手取りは増えるの? 「103万円」から「123万円」に壁が引き上げられると実際どうなる? 年収600万円を例に検証

配信日: 2025.01.22

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手取りは増えるの? 「103万円」から「123万円」に壁が引き上げられると実際どうなる? 年収600万円を例に検証
「年収103万円の壁」といえば、パートやアルバイトで働く方々にとって大きな目安となる基準です。この壁を超えると所得税が発生するため、働き控えを余儀なくされる人も少なくありません。
 
しかし、この「103万円の壁」が令和7年の税制改正で「123万円」に引き上げられることが正式に決定しました。これにより、働く人々の生活はどう変わるのでしょうか?
 
今回は「年収600万円の会社員」を例に挙げて、所得税や住民税などの変化を検証しながら、手取りがどのくらい増え、家計にどう影響するのかを解説します。
富澤佳代子

執筆者:富澤佳代子(とみさわ かよこ)

1級ファイナンシャルプランニング技能士・CFP®認定者

1級ファイナンシャルプランニング技能士・CFP®認定者として、多様な経歴と専門知識を生かし、「会社のお金」と「家庭のお金」をまとめて相談できるパートナーとして活動している。
 
新卒で警察官としてキャリアをスタートさせ、税理士事務所に6年間勤務した後に独立。多くの企業の経理業務を手がけてきた経験から、企業経理相談や経営分析に精通しており、幅広いコンサルティングや執筆・セミナー活動も行っている。
 
また、警察官時代に培った教育の視点を生かし、若手社員教育や金融教育にも注力。信頼できる「お金の相談役」として、より多くの方の人生に貢献している。

「年収103万円の壁」見直し論争とは?

「年収103万円の壁」とは、所得税がかかり始める収入の基準を指します。年収が103万円以下であれば所得税が課されないため、パートやアルバイトをする人々にとって重要な目安となってきました。しかし、この目安がかえって「働き控え」を生み出し、労働市場にさまざまな課題を引き起こしていると指摘されています。
 
たとえば、最低賃金の上昇によって、より短い労働時間で年収103万円に達する人が増え、最低賃金引き上げの効果が十分に発揮されていないといわれています。また、基礎控除は基本的な生活費には課税しないという制度ですが、物価が上昇している昨今、103万円という基準は現実に合わなくなってきたともいえます。
 
今回の税制改正では、年収の壁を123万円に引き上げ、働きたい人が働ける環境を整えることを目指しています。
 

「年収123万円の壁」になるとどうなる?

令和7年の税制改正では、所得税の基礎控除額が現行の48万円から58万円に引き上げられることが決まりました(合計所得金額が2350万円以下の場合)。
 
基礎控除とは、所得税や住民税を計算する際に課税対象となる所得から差し引ける金額のことで、最低限の生活費に税金がかからないようにするために設けられています。これが引き上げられることで、課税所得が減少し、所得税の負担が軽減されます。
 
さらに、給与所得控除の最低保証額も55万円から65万円に引き上げられることになりました。給与所得控除とは、給与を得る際に発生する通勤費や仕事に必要な支出などを考慮し、課税対象から一定額を差し引く仕組みです。この改正により、控除額が増えるため、一部の所得層では手取りが増える可能性があります。
 
ただし、一定の収入を超えた場合は控除額が現行と変わらないため、高所得者層への影響は限定的になるといわれています。
 

年収600万円の場合の暮らしへの影響は?

では、年収600万円の会社員の場合、この改正がどのような影響をもたらすのでしょうか? 具体的に検証してみましょう。
 
【図表1】

現行制度 改正後 当初案(178万円)
給与額 6,000,000円
基礎控除額(所得税) 480,000円 580,000円 1,230,000円
所得税(復興税含む) 209,900円 199,700円 133,300円
手取り増加額(所得税のみ) 10,200円 76,600円

*月50万円支給、賞与なし、介護保険第2号に該当せず、協会けんぽ東京支部の社会保険料にて試算
(筆者作成)
 
図表1の試算を見ると、基礎控除額が10万円引き上げられることで、課税所得が減少します。これにより所得税の負担が軽くなり、年間で約1万円の手取り増加が見込まれます。
 
当初、出ていた「178万円の壁」の案では、手取りが大きく増えると期待されていました。しかし、今回実際に行われる「123万円の壁」では、手取りの増加幅が小さくなり、当初の期待ほどの恩恵は得られない結果となりました。
 
ただし、家族にこれまで「103万円の壁」を気にして働き控えをしていた方がいる場合は、123万円まで非課税になることで、家族が自由に働ける時間が増えます。その結果、家計全体の収入が増える可能性があり、この点ではメリットがあるといえそうです。
 

結論

「年収123万円の壁」への引き上げは、パートやアルバイトで働く方々の税負担を軽減し、働きやすい環境を整える重要な改正です。特に、年収103万円〜123万円の範囲で働く方々にとっては、所得税が非課税となることで手取りが増える直接的なメリットがあります。
 
一方、年収600万円の家庭では、年間約1万円の手取り増加にとどまり、改正による効果はあまりないといえそうです。年収600万円の会社員単体では大きな恩恵を感じにくいものの、家族構成や働き方しだいではメリットが現れる場合もあります。
 
今後の生活設計を見直す際に、この改正をどのように生かすかが鍵となりそうです。
 

出典

自民党 経済成長と豊かさが実感できる税制へ 令和7年度与党税制改正大綱を決定
厚生労働省 『年収の壁について知ろう』あなたにベストな働き方とは?
国税庁 令和6年分年末調整のしかた
 
執筆者:富澤佳代子
1級ファイナンシャルプランニング技能士・CFP®認定者

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