更新日: 2022.07.29 控除
退職所得課税と短期退職手当等に対する改正。私たちの暮らしにどう影響を与える?
退職金については、給与などの一般の所得と同じ方法で課税すると税金が高くなってしまう場合があるため、退職所得として一般の所得とは別の方法が適用されます。
さらに2022年1月1日以降には、短期退職手当等の計算方法について改正が行われています。ここでは退職所得への課税方法や、短期退職手当等の改正内容について確認してみたいと思います。
執筆者:高橋庸夫(たかはし つねお)
ファイナンシャル・プランナー
住宅ローンアドバイザー ,宅地建物取引士, マンション管理士, 防災士
サラリーマン生活24年、その間10回以上の転勤を経験し、全国各所に居住。早期退職後は、新たな知識習得に貪欲に努めるとともに、自らが経験した「サラリーマンの退職、住宅ローン、子育て教育、資産運用」などの実体験をベースとして、個別相談、セミナー講師など精力的に活動。また、マンション管理士として管理組合運営や役員やマンション居住者への支援を実施。妻と長女と犬1匹。
退職金に対する所得税等の計算方法
前述のとおり、退職金への課税と、給与などの一般の所得への課税を同じ方法で計算すると、長年の勤務や会社への貢献に対する退職金に多くの税金が課されるといった不平等が生じることがあります。
そのため、退職金は所得税の退職所得として別の課税方法(分離課税)で税金を計算することになります。退職所得の場合、収入から退職所得控除額を引いた金額の半分(2分の1)が所得金額となる2分の1課税がポイントです。
退職所得={収入金額(退職金の額)-退職所得控除額}×1/2
勤続年数20年以下: 40万円×勤続年数(最低80万円)
勤続年数20年超: 800万円+70万円×(勤続年数-20年)
※勤続年数に1年未満の端数が生じる場合は1年に切り上げ
例えば、勤続年数が34年3ヶ月、退職金が2300万円の方の退職所得は以下となります。
勤続年数: 34年3ヶ月→35年(1年未満の端数が生じる場合は1年に切り上げのため)
退職所得控除額: 800万円+70万円×(35年-20年)=1850万円
退職所得:(2300万円-1850万円)×1/2=225万円
源泉徴収される税額
退職金に対する所得税等は、退職金の支給時に源泉徴収されます。源泉徴収される金額は、「退職所得の受給に関する申告書」(退職所得申告書)を会社に提出しているかどうかで異なります。
(1)退職所得申告書を会社に提出した場合
退職時に申告書を会社に提出した場合には、退職所得について所得税額の速算表により適正な税額の計算が行われ、源泉徴収されています。そのため、基本的にはあらためて確定申告をする必要はありません。
(2)退職所得申告書を会社に提出しなかった場合
源泉徴収された金額は、退職金の額に20.42%の税率を適用した概算金額となっています。この場合には、通常は所得税等を払い過ぎていることが多いため、あらためて確定申告を行い、正しい税額を計算し直す必要があります。
短期退職手当等に関する改正
2022年1月1日以降に退職があった場合の短期退職手当等について、その計算方法が改正されました。
短期退職手当とは、勤続年数が5年以下の一般の従業員(役員などは含まない)に対する退職手当等のことをいいます。短期退職所得に関する退職所得金額の計算方法は、以下のとおりです。
(1)短期退職所得等の収入-退職所得控除額≦300万円の場合
(短期退職手当等の収入金額-退職所得控除額)×1/2
(2)短期退職所得等の収入-退職所得控除額>300万円の場合
150万円+{短期退職手当等の収入-(300万円+退職所得控除額)}
例えば、勤続年数が5年、(短期)退職金が800万円の方の退職所得は以下となります。
勤続年数: 5年(短期)
退職所得控除額: 40万円×5年=200万円
短期退職所得: 800万円-200万円=600万円 ※上記(2)の計算式に該当
退職所得: 150万円+{800万円-(300万円+200万円)}=450万円
つまり、今回の改正のポイントは、短期退職手当への課税で収入から退職所得控除額を引いた金額が300万円を超える部分については、2分の1課税が適用されなくなったことです。
まとめ
昨今は、一つの会社に定年まで勤め上げるのはむしろレアケースで、短期間での転職も当然の時代となっているのかもしれません。
今回の改正は、勤続年数5年以下の短期退職手当の一定部分について、通常の退職所得に対する2分の1課税という優遇を外す見直しがなされたものとなります。ちなみに法人の役員に対しては、すでに特定役員退職手当等という同じような措置が講じられています。
執筆者:高橋庸夫
ファイナンシャル・プランナー