更新日: 2023.09.13 その他年金

年金の受給を70歳以降に繰り下げようか悩んでいます。注意点などはありますか?

年金の受給を70歳以降に繰り下げようか悩んでいます。注意点などはありますか?
年金の繰下げ受給の制度が改正され、70歳を超えて年金を繰下げられるようになりました。できるだけ長く繰下げて、増額率を上げようと考える人もいるでしょう。しかし、年金を長期間繰下げることには、リスクも伴います。
 
本記事では、年金を70歳以降に繰下げる場合の増額率や、繰下げを選択するときに注意することをまとめました。
FINANCIAL FIELD編集部

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年金受給を遅らせると年金額は最大84%増やせる

老齢年金の繰下げ受給を選択すると、年金の受給開始を最高で75歳まで(※)遅らせることが可能です。また、繰下げた期間に応じて、年金受給額が次の計算式で算出した割合で増額されます。
 
増額率(最大84%)=0.7%×65歳の誕生日の前日が属する月から繰下げ申出月前月までの月数
 
例えば、70歳時点で年金受給を開始する場合、増額率は誕生日の前日が属する月からの経過月数に応じて42.0~49.7%となります。また、71~75歳までの間に年金受給を開始する場合の増額率は、図表1のとおりです。
 
※昭和27年4月1日以前生まれ、または平成29年3月31日以前に老齢年金を受け取る権利が発生している人は70歳まで
 
【図表1】

71歳0ヶ月~11ヶ月 72歳0ヶ月~11ヶ月 73歳0ヶ月~11ヶ月 74歳0ヶ月~11ヶ月 75歳
50.4~58.1% 58.8~66.5% 67.2~74.9% 75.6~83.3% 84.0%

出典:日本年金機構 年金の繰下げ受給
 

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年金受給を75歳まで遅らせた場合の損益分岐点は80代後半

仮に年金受給を75歳まで繰下げた場合、本来の65歳から受け取る場合の損益分岐点(年金の受給累計額が65歳から受け取る場合を上回るタイミング)は86歳です。詳しくは、次のように計算できます。

・65歳からの年金額=100
・65~75歳までの10年間に本来受け取れる年金額:100×10年=1000
・75歳からの増額分:100×増加率84%=84

よって、繰下げによる増加分で65~75歳に受け取れるはずだった10年分の年金額を回収できるのは、1000÷84=約11.9年後の86歳11ヶ月です。
 
つまり、86歳11ヶ月まで年金を受給できなければ、受給累計額の面では損をするということです。
 
厚生労働省「令和4年簡易生命表の概況」によると、令和4年時点で70歳の男性の平均余命は15.56年です。75歳まで年金受給を繰下げた場合、損益分岐点である86歳11ヶ月に到達する前に亡くなってしまうリスクは決して低くないといえます。
 
また、男性の平均健康寿命が近年70歳台前半で推移していることを考えると、75歳で年金の受給を開始した場合、繰下げで増やした年金を使えるころには身体的に制限のある状態になっている可能性もあります。データは万人に当てはまるものではありませんが、健康状態などに応じて受給開始時期を見極めなければ、結果として損をするリスクがあることは考慮する必要があるでしょう。
 
なお、国民年金と厚生年金の繰下げ時期は動かせるため、片方だけを繰下げてリスクを下げる選択肢もあります。
 

万が一繰下げ待機中に亡くなると5年以上前の年金は無効になる

繰下げ待機中の人が亡くなった場合、65歳から亡くなるまでに本来受け取れるはずだった年金(増額なし)が「未支給年金」として一定の遺族に一括で支払われます。ただし、未支給年金の請求から5年以上前の年金は時効で権利がなくなることに注意しましょう。
 
例えば、繰下げ待機中の人が73歳で亡くなった場合、68歳から亡くなるまでの5年間分の年金は支払われますが、それ以前の年金は一切受け取れません。
 

医療保険・介護保険の自己負担割合、保険料、税金が増える可能性にも注意

公的医療保険や介護保険の保険料は、所得に応じて増減します。また、後期高齢者医療制度や介護保険サービスの自己負担割合は、所得額に応じて1割から3割まで変動します。繰下げ受給を選択して年金受給額が大幅に増えると、保険料額や自己負担割合の区分が高くなる可能性があるため注意が必要です。
 
また、年金額が増えると、年金収入にかかる所得税の金額も増えます。収入金額の区分が上がれば税率も上がるため、増額率からイメージするほどには年金の手取りが増えないケースもあるでしょう。
 

年金受給を遅らせると年金額は増えるがいいことばかりではない

年金の繰下げ受給のメリットは、年金額を大きく増やせる点です。75歳まで最大限年金受給を遅らせると、増額率は84%にもなります。一方で、損益分岐点が平均余命や平均健康寿命を超えることや、医療費や介護サービス費、税金などの負担が増える可能性があることには注意が必要です。
 
メリットとデメリットの両方を理解したうえで、年金を繰下げるべきか、何年繰下げるかを十分検討しましょう。
 

出典

日本年金機構 年金の繰下げ受給
日本年金機構 年金を受けている方が亡くなったとき
厚生労働省 令和4年簡易生命表の概況
厚生労働省 介護事業所・生活関連情報検索 サービスにかかる利用料
国税庁 高齢者と税(年金と税)
 
執筆者:FINANCIAL FIELD編集部
ファイナンシャルプランナー

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