更新日: 2020.12.28 控除

会社員が使える「特定支出控除」って何? 対象となる支出は?

執筆者 : 伊達寿和

会社員が使える「特定支出控除」って何? 対象となる支出は?
会社員の方の給与収入に関する控除として「給与所得控除」がありますが、自営業者などの事業所得のように、実際の必要経費を計上できるわけではありません。
 
しかし、会社員の方でも条件が整えば、一部の経費については経費計上ができる制度があります。今回は給与所得者の「特定支出控除」について紹介します。
伊達寿和

執筆者:伊達寿和(だて ひさかず)

CFP(R)認定者、1級ファイナンシャルプランニング技能士、相続アドバイザー協議会認定会員

会社員時代に、充実した人生を生きるには個人がお金に関する知識を持つことが重要と思いFP資格を取得。FPとして独立後はライフプランの作成と実行サポートを中心にサービスを提供。

親身なアドバイスと分かりやすい説明を心掛けて、地域に根ざしたFPとして活動中。日本FP協会2017年「くらしとお金のFP相談室」相談員、2018年「FP広報センター」スタッフ。
https://mitaka-fp.jp

特定支出控除とは

特定支出控除とは、会社員の方が特定支出をした場合、決められた方法で算出した金額を給与所得控除後の所得金額から控除できる制度です。
 
特定支出控除を受けるためには、特定支出に関する明細書、給与支払者の証明書、支出した金額を証明する書類を申告書に添付して、確定申告をする必要があります。

特定支出としては次の7種類があります。
 

7種類

1. 通勤費:一般の通勤者として、通常必要と認められる通勤のための支出。
2. 職務上の旅費:勤務地から離れた場所で職務を遂行するため直接必要な旅行に通常必要とする支出。
3. 転居費:転勤に伴う転居に通常必要と認められる支出。
4. 研修費:職務に直接必要な技術、知識の習得を目的に研修を受けるための支出。
5. 資格取得費:職務で直接必要とする資格取得のための支出。
6. 帰宅旅費:単身赴任の場合など、勤務地または居所と自宅間の旅行のために通常必要な支出。
7. 勤務必要経費:職務の遂行に直接必要なものとして、給与などの支払者に証明されたもので、合計額の上限は65万円。

 
なお、7の勤務必要経費については、次の3種類に限定されています。

勤務必要経費

(1)図書費:書籍や定期刊行物、その他の図書で職務に関連するものの購入費用。
(2)衣服費:制服、事務服、作業服など、勤務場所で着用が必要とされる衣服を購入する費用。
(3)交際費等:交際費や接待費、その他の費用で給与などの支払者の得意先、仕入先といった職務上で関係のある者に対する接待、供応、贈答などに類する行為のための支出。

 

特定支出控除を利用した場合の控除額

特定支出控除の控除額は、どのように計算するのでしょうか。
 
特定支出控除を利用しない場合、給与所得控除額を決められた方法で計算し、給与収入から引くことで給与所得を計算します。
(給与所得)=(給与収入)-(給与所得控除額)
 
一方、特定支出控除を利用する場合は、まず給与所得控除額を計算し、次に特定支出控除対象の合計を計算します。特定支出控除対象の合計から、給与所得控除額の2分の1を引いた額を追加で控除できることになります。
(追加で控除できる額)=(特定支出控除対象の合計)-(給与所得控除額)×1/2
(給与所得)=(給与収入)-(給与所得控除額)-(追加で控除できる額)
 
つまり、特定支出控除を利用するには、特定支出控除対象の合計が給与所得控除額の2分の1を超えている必要があります。
 
給与所得控除額は、3つの例をあげると次のようになります。
・給与収入500万円の場合、給与所得控除額は144万円
・給与収入800万円の場合、給与所得控除額は190万円
・給与収入1000万円の場合、給与所得控除額は195万円
 
給与収入1000万円の場合、特定支出控除対象の合計が給与所得控除額195万円の2分の1、つまり97.5万円を超える場合に利用する意味があることになります。
 

特定支出控除利用の注意点

特定支出控除を利用する場合、いくつか注意すべき点があります。
 
まず、7種類の特定支出については、いずれも給与支払者が証明したものに限られる点です。
 
申告する個人で判断できるものではなく、業務に必要なものだと認めるのは証明書を発行する勤務先です。また、勤務必要経費についても勤務先が必要と認めた場合になりますので、認められるケースは意外と少ないかもしれません。
 
次に、給与支払者から補てんされる部分があり、かつ補てんされる部分に所得税が課税されない場合や、教育訓練給付金などの給付金がある場合は、その金額を除く必要がある点です。
 
通勤費や職務上の旅費などは、定期代や実費を勤務先から支給される場合が多いので、対象にならないケースが多いでしょう。研修費などは、雇用保険の職業訓練給付金についてはその金額を引く必要があるため、控除の対象となる金額は減少します。
 
特定支出控除には利用するためのハードルが多くあります。しかし、勤務先から必要経費として認められ、給与所得控除額の2分の1を超える場合には、適用を検討してみてはいかがでしょうか。
 
出典
国税庁 No.1415 給与所得者の特定支出控除
国税庁 令和2年分以後の所得税に適用される給与所得者の特定支出の控除の特例の概要等について(情報)
 
執筆者:伊達寿和
CFP(R)認定者、1級ファイナンシャルプランニング技能士、相続アドバイザー協議会認定会員
 

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