シニア世代に根強い人気 「毎月分配型」投資信託
配信日: 2019.11.13
預貯金の金利がほとんど付かない今日、毎月分配金を受け取れることが再評価されています。
爆発的に売れた「グローバル・ソブリン」
毎月分配型投資信託の代表商品「グローバル・ソブリン・オープン」(通称グロソブ)は、1997年12月に発売されました。
ソブリン債は、国や政府機関の発行する債券の総称です。この投信は、ハイリスク・ハイリターンの新興国の債券を中心に運用します。発売直後はあまり注目されませんでしたが、数年を経てから急成長し、2002年に「ノムラ日本株戦略ファンド」を抜き、国内での投信売上げ首位になります。
その後2008年には、純資産総額5兆円を超える大規模投資信託に成長したことが大きな話題になり、10年以上にわたり、資産額首位の座を確保しました。現在ではさまざまな投資商品が出てきたため、1兆円を大きく割り込み、約4000億円台の資産規模になっています。
このように「毎月分配型」の投資信託が注目されたのが、リタイアしたシニア世代による購入です。投資信託は運用利益を内部で蓄積することで、投信の基準価額を上昇させていきますが、毎月分配型は月々に得た収益を精算、分配金として投資家に還元します。
これが退職などで勤労収入が減った高齢者には、基本価額がある程度維持されたうえで、月々の分配金が手に入ってくることが大きな魅力でした。定年退職などで退職金を受け取るシニア世代に対し、銀行など金融機関がこうした「毎月分配型」の投資信託の購入を勧めました。
金融機関としても預金金利の低下に悩んでおり、このような顧客を無理に定期預金に誘導するよりは、投資信託を販売しその手数料を稼ぐ、という狙いもありました。
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過度な分配金に対して金融庁が指導
毎月分配型の投資信託は、顧客獲得のため、毎月の運用実績を超えた分配金を出すところが増えてきました。分配金を増やせば元本を大きく取り崩し、基準価額を大幅に下げる事態になります。
分配金の額に満足しているうちに、元本に当たる基準価額が大幅に減少していったのです。通常の運用益から支払われるものを「普通分配金」、元本を取り崩して支払われるものを「特別分配金」といいます。
毎月の分配額を確認する段階で、特別分配金が多くなっているようだと、その投資信託は「要注意!」になります。
金融庁も2017年に、この過度な分配金政策に対して注意を喚起し、是正を求める行動を取ります。「投資家の利益を大きく損なう」として、運用益を超えて多額の分配金を出している投資信託に対して、抜本的な是正を求めました。
投信の運用会社としても、金融庁の意向を取り入れ、元本を割り込む過度な分配金政策を自粛するように動きました。これまで積極的に毎月分配型投信を販売してきた姿勢を転換し、分配型投信への積極的な営業もなくなりました。
そのため、毎月分配型投信の販売実績にも陰りが見え、資産総額自体も減少していきます。
分配金は減っても堅実運用で人気挽回
毎月分配型投信の分配金は減りましたが、2019年の春以降、人気が復活し純資産額も増加してきました。月々の分配金は減ったにせよ、堅実に運用されある程度分配金のある商品が再評価された、といえます。
投資家の間では、分配金を受け取らずに再投資して運用し、資産を増やそうとする動きも活発になってきました。複利運用で資産が増えることに魅力を感じたのかもしれません。月々の分配金額よりも、堅実になった運用姿勢が評価され始めたといえそうです。
確かに預貯金とは異なり投資商品ですから、資産額が目減りするリスクもあります。しかし現在の定期性預金にはない魅力はもっています。分配金は減ったにしても、毎月受け取れます。代わるべき投資対象商品が見つからない、という背景もあるかもしれません。
現在販売されている投資信託の中で、純資産総額上位10本のうち、なんと8本が毎月分配型の投資信託です(「日本経済新聞」9月21日付)。
それだけ根強い人気があることがわかります。首位は株式型投信で資産総額7600億円ほどですが、グローバル・ソブリンも、人気は落ちたとはいえ10位にランクされています。
数多い中からどの投資信託を選ぶか
現在、少なくても6000本以上の投資信託が証券会社を中心に販売され、どれを選ぶかは非常に苦労します。投資信託では、何を運用対象に運用するかが決まっています。
具体的には、日本の株式、日本の債券、海外の株式(先進国か新興国)、海外の債券(先進国か新興国、)日本のREIT(リート=不動産投資信託)、海外のREITなど、対象は多様です。
いくつかを組み合わせて運用する投信もあります。商品により、リスクも配当も異なってきます。そのため、安全性を優先するか、収益性を優先するかで、選ぶ投信も変わってきます。
こうした点を考慮し、どのような対象の投信を購入するかを絞り込みます。さまざまな特性の投信を数本組み合わせることも選択肢の一つです。
その時その時により、何が好調なのかのトレンドも異なります。日本株式は低調だが先進国株式は好調だ、株式市場が低調なので堅実な債券市場が良い、といったトレンドを判断材料にすることも大切です。
流れに乗っている投資信託は資産の流入額が増え、そうでないものは流失額を増やす傾向にあります。
また、毎月あるいは年2回決まった時期に配当金を出すのか、配当金を出さずに基準価額を高めていくか、方針の異なる商品が販売されていますので、これも選択する必要があります。
投資信託は多くの金融機関で販売されています。どこでも購入できますが、銀行や郵便局で販売されている投資信託は、本数が少なく申込手数料もかかります。
一般的に証券会社のほうが販売されている投信の本数も多く、申込手数料が安い投信もあります。特にネット証券には「ノーロード」といって、申込手数料がゼロの投信も多数あるので、検討の余地はあります。
ただしどこの金融機関で購入しても、運用手数料にあたる「信託報酬」は必ずかかります。申込手数料と信託報酬は事前に確認しましょう。
執筆者:黒木達也
経済ジャーナリスト