更新日: 2022.07.16 その他税金

上場株式等の配当所得等に係る課税方式の異なる選択が不可に!

上場株式等の配当所得等に係る課税方式の異なる選択が不可に!
現在、上場株式等の配当所得等に係る課税方式は、「申告不要制度」、「総合課税」、「申告分離課税」の3つのうちから、納税者が選択できるようになっています。さらに、所得税と住民税でそれぞれ異なる課税方式を選択することもできます。
 
ここでは、現状での課税方式の選択による有利不利の大まかな判定基準や今後の税制改正の方向性などについて確認してみたいと思います。
高橋庸夫

執筆者:高橋庸夫(たかはし つねお)

ファイナンシャル・プランナー

住宅ローンアドバイザー ,宅地建物取引士, マンション管理士, 防災士
サラリーマン生活24年、その間10回以上の転勤を経験し、全国各所に居住。早期退職後は、新たな知識習得に貪欲に努めるとともに、自らが経験した「サラリーマンの退職、住宅ローン、子育て教育、資産運用」などの実体験をベースとして、個別相談、セミナー講師など精力的に活動。また、マンション管理士として管理組合運営や役員やマンション居住者への支援を実施。妻と長女と犬1匹。

課税方式の3つの選択肢

前述のとおり、上場株式等の配当所得等に係る課税方式には3つの選択肢があり、納税者が有利となる方法を選択することができます。
 

(1)申告不要制度

一般投資家の多くは証券会社で「特定口座(源泉徴収あり)」を利用しています。
 
申告不要を選択した場合には、配当所得の多寡にかかわらず、配当受取時に所得税15%、住民税5%の税率で源泉徴収されるため、課税関係はここで完結します(便宜上、復興特別所得税は考慮しないものとします)。
 

(2)総合課税

総合課税として確定申告した場合は、他の所得と合算して税額を算出するとともに、配当控除の適用を受けることができます。配当控除とは、一定の税額を控除できる税額控除です。
 
所得税の場合の控除率は、課税所得金額等が1000万円以下の部分は、配当所得の10%(1000万円超の部分は5%)です。住民税の場合は、1000万円以下が2.8%、1000万円超は1.4%となります。
 

(3)申告分離課税

申告分離課税で確定申告した場合は、上場株式等の譲渡損失や複数の口座の損益、利子所得などと損益通算することができます。さらに、損益通算しても損失が残る場合に3年間の繰越控除が適用できます。
 

所得税と住民税で異なる課税方式を選択する場合

住民税の課税方式は、所得税の確定申告データが税務署から市区町村に送付され、それを基に計算するため、原則として、所得税で選択した課税方式と同じ課税方式となります。
 
その上で、住民税の課税方式を、株式等に係る所得の全部について申告不要とする場合には、所得税の確定申告書の所定の欄に丸印を付けることで選択することができます。
 
それぞれ異なる課税方式を選択する際の判定の基礎とすべき事項は以下のとおりです。
 

(1)課税所得金額等による有利不利の判定

所得税は課税所得金額等による超過累進税率となっています。総合課税の場合と申告不要の場合での単純な税負担のみの有利不利を比較すると、課税所得金額等が900万円以下の方は、配当控除率の10%を引いた実質税負担率は最大で13%となるため、源泉徴収税率の15%より総合課税を選択した方が有利となります。900万円超の方は、同じく実質負担率は最低でも23%以上となるため不利となります。
 
住民税の場合、課税所得金額等が1000万円以下の方は、税率10%から配当控除2.8%を引いた7.2%、1000万円超の方は、配当控除1.4%を引いて8.6%となり、いずれの場合でも源泉徴収税率の5%の方が有利となります。
 

(2)国民健康保険料などへの影響

申告不要制度で源泉徴収のみで課税関係が完結する場合以外を選択すると、配当所得等の金額が所得金額に上乗せされた分増額することになります。
 
国民健康保険料や後期高齢者医療保険料、介護保険料などの判定基礎として、所得が増額することで医療機関での窓口負担割合で現役並み所得者に該当するなどの影響が出る可能性があります。
 

令和4年度の税制改正

令和4年度の税制改正において、金融所得課税は所得税と住民税が一体として設計されたとのことから、両者の課税方式を一致させるとの改正内容が盛り込まれました。適用時期は、2023年分の所得税、2024年度分の住民税からの適用となります。
 

まとめ

会社員などの方でも給与所得の他に株式投資から得られる配当所得がある方も多いと思います。令和4年度の税制改正後の基準では、課税所得金額等が695万円以下の方は、総合課税で確定申告した方が有利、695万円超の方は、申告不要の方が有利といわれています。
 
ただし、これは単純な税負担のみの比較であるため、損益通算の適用や所得金額への影響なども考慮した上で、総合的な判断が必要となるでしょう。
 
執筆者:高橋庸夫
ファイナンシャル・プランナー

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