更新日: 2020.12.09 その他税金

優遇税制は大いに活用すればいいが、それ自体を目的にすると本末転倒になりかねない?

優遇税制は大いに活用すればいいが、それ自体を目的にすると本末転倒になりかねない?
いつからかは分かりませんが、できるだけ税金を払いたくないがために優遇税制を最大限活用し、それが成功したらもうけといった風潮が定着しているような気がします。
 
ファイナンシャルプランナー事務所を運営している身としても、個人事業主の立場からして確かにその気持ちは分かるのですが、あまりにも優遇税制のメリットに目を向けすぎる傾向が強いため、原理原則論についてお伝えしていきたいと思います。
重定賢治

執筆者:重定賢治(しげさだ けんじ)

ファイナンシャル・プランナー(CFP)

明治大学法学部法律学科を卒業後、金融機関にて資産運用業務に従事。
ファイナンシャル・プランナー(FP)の上級資格である「CFP®資格」を取得後、2007年に開業。

子育て世帯や退職準備世帯を中心に「暮らしとお金」の相談業務を行う。
また、全国商工会連合会の「エキスパートバンク」にCFP®資格保持者として登録。
法人向け福利厚生制度「ワーク・ライフ・バランス相談室」を提案し、企業にお勤めの役員・従業員が抱えている「暮らしとお金」についてのお悩み相談も行う。

2017年、独立行政法人日本学生支援機構の「スカラシップ・アドバイザー」に認定され、高等学校やPTA向けに奨学金のセミナー・相談会を通じ、国の事業として教育の格差など社会問題の解決にも取り組む。
https://fpofficekaientai.wixsite.com/fp-office-kaientai

持続化給付金は税金がかかるかもしれないからもらわない?

新型コロナウイルス感染症に伴う緊急経済対策で、売り上げが一定程度減少した事業主を対象に持続化給付金という制度が設けられるようになりました。この制度が始まった当初は気にも留められていませんでしたが、ある時期を境に「持続化給付金には税金がかかる」といわれるようになりました。
 
おそらく、ものすごい数の申請があったことと思いますが、同時に不正ではないが意図的に持続化給付金を申請しようという動きが出てきて、それに対する注意喚起として持続化給付金には税金がかかるということが取り上げられたのかもしれません。
 
どういうことかというと、会社は事業を行っていますよね。その事業に対する売り上げの減少を補てんするのが持続化給付金であるため、税制上、受け取った持続化給付金は益金に算入されます。益金とは、端的にいうと収益であるため、利益(売り上げ-経費)ではなく売り上げのようなものです。
 
つまり、持続化給付金を受け取ることで収益が増え、結果として課税所得の増加につながり、法人税や所得税が発生する可能性があるという意味なのですね。
 
持続化給付金は、本来、売り上げが一定程度減少した事業主に対する補てんであるため、事業の継続が大変だという会社ならば、そもそも今期に納める税金はないだろうという想定の下で設けられています。
 
しかし、中にはそこまでシビアではないという会社もあるでしょう。そういった会社の場合、制度上、売り上げの減少月を任意で設定できるため、そんなに困っていなくても申請すれば給付されます。そうなると、事業主は素直に持続化給付金をもらって税金を納めるか、税金を払いたくないがために持続化給付金を受け取らない方がいいか皮算用を始めます。
 
このようなことは事業主にとって理にかなった判断とはいえますが、制度の趣旨としては本末転倒のように思います。
 

「iDeCoとつみたてNISA、税金面はどっちが得?」論

優遇税制は他にもいろいろとありますが、例えば個人のご家庭でいうならば、先日、実際のご相談でこんな質問をいただきました。「iDeCoとつみたてNISA、どっちをやろうか迷っています。税金が得になるのはどっちですか?」
 
ファイナンシャルプランナー事務所を運営している身でありながら、正直いってこの質問は想定していませんでした。なぜならば、iDeCoにしろ、つみたてNISAにしろ、確かに優遇税制が適用されてはいますが、制度の目的が老後の資産形成にあるからです。
 
つまり、普通に考えれば老後の生活に向けたお金を準備するのが目的なので、「どっちがお金を多く増やせるか」という発想になると思うのですが、これでは「税金、どっちが得? そもそも運用する気がない?」という話になってしまいます。
 
答えは出そうと思えば出すことはできます。例えば、同じ投資信託で運用するとして、iDeCoにしろ、つみたてNISAにしろ、売却益や分配金に対しては非課税になるので、運用益についてはドローです。
 
しかし、iDeCoの場合、拠出する掛金に対しては小規模企業共済等掛金控除という所得控除が適用されるため、年間の所得税についてはiDeCoでの運用を開始する前の年と比べると節税効果が見込めます。
 
また、受取時では、受取方法によって異なりますが、年金として分割で受け取る場合は公的年金等控除が、一時金として受け取る場合は退職所得控除が適用されるため、こちらについても所得税の軽減効果があります。このように税金だけで考えると、節税効果が高いのはつみたてNISAではなくiDeCoと結論付けることはできます。
 
その話の流れで、「iDeCoの場合、つみたてNISAよりも手数料がかかるじゃないですか」という質問も併せていただきました。
 
確かにそうですが、手数料を含めて考えても、所得税の軽減効果はiDeCoの方が圧倒的に高いはずです。こちらとしては、だからiDeCoの方がいいですねと一概にはならないのですが、投資初心者である場合、結論としてはiDeCoになると思います。
 
一方、日ごろから投資をしているという方の場合は、投資経験があるため、そういった意味でのリスク許容度は高いといえます。
 
このような方に対して導き出せる答えが本当の答えで、iDeCoにしろ、つみたてNISAにしろ、老後のお金を増やすことが目的なので、積極的に運用したいなら手数料や税金のことは気にせず、つみたてNISAと比べてスウィッチングしやすいiDeCoを活用するようにしましょう、となります。
 
むしろ、投資に手慣れている人なら、iDeCoやつみたてNISAすら利用せず、積極的に運用することを目的に特定口座で自由に投資していった方が得策ともいえます。
 

まとめ

税金の話になると、多くの方が節税とか、お得とか、そういった目線でいろいろな制度を見ようとしてしまいます。
 
しかし、制度には目的があって、その目的を達成するために税制が補完しているという建てつけになっています。このため、こだわるのは節税ではなく、制度の趣旨・目的であり、だからこそ制度を素直に利用すればいいだけの話なのですが、このように考えてしまうのは単に欲深さが頭の中をこんがらがらせるからなのだと思います。
 
マネーリテラシーを磨くのは、何がお得なのかを知ることではなく、何が本質で、何がポイントなのかを知るということです。そして、見極め、身につけたことを活用し、人生設計に役立てるのが本筋です。
 
つまり、お金についてよく分からないというのは、物事の本質やポイントの見定めを外しているということで、この思考癖を直さない限り、まともなリテラシーは身につかないと思います。これに気づけば、何が大事なのかがおのずと見えてくるため、税金の話が出てきたら、この税制は何が目的なのだろうとまず考えるようにしてみるとよいでしょう。
 
執筆者:重定賢治
ファイナンシャル・プランナー(CFP)


 

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