更新日: 2024.02.13 その他年金

年金は繰上げも繰下げもしないのがベスト その1 年金の繰上げと繰下げの仕組み

執筆者 : 浦上登

年金は繰上げも繰下げもしないのがベスト その1 年金の繰上げと繰下げの仕組み
老後のことを考えると、年金がまず思い浮かぶでしょう。年金は、老後の生活を支える重要な収入源です。年金については、受給開始を繰下げると年金額が多くなりますし、ファイナンシャル・プランナーに相談すれば、何歳まで生きると元が取れるのかを計算してくれます。
 
年金の受給は繰下げたほうがいいのでしょうか? それとも繰上げて早くもらったほうがいいのでしょうか? 筆者の答えは「繰下げも繰上げもしないほうがいい。65歳からもらいましょう」です。本記事で、その理由を説明します。
浦上登

執筆者:浦上登(うらかみ のぼる)

サマーアロー・コンサルティング代表 CFP ファイナンシャルプランナー

東京の築地生まれ。魚市場や築地本願寺のある下町で育つ。

現在、サマーアロー・コンサルティングの代表。

ファイナンシャル・プランナーの上位資格であるCFP(日本FP協会認定)を最速で取得。証券外務員第一種(日本証券業協会認定)。

FPとしてのアドバイスの範囲は、住宅購入、子供の教育費などのライフプラン全般、定年後の働き方や年金・資産運用・相続などの老後対策等、幅広い分野をカバーし、これから人生の礎を築いていく若い人とともに、同年代の高齢者層から絶大な信頼を集めている。

2023年7月PHP研究所より「70歳の現役FPが教える60歳からの「働き方」と「お金」の正解」を出版し、好評販売中。

現在、出版を記念して、サマーアロー・コンサルティングHPで無料FP相談を受け付け中。

早稲田大学卒業後、大手重工業メーカーに勤務、海外向けプラント輸出ビジネスに携わる。今までに訪れた国は35か国を超え、海外の話題にも明るい。

サマーアロー・コンサルティングHPアドレス:https://briansummer.wixsite.com/summerarrow

年金の繰上げの仕組み

まず、年金の繰上げについて説明します。年金は原則として65歳から受け取れますが、希望により60歳から65歳になるまでの5年間、1ヶ月単位で受給開始を繰上げることが可能です。
 
ただし、繰上げた期間に応じて受け取れる年金は、65歳からの受給額に比べて減額されます。また、繰上げ受給による減額率は、生涯にわたって適用されます。
 
1962年4月2日以降生まれの人が年金の受給を繰上げた場合、減額率は1ヶ月当たり0.4%となっています。60歳から年金を受給すると5年間の繰上げによる減額率は最大の24%で、65歳からもらった場合と比べて年金額は0.76倍になります。
 
60歳からの繰上げ受給については、次のように計算して考えることができます。
 

(1)60歳から64歳までの5年間にもらえる年金

原則の65歳からもらえる年金を100とすると、60歳から繰上げ受給した場合の年金は以下のとおりです。
 
1年当たり:100×0.76=76
5年間:76×5年=380

 

(2)65歳からの受給に対して減少する年金

1年当たり:100-76=24
 

(3)何歳になると総受給額の差がなくなるのか?

380÷24=15.8年
65歳+15.8年=80.8歳

 

(4)結論

繰上げにより60歳から年金をもらった場合、80.8歳になると総受給額では原則の65歳から受給した場合との差がほぼなくなり、その後も減額された年金を受け取り続けることになります。
 
すなわち、年金の受給を5年間繰上げると、80.8歳より長生きをした場合は損をするため、損益分岐点は80.8歳ということになります。逆にいうと80.8歳よりも前に亡くなった場合、もらい得になるのです。
 
それでは、自分は80.8歳まで生きられるかを考えて年金の繰上げを決めるべきでしょうか? この点について結論を述べると、何歳まで生きられるかという議論の以前に、次の理由で年金の繰上げ受給はお勧めできません。


(1)年金は老後生活の安定のためにあるので、長生きをして損をするのは本来の目的に反する

(2)60歳から年金を受け取らないと生活していけないといった状況でもないかぎり、本来もらえる年金を減らす必要はない

 

年金の繰下げの仕組み

次に、年金の繰下げについて確認していきます。年金は通常、原則の65歳からもらえます。ただし、受給開始を66歳以降、75歳まで繰下げると年金額が増えるので、国は繰下げ受給を推奨しています。
 
繰下げ受給による年金の増額率は1ヶ月当たり0.7%で、繰下げた期間に応じて増額された年金を生涯受け取れます。70歳まで5年間繰下げると、65歳からもらう場合に比べて年金額は42%増え、1.42倍になります。これを最長の75歳まで繰下げると84%の増額となり、1.84倍の年金を受け取れます。
 
1.84倍というとほぼ2倍になるので魅力的に思う方も多いかもしれませんが、75歳まで繰下げた場合、65歳から74歳までの10年間は1円も年金がもらえません。その点を考慮すると75歳からの繰下げ受給について、以下の計算をもとに考えることができます。
 

(1)65歳から74歳までの10年間にもらえたはずの年金

原則の65歳からもらえる年金を100とすると、繰下げをしなかった場合に74歳までの10年間で受け取れた年金は以下のとおりです。
 
100×10年=1000
 

(2)75歳からの繰下げ受給により増える年金

年金の受給を75歳からに繰下げた場合、年金は1.84倍(184)となるので増額分は以下のとおりです。
 
1年当たり:184-100=84
 

(3)何歳まで生きると65歳から74歳までもらえなかった年金の元が取れるか?

1000÷84=11.9年
75歳+11.9年=86.9歳

 

(4)結論

86.9歳まで生きると、年金の受給を75歳まで10年間繰下げても総受給額ではほぼ損得はなく、それ以上の長生きすれば繰下げたほうが得になります。つまり、75歳まで年金の受給を繰下げた場合の損益分岐点は86.9歳です。
 
繰下げ受給で元が取れる年齢について、繰下げた年齢=75歳に11.9年を足して求めていますが、実は何歳に繰下げても11.9年という数字は変わりません。そのように制度が設計されているのです。
 
例えば、年金の受給を70歳まで繰下げた場合、元が取れる年齢は70歳+11.9年=81.9歳になります。
 
そうすると、「自分は81.9歳以上生きられるのか。もし生きられるなら、70歳まで繰下げたほうが得だな」と考えたり、男性なら「75歳まで繰下げると、元が取れる86.9歳は平均寿命よりずいぶん上の年齢になるから、ちょっと厳しいな」などと考えたりするかもしれません。
 
しかし、年金の繰下げについて、このように検討することが果たして正しいのでしょうか?次回「その2」では、なぜ国が年金の繰下げを推奨するのか、平均寿命を基準に年金の繰下げを検討することが正しいのか考えていきます。
 

出典

日本年金機構 年金の繰上げ受給
日本年金機構 年金の繰下げ受給
 
執筆者:浦上登
サマーアロー・コンサルティング代表 CFP ファイナンシャルプランナー

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