更新日: 2022.11.30 確定申告

免税事業者の「インボイス制度」への対応における留意点を解説

執筆者 : 高橋庸夫

免税事業者の「インボイス制度」への対応における留意点を解説
2023年10月1日からの消費税のインボイス制度(適格請求書等保存方式)開始に向けて、さまざまな場面で制度に関する情報を目にする機会が日増しに多くなってきました。
 
ここでは、個人事業者などで現在は消費税の免税事業者である場合に、制度開始に向けてどのような準備が必要か、またはどういった点に留意すべきか確認したいと思います。
 
※この記事は2022年11月30日時点の情報を基に執筆しています。
高橋庸夫

執筆者:高橋庸夫(たかはし つねお)

ファイナンシャル・プランナー

住宅ローンアドバイザー ,宅地建物取引士, マンション管理士, 防災士
サラリーマン生活24年、その間10回以上の転勤を経験し、全国各所に居住。早期退職後は、新たな知識習得に貪欲に努めるとともに、自らが経験した「サラリーマンの退職、住宅ローン、子育て教育、資産運用」などの実体験をベースとして、個別相談、セミナー講師など精力的に活動。また、マンション管理士として管理組合運営や役員やマンション居住者への支援を実施。妻と長女と犬1匹。

インボイス制度の概要

消費税の計算において、売り上げに係る消費税から仕入れ等に係る消費税を差し引くことを「仕入税額控除」といいます。そして、2023年10月1日から仕入税額控除の方式がインボイス制度(適格請求書等保存方式)となります。
 
ちなみに、現行の制度は「区分記載請求書等保存方式」といわれるものです。
 
具体的には、仕入税額控除の対象となるのは原則として、適格請求書発行事業者が発行した適格請求書のみとなります。つまり、制度開始以降は、たとえ売手側が免税事業者であったとしても、買手側(課税事業者)から適格請求書の発行を求められるケースが想定されることになります。
 
さらに、適格請求書を発行できない免税事業者のままである場合には、取引先(課税事業者)から消費税分の請求額の値下げを要請されたり、場合によっては、適格請求書が発行できる事業者への切り替えを理由として、取引先との仕事自体が減少したりする可能性もあり得ます。
 

適格請求書発行事業者の登録

免税事業者が適格請求書を発行するためには、「適格請求書発行事業者の登録申請書」を税務署に提出し、登録を受ける必要があります。
 
制度開始となる2023年10月1日から登録を受けるためには、2023年3月31日までに申請書を提出しなければなりません。また、適格請求書発行事業者になるためには、たとえ免税事業者(基準期間の課税売上高が1000万円以下などの要件を満たし、消費税の納税義務が免除される事業者)であっても、課税事業者(消費税の課税義務がある事業者)となる必要があります。
 
ただし、インボイス制度の開始に当たり、登録申請書の提出期限に以下のような経過措置などがあります。

(1)2023年3月31日までに登録申請書の提出について困難な事情がある場合、2023年9月30日までにその事情を記載した登録申請書を提出したときは、2023年10月1日から適格請求書発行事業者の登録を受けたことと見なす。
 
(2)免税事業者が、2023年10月1日から2029年9月30日の属する課税期間において登録を受ける場合、経過措置として、登録申請書のみの提出だけで課税事業者となることができるため、別途、課税事業者選択届出書の提出が不要となる。

 

取引先の業種や取引内容による影響

前述のとおり、制度開始以降、たとえ免税事業者であっても取引先から適格請求書の発行を求められるケースも想定されます。
 
ただし、以下のように取引先の業種や取引内容によっては、インボイス制度の影響を受けない場合がありますので理解しておきましょう。

(1)取引先が個人消費者である場合
 
(2)取引先が免税事業者である場合
 
(3)取引先が課税事業者であるが、簡易課税制度の適用事業者である場合
簡易課税制度では課税仕入れなどに係る消費税額を、課税売上に係る消費税額に業種ごとのみなし仕入れ率を乗じて算出するため、仕入税額控除は影響しない。
 
(4)取引内容が消費税の非課税となる商品・サービスなどの場合
社会保険料報酬(医師・歯科医師)、介護保険サービス、住宅の賃貸など。
 
(5)適格請求書の発行が免除される事例
3万円未満の公共交通機関の運賃や自動販売機の売り上げなど、生産者が農協等に委託して行う農林水産物の販売、出荷者等の卸売市場で行う生鮮食品などの販売、郵便ポストに投函された郵便切手を対価とする郵便サービスなど。

特に、自身の取引先が上記に限定される場合については、インボイス制度の影響を受けることはないため、あえて課税事業者となる必要はないものと思われます。
 

免税事業者に対する影響の激変緩和措置

インボイス制度という新たな制度の開始に際しては、特に小規模な事業者への影響や負担が大きいため、それを少しでも緩和する以下の激変緩和措置が設けられています。

(1)2023年10月1日から2026年9月30日までの3年間は、適格請求書が発行されない免税事業者との取引についても80%の仕入税額控除を認める。
 
(2)2026年10月1日から2029年9月30日までの3年間は、(1)と同じく50%の仕入税額控除を認める。

 

まとめ

個人事業者などの免税事業者の場合、適格請求書発行事業者に登録するためには、自らが消費税の課税事業者となる必要がある点が最も気になる点ではないでしょうか?
 
今回説明した登録の期限、取引先の業種や取引内容による影響、6年間の激変緩和措置などを総合的に考慮した上で、自身にとってベストな選択をすることが重要となるでしょう。
 
また、仮に消費税の課税事業者となった場合の消費税額の見込み額について、あらかじめシミュレーションしておくことも大切でしょう。
 

出典

国税庁 特集 インボイス制度
 
執筆者:高橋庸夫
ファイナンシャル・プランナー

ライターさん募集