内であれば、さらに社会保険審査会へ再審査請求ができます。
 
ただし、あくまでも不服申し立てが「できる」というものであり、必ずしも申し立ての事由が認められ、請求が通るというわけではありません。なお、令和2年度の審査請求の受付件数は1297件となっています。
 

決定に不服がある場合は訴訟も可能

原則として審査請求を経た後となりますが、行政事件訴訟法などに基づく訴訟を提起し、決定の取り消しを訴えることもできます。
 
しかし、訴訟となると手続きが複雑となるため、個人で行うのは非常に難易度が高く、年金に関する訴訟問題を得意とする弁護士へ依頼することになるのが通常です。その場合は弁護士費用だけでもかなりの金額となるため、訴訟は選択肢としては存在するものの、年金の決定への不服に対する現実的な手段ではないといえます。
 

不服申し立てが容認される割合はどれくらい?


 
厚生労働省が公表している「社会保険審査会 年度別(再)審査請求受付・裁決件数等の推移」によれば、審査請求(再審査請求含む)に対して、それが容認されたという事例はあまり多くはないようです。
 
令和2年度でいえば、年間で1244件の裁決がありましたが、そのうち容認に至ったのは89件で全体の7%ほどです(図表1)。残りは棄却(審理した上で退けられること)、または却下(要件を備えていない不適法な訴えなどとして審理前に退けられること)となっています。
 
【図表1 社会保険審査会 年度別(再)審査請求受付・裁決件数等の推移】
図表1

 
出典:厚生労働省 「社会保険審査会 年度別(再)審査請求受付・裁決件数等の推移」
 
年金額の計算に関しては、厳格かつ複雑なルールで規定されています。私たちの感覚では「おかしい」と思っても、客観的に見るとルールに則した正しい決定や裁決である場合が多く、なおさら容認を勝ち取るのは難しいことが想定されます。
 

不服申し立ては長期化することも珍しくはない

不服申し立ての注意点として、すぐに裁決が下ることはもちろん、例えば数ヶ月内など短期間で結論が出るわけではありません。現実には、大多数の請求が翌年度に繰り越しされています。
 
令和2年度の審査請求では前年度からの繰り越し分が1274件あり、新規受付の1297件と合わせた2571件のうち、およそ45%の1148件が翌年度に繰り越されています。このように不服申し立てを行う際は、長期化することを前提に考えておく必要があるといえるでしょう。
 

年金の不服申し立てを行うなら却下や長期化も覚悟を

年金額をはじめとする年金の決定について不服があれば、不服申し立ての審査請求を行い、決定の取り消しなど変更を求めることができます。
 
しかし、実際に不服申し立てをしても、裁決で容認されたのは令和2年度で7%程度となっており、思うような結果にならない可能性が高い上、裁決にまでには時間もかかります。
 
年金について不服申し立てや訴訟を考えたときは、手続きの負担などを減らすため、まず弁護士や社労士など年金に詳しい専門家に相談し、対応を決めることをおすすめします。
 

出典

日本年金機構 年金の決定に不服があるとき(審査請求)
厚生労働省 社会保険審査会における社会保険審査制度の概要
厚生労働省 社会保険審査会 年度別(再)審査請求受付・裁決件数等の推移
 
執筆者:柘植輝
行政書士

ライターさん募集