更新日: 2021.07.31 その他相続

マイナスの遺産は放棄して、プラスの遺産のみ相続。そんなことって可能なの?

マイナスの遺産は放棄して、プラスの遺産のみ相続。そんなことって可能なの?
借金をはじめ、マイナスとなる財産は相続したくない。一方で自身にとってプラスとなる財産や先祖代々の大切な財産は相続したい。相続ではそういった場面が起こらないとも限りません。
 
そういった場面に遭遇してしまったときに利用したいのが限定承認という制度です。
柘植輝

執筆者:柘植輝(つげ ひかる)

行政書士
 
◆お問い合わせはこちら
https://www.secure-cloud.jp/sf/1611279407LKVRaLQD/

2級ファイナンシャルプランナー
大学在学中から行政書士、2級FP技能士、宅建士の資格を活かして活動を始める。
現在では行政書士・ファイナンシャルプランナーとして活躍する傍ら、フリーライターとして精力的に活動中。広範な知識をもとに市民法務から企業法務まで幅広く手掛ける。

マイナスの遺産は限定承認によってプラスの遺産の範囲にとどめて相続が可能

相続の相談においては「借金は背負いたくない、でも土地など大切な資産は引き継ぎたい」という要望が出ることは少なくありません。
 
残念ではありますが、現状マイナスの遺産を全て放棄してプラスの遺産のみ全て相続といったことは不可能となっています。相続は亡くなった方の権利義務を一切まとめて引き継ぐ単純承認か、それとも相続自体を放棄する相続放棄を選択するかが原則となっているからです。
 
つまり、相続によって要らないものだけを捨てて必要なものだけを拾う、という都合のいい選択はできないということです。
 
ただ、これには例外があります。それは限定承認という制度を利用することです。限定承認とは、プラスの遺産の範囲内でマイナスの遺産を引き継ぐというものです。簡単に説明すると、遺産の中に3000万円の借金があったとしても、プラスの財産が2000万円しかない場合、負債は2000万円だけ引き継げばいいということです。
 
限定承認をすれば全てのマイナスの遺産を放棄できるわけではありませんが、プラスの財産の範囲内でのみの相続となるため、大切な遺産を引き継ぎつつ、過大な負債の承継を抑えるということが可能になります。
 

限定承認は難しいのが現実

ここまで読むと限定承認は素晴らしい制度のように思えますが、あまり利用されていないという事実があります。
 
なぜなら、手続き自体が家庭裁判所にて行う煩雑なものであること加え、下記のような厳格な要件が求められているからです。
 

(1)自分が相続人となる相続があったことを知ってから原則3ヶ月以内
(2)亡くなった方の最後の住所地の家庭裁判所にて手続き
(3)相続人全員(相続放棄した人を除く)が限定承認すること

 
そのため実際の相続においては特に次のような理由から、利用されることがほとんどありません。
 

●亡くなった方と相続人の間の住所地が離れすぎていて手続きが困難
 
●相続人の1人が相続を承認したとみなされる行為(例えば遺産の一部を処分するなど)をしており限定承認ができなかった
 
●気づいたときには3ヶ月を過ぎていた
 
●難しいため専門家に頼もうとしたが専門家でも十分な経験を積んでいる人がほとんどおらず依頼先が見つからなかった
 
●財産の中に土地や株など値上がりしている財産があれば、実際には売却しなくともみなし譲渡課税が発生することから税負担がネックとなった

 

【PR】「相続の手続き何にからやれば...」それならプロにおまかせ!年間7万件突破まずは無料診断

それでも限定承認を利用すべき場面は?

限定承認は難しい手続きとはいえ、限定承認を利用した方がよい場面があります。それは、どうしても引き継ぎたい財産があるが単純承認すると負債の額が大きすぎる(あるいは負債の額が不明確)であるような場合です。
 
例えば、先祖代々から伝わる土地などの重要な財産であったり、亡くなった方が経営されていた会社の株式などがある場合は、ある程度のデメリットを背負ってでも限定承認を利用すべきです。
 

相続において負債のみの放棄はできない

相続は亡くなった方の権利義務の一切を引き継ぐかそれとも全てを放棄するかが基本であり、マイナスの財産は一切引き継がずプラスの財産だけ全て引き継ぐということはできないようになっています。
 
しかし、限定承認を利用することでプラスの財産の範囲内に引き継ぐマイナスの財産を減少させることができます。
 
ただ、限定承認は厳格に要件が定められている上、期限も3ヶ月と短く、うかうかしていると「時すでに遅し」ともなりかねません。少しでも限定承認を利用したいと思ったときは、即座に家庭裁判所や専門家に相談するようにしてください。
 
執筆者:柘植輝
行政書士

PR
FF_お金にまつわる悩み・疑問 ライターさん募集