住民税非課税世帯への「3万円給付」があるようですが、なぜ「中間層」への給付はないのでしょうか。物価高はどの世帯も直面していると思うのですが…
配信日: 2024.12.26
中間層への給付はなぜ行われないのでしょうか。給付に至った理由や給付政策の課題について解説します。
執筆者:石上ユウキ(いしがみ ゆうき)
FP2級、AFP
給付に至った経緯
非課税世帯への3万円給付は、今夏から調整が進められていました。2024年の通常国会の閉会時に、当時の岸田首相は記者会見で次のように明言しています。
「年金(生活)世帯や低所得者、地方経済に焦点を絞って、思い切った検討をしてまいります。具体的には、物価高の中で食費の高騰などに苦しんでおられる年金(生活)世帯や低所得者世帯を対象として、追加の給付金で支援することを検討いたします。」
会見では、この施策について秋ごろの策定を目指すとしていました。しかし、9月には自民党総裁選挙、10月には衆議院議員総選挙が行われたことで政策の策定が遅れ、11月下旬の発表となったのです。
なぜ非課税世帯へ給付金が支給されるのか
住民税非課税世帯へ給付金が支給される理由としては、収入が低い世帯は物価高で生活に困窮していることが挙げられます。
とくに、住民税非課税世帯には高齢者世帯や年金収入のみの世帯が多いです。厚生労働省の「令和5年国民生活基礎調査」によれば、調査対象となった65歳以上の高齢者世帯2504世帯のうち、住民税非課税世帯は955世帯となっています。高齢者世帯の約4割が非課税世帯となっているのです。
高齢者に非課税世帯が多い理由は、年金は所得控除で差し引かれる金額が大きいためです。単身世帯であれば年収155万円以下、夫婦世帯なら年収211万円以下が住民税非課税の目安となります。
年金収入の令和4年度末平均月額は、基礎年金が5万6316円、厚生年金が14万3973円です。よって、厚生年金を平均以下の金額で受け取っている人は、住民税が非課税となる場合も多いでしょう。基礎年金のみ受け取っている人に至っては、満額を受給しても年間の受給額は約80万円であるため、確実に住民税が非課税となります。
また、高齢者世帯は年金収入のみの世帯が多く、収入が少ないことも非課税世帯が多い理由の1つでしょう。高齢になると、健康上の理由などから働くのが難しくなり、労働収入を得にくくなります。
収入源は年金のみになるケースが多く、現役のときに比べて年収は大きく下がると想定されます。生活費のやりくりが急激に厳しくなる可能性があるため、政府は非課税世帯に絞って給付しているのです。
給付政策の課題
給付政策の課題は、「十分な資産を持つ人にも給付してしまう可能性がある」ことです。給付対象の多くは高齢者世帯となりますが、すべての世帯が困窮しているわけではないでしょう。
金融広報中央委員会の「家計の金融行動に関する世論調査[単身世帯調査] 令和5年」によれば、調査対象世帯2500世帯のうち、金融資産が3000万円以上ある世帯は60代では15.1%、70代では17.3%です。これは、金融資産を保有していない世帯(60代33.3%、70代26.7%)に次いで多い割合を占めています。
上記を踏まえると、高齢者のなかには収入が少なく住民税が非課税となっていながら、十分な資産を備えている世帯が一定数存在すると考えられます。
今後同様の施策が行われるのであれば、「本当に給付が必要な世帯」を絞り込んだり、収入にかかわらず多くの年代が生活苦を解消できたりする内容を期待したいところです。
まとめ
2024年10月分の消費者物価指数が前年同月から2.3%上昇していることからも分かるように、物価は依然として高いままです。私たちがこれからのインフレにうまく付き合っていくには、一時的な給付だけでは困難だといわざるを得ないでしょう。どの家庭も物価高の苦しさに直面しているからこそ、消費が活性化するような施策が求められます。
出典
内閣府 国民の安心・安全と持続的な成長に向けた総合経済対策~全ての世代の現在・将来の賃金・所得を増やす~政策ファイル
首相官邸 岸田内閣総理大臣記者会見
厚生労働省 令和5年国民生活基礎調査 所得 表番号131 世帯数、世帯主の年齢(10歳階級)・住民税額階級別
厚生労働省 令和4年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況
金融広報中央委員会 家計の金融行動に関する世論調査[単身世帯調査] 令和5年調査結果
総務省統計局 2020年基準 消費者物価指数 全国 2024年(令和6年)10月分(2024年11月22日公表)
執筆者:石上ユウキ
FP2級、AFP