あなたは説明できますか。「基礎控除」って?税制改正による影響って?お金のことを知って、社会について考えよう。
配信日: 2018.10.20 更新日: 2020.04.07
ここで、所得控除についておさらいという意味で、会社員の場合について、所得税の簡単な計算式をもう一度確認しておきましょう。
(1)収入-「給与所得控除」=給与所得
(2)給与所得-「所得控除」=課税所得
(3)課税所得×所得税率=所得税
会社員の場合、まず、お給料である収入から、給与所得控除という会社員活動を行ううえでの必要経費のようなものが引かれます。これが給与所得です。
そして、給与所得から所得控除とよばれる、生活をしていくうえでの必要経費のようなものが引かれ、課税所得が算出されます。これが所得です。
これからも分かるように、収入と所得は意味が違うんですね。収入-所得控除=所得と、簡単に理解してみてください。この所得(課税所得)に応じて税率が掛けられ、所得税が計算されます。
執筆者:重定賢治(しげさだ けんじ)
ファイナンシャル・プランナー(CFP)
明治大学法学部法律学科を卒業後、金融機関にて資産運用業務に従事。
ファイナンシャル・プランナー(FP)の上級資格である「CFP®資格」を取得後、2007年に開業。
子育て世帯や退職準備世帯を中心に「暮らしとお金」の相談業務を行う。
また、全国商工会連合会の「エキスパートバンク」にCFP®資格保持者として登録。
法人向け福利厚生制度「ワーク・ライフ・バランス相談室」を提案し、企業にお勤めの役員・従業員が抱えている「暮らしとお金」についてのお悩み相談も行う。
2017年、独立行政法人日本学生支援機構の「スカラシップ・アドバイザー」に認定され、高等学校やPTA向けに奨学金のセミナー・相談会を通じ、国の事業として教育の格差など社会問題の解決にも取り組む。
https://fpofficekaientai.wixsite.com/fp-office-kaientai
目次
「基礎控除」は収入がある人ならだれでも受けられる所得控除
これまで何度もお伝えしてきた所得控除は、計算式でいうところの(2)の給与所得-「所得控除」=課税所得にある、所得控除の部分です。
所得控除は、配偶者控除や扶養控除、社会保険料控除など、全部で14種類あります。所得控除が多く適用されると、課税所得が減るため、結果として所得税が少なく済みます。このようなことから、「所得控除の申告はお忘れなく」などとよくいわれます。
この所得控除のうち、わざわざ申告をしなくても、収入がある人ならだれでも受けられるのが「基礎控除」とよばれる所得控除です。基礎控除の金額は38万円です。
基礎控除は、その適用を受ける際、他の所得控除のように一定の要件がないので、これをサンプルにすると所得税の仕組みがよく分かります。
たとえば、年間の収入が100万円あったとします。この収入については、あえて種類は考えません。とにかく、1年間で収入が100万円あったとして、基礎控除以外の所得控除が一切ないものとします。
この条件で所得税を計算すると、収入100万円−基礎控除38万円=課税所得62万円となり、この金額(62万円)に所得税率が掛けられ、所得税が計算されます。
所得税は、収入に応じて計算されると思っている方が多いかもしれませんが、そうではなく、課税所得(≒所得)に応じて計算されています。つまり、所得控除がちゃんと考慮されているため、所得税には初めから軽減策が盛り込まれているんですね。
平成30年度の税制改正において、基礎控除額が一律10万円引き上げられることに
基礎控除については、次の点をあえて取り上げておきます。
平成30年度、つまり、今年の税制改正において、基礎控除額が一律10万円引き上げられることになりました。この改正は、平成32年分以降の所得税から適用されることになっています。
さて、この意味するところは何でしょうか。
これまでお伝えしてきたとおり、所得控除が増えると、納める所得税が減ります。これにあてはめて考えると、基礎控除が10万円増えるため、所得税が少なくなるというのが正解です。
それでは、何のために基礎控除を一律10万円も増やしてくれたんでしょうね。「国民の生活を楽にしてあげるため」。国は、日ごろからお金がない、お金がないといっているのに、そんな大盤振る舞いをしても大丈夫なんでしょうか。
今回の税制改正により、会社員や高齢者は増税に。なぜ…?
こういう大きな改正がある場合、おおよそ、他にも改正点があったりします。平成30年分所得税改正のあらましを見ると、さらに、こんなことが書かれています。
「給与所得控除」を一律10万円引き下げるとしています。もうお分かりかもしれませんが、会社員などのように、どこかにお勤めして給与をもらっている人たちにとっては増税になります。
でも、基礎控除が一律10万円引き上げられます。給与所得控除は課税所得を計算するときに出てくる所得控除ではないため、基礎控除が一律で10万円引き上げられたとしても単純に相殺されるわけではありません。
結果をいうと、会社員の場合、ちょっと増税になります。
他にも、公的年金等控除が一律10万円引き下げられます。公的年金等控除は、年金などをもらっている場合に差し引かれる金額です。これについても所得控除ではありませんが、給与所得控除と同じく、課税所得を計算する前の段階のものなので、基礎控除が引き上げられたとしても、高齢者の方たちも、ちょっと増税になります。
ここでふと疑問が浮かびます。みんなが受けられる基礎控除の額はあがります。でも、会社員と高齢者の納める所得税はちょっと増えます。
どういうことなのでしょうか?
今回の改正から、教育格差や介護による経済格差の問題がうかがえる
平成30年分の所得税の改正では、他にもこのような点が改められるようです。
扶養親族についての改正です。たとえば、勤労学生については、年間の合計所得要件が10万円引き上げられます。この意味は結論をいうと減税です。
また、同一生計配偶者や扶養親族の年間合計所得要件も10万円引き上げられます。これも減税です。
これらの改正を見ると、今の社会問題が浮き彫りになってきます。働きながら学業にはげんでいる人たちや、そのご家族の税負担をやわらげてあげよう。という教育格差の是正。
夫婦で介護をしているというご家庭や、高齢者の世話をしているようなご家庭の税負担をやわらげてあげよう。という、介護による経済格差の是正です。
他にも、配偶者特別控除について、配偶者の年間合計所得を10万円引き上げることになっていますが、これも、共働き世帯の所得税の負担を軽減することが目的です。
お金の仕組みに顔を近づけると、今の日本の姿が浮かび上がる
まだまだ他にもありますが、今回の税制改正は所得税制の大改正といえる内容で、日本社会に横たわっている問題を少しでも解決しようと苦戦している様子がうかがえます。その軸になっているのが、基礎控除の一律10万円引き上げです。
わたしたちの暮らしに本当は身近な税金。でも、一般的には、その意味すらよく分からないというのが普通です。お金のことを知るというのは、実をいうと、社会について考えることとつながっているんですね。
ただ、その仕組みに少し顔を近づけてのぞいてみると、今の日本の姿が浮かび上がってきます。
参考・出典:
国税庁ウェブサイト
ホーム/刊行物等/パンフレット・手引/所得税関係/平成30年分 所得税の改正のあらまし
Text:重定 賢治(しげさだ けんじ)
ファイナンシャル・プランナー(CFP)