年金を60歳から受け取る「繰上げ受給」にはデメリットしかないと思っていましたが、メリットもあると聞きました。詳しく教えてほしいです。

配信日: 2024.09.02

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年金を60歳から受け取る「繰上げ受給」にはデメリットしかないと思っていましたが、メリットもあると聞きました。詳しく教えてほしいです。
老齢年金は、原則として65歳から受け取ることができますが、繰上げ受給を申請することによって60歳から受給を開始することができます。しかし、繰上げ受給をすると、年金額が減額されますので、生涯受給金額(一生涯にもらえる年金受給額の合計)という視点でみると、必ずしも得になるとは限りません。
 
本記事では、年金を繰り上げて60歳から受け取る場合の受給額がいくらになるかを確認し、繰上げ受給のメリット、デメリットと損益分岐点について解説します。
堀江佳久

執筆者:堀江佳久(ほりえ よしひさ)

ファイナンシャル・プランナー

中小企業診断士
早稲田大学理工学部卒業。副業OKの会社に勤務する現役の理科系サラリーマン部長。趣味が貯金であり、株・FX・仮想通貨を運用し、毎年利益を上げている。サラリーマンの立場でお金に関することをアドバイスすることをライフワークにしている。

年金の繰上げ受給とは?

老齢年金(老齢基礎年金および老齢厚生年金)は、希望すれば60歳から65歳になるまでの間、1ヶ月単位で繰り上げて受給できます。ただし、原則として老齢基礎年金と老齢厚生年金は、同時に繰り上げる必要があります。
 

1.繰り上げによる減額

原則として、下記の減額率を乗じて計算されます。

減額率= 0.4%(※1)×繰上げ請求月から65歳に達する日(※2)の前月までの月数(※3)

(※1)昭和37年4月1日以前生まれの方の減額率は0.5%。
(※2)年齢の計算は「年齢計算に関する法律」に基づいて行われ、65歳に達した日は、65歳の誕生日の前日になります。
(※3)特別支給の老齢厚生年金を受給できる方の老齢厚生年金の減額率は、特別支給の老齢厚生年金の受給開始年齢に達する日の前月までの月数で計算。

2.60歳から年金を受け取ったら金額はいくら?

(1)昭和37年4月1日以前生まれの方
ひと月当たりの減額率は0.5%となります。特別支給の老齢厚生年金を受給しない方で60歳ちょうどで年金がもらえるように繰り上げすると、その月数は5年×12ヶ月=60月となりますので、減額率= 0.5%×60月=30%です。
 
たとえば、65歳で年金を年間200万円受給できる人が、60歳で年金を受給した場合には、200万円×(100%-30%)=140万円となります。

(2)昭和37年4月1日以降生まれの方
ひと月当たりの減額率は0.4%となりますので、60歳ちょうどで年金がもらえるように繰り上げすると、その月数は5年×12ヶ月=60ヶ月ですので、減額率= 0.4%×60月=24%となります。
 
たとえば、65歳で年金を年間200万円受給できる人が、60歳で年金を受給した場合には、200万円×(100%-24%)=152万円となります。
 

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繰上げ受給のメリット、デメリットは?

1.メリット

(1) 生活費の確保できる
年金の繰上げ受給をすると受給額は減額されますが、60歳から65歳になるまでの5年間は年金を受給することができるので、その間の生活費を確保できます。
 
(2) 公的年金等控除が使える
受け取る年金額に応じて公的年金等控除を使うことができます。60歳で受給開始した場合には、5年間の受給期間で、この控除のメリットを享受できます。
 
なお、65歳未満の方で、所得が年金のみ、もしくは年金以外の所得が年間1000万円以下の場合の控除額は表1のとおりです。
 
表1:公的年金等控除額

受取る年金額(A) 公的年金等控除額
130万円以下 60万円
130万円超 410万円以下 (A)×25%+27万5000円
410万円超 770万円以下 (A)×15%+68万5000円
770万円超 1000万円以下 (A)×5%+145万5000円
1000万円超 195万5000円

(日本年金機構「所得金額の計算方法」より筆者抜粋)
 

2.デメリット

繰上げ受給のデメリットは、なんといっても受給額が減額されることですが、以下さまざまな制約などがありますので、留意する点があります(以下は一例です)。

(1) 繰上げ受給を開始すると、年金は生涯にわたり減額されます。つまり、取り消しができません。
(2) 国民年金の任意加入や、保険料の追納はできなくなります。
(3) 65歳になるまでの間、遺族厚生年金や遺族共済年金などの他の年金と併せて受給できません。いずれかの年金を選択することになります。
(4) 寡婦年金を受給中の方は、寡婦年金の権利がなくなります。
(5) 事後重症などによる障害基礎(厚生)年金を請求できません。

 

損益分岐点は?

60歳で繰上げ受給をすると、5年間前倒しで年金をもらえますが、65歳から受給した場合と比べると24%(注)生涯にわたって減額されます。年齢を重ねると、前倒しでもらった金額の合計がどこかで逆転する点、いわゆる損益分岐点が発生します。
(注:昭和37年4月1日以前生まれの方は30%)
 
そこで、昭和37年4月1日以降生まれの方で、65歳で200万円の年金をもらえる人が、繰り上げをして60歳から受給した場合に、何歳で逆転するかをシミュレーションしてみます。
 
前提条件として、65歳で受給開始する方は毎年手取りで200万円の年金を受給でき、60歳で受給開始する方は24%減額された152万円を毎年手取りで受給するものとします。受け取った年金から支払われる社会保険料や税金などや、他の収入や家族構成など考慮していないので、あくまで目安としてとらえてください。
 
表2;受給開始年齢60歳、65歳で受給できる年金総額   (単位:万円)

受給開始年齢 77歳 78歳 79歳 80歳 81歳
65歳 2600 2800 3000 3200 3400
60歳 2736 2888 3040 3192 3344

(筆者作成)
 
表2を見ると、80歳の時点で年金総額が逆転しています。つまり、80歳を超えて長生きをすればするほど、60歳で繰上げ受給をしないほうが、年金総額が多くなりますので得になります。
 

まとめ

年金を早めに60歳から受け取ったら、65歳から受給できる年金から24%(注)減額されます。そして、65歳から受給する場合と比べて、80歳を超えて長生きすればするほど、年金受給総額は少なくなり、損をすることになります。
 
一方で、早めに受け取るメリットもありますので、繰上げ受給をするメリット、デメリット、そして損益分岐点などを総合的に考慮に入れ、繰上げ受給をするかしないか検討をする必要があります。
(注:昭和37年4月1日以前生まれの方は30%)
 

出典

日本年金機構 年金の繰上げ受給
日本年金機構 所得金額の計算方法
 
執筆者:堀江佳久
ファイナンシャル・プランナー

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