更新日: 2023.11.29 その他相続
相続が“争族”になりやすい家庭とは?
執筆者:佐々木達憲(ささき たつのり)
京都市役所前法律事務所弁護士
相続・事業承継を中心とした企業支援と交通事故が主要対応領域。弁護士としての法律相談への対応だけでなく、個人投資家兼FPとして、特に米国株投資を中心とした資産運用に関するアドバイスもご提供。京都を中心する関西圏に加え、毎月沖縄へも通っており、沖縄特有の案件も数多く手掛けている。
目次
長男に相続をさせるのが当然である、と思い込んでいるケース
まず、親が生前から自分の財産は長男がすべて、あるいは大半を引き継ぐのが当然である、と思い込んでいるケースです。
意外に思われるかもしれませんが、こうしたケースは今でも少なくありません。戦前、日本は家督相続という制度により、長男が親の地位や財産をすべて承継するということが、当たり前に行われてきました。
相続財産を残して亡くなる親世代が、この家督相続という制度を頭の中に残してしまい、自分の財産はすべて長男が継いでくれるし、他の兄弟姉妹もそれに文句を言わないだろう、と思い込んでしまっていることが実は多いのです。
しかし当然のことながら、長男以外の兄弟姉妹がそれに同意していなければ、反発が起こり、“争族”となります。このケースではまず、周りからも助言をしたりしながら、親が認識を改める必要あります。
不動産以外に資産がないケース
これも非常に多いですが、親の遺産が不動産しかなく、現金や預貯金がない、あるいは少ないのに、遺産である不動産を兄弟姉妹で分ける、というケースがあります。
不動産を売ってお金に換えることができれば良いですが、その不動産に住みたいと望んでいる兄弟姉妹がいる場合、その人は自分が不動産を取得する代償として、他の兄弟姉妹にお金を支払わなければなりません。
お金を捻出できず、しかも親からの遺産に現金や預貯金が乏しければ、不動産を取得して住みたいと思っても代償のお金を支払うことができませんので、泣く泣くその不動産を手放さなければなりません。
特に、生前に親と同居をしていた長男がそのまま生活の拠点として親の住居をあてにしていた、というケースが多いことから、弁護士の業界では「同居の長男が泣くケース」と呼ばれることもあります。
個々のケースで実際に親と同居をしていたのが長男であったかはさておきとして、代償のお金を支払えず不動産を手放さなければならない、となれば生活に関わる死活問題ですから、これも互いによる必死な主張が飛び交う、“争族”になりやすいケースです。
こうしたケースでは後述する遺言書の作成も対策になり得ますが、遺産が不動産だけとならないよう、親世代が資産運用で不動産以外の資産を形成しておくことも必要不可欠です。
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誰か特定の兄弟姉妹が親の面倒を見てきたケース
前項で述べた、誰か特定の兄弟姉妹が親と同居をしていたケースとも重なることがありますが、兄弟姉妹のうち誰か特定の人物が親の介護等をしていた場合、“争族”となりやすいです。時間と労力を割いてきた自分と、親と離れて何もしてこなかった兄弟姉妹が、同じ割合で遺産を相続することになるのはおかしい、という不公平感が基になっています。
一応、こうした場合の不公平感を是正するための制度もあるにはあるのですが、裁判所での実務に携わっていると、こうした制度を使って不公平感を是正するのは、実際にはとても困難であるとわかります。
また、筆者が過去に投稿した記事「葬儀費用、誰の負担になる?」(※)でも述べたとおり、裁判所は、葬儀費用の負担者は喪主である、と認定するのがほぼ確立した実務でもあります。
そうしたことから、弁護士の仕事をしていると「面倒を見てきた者が負けですか」「葬儀をやった者が負けですか」と涙ながらに言われることも多いのですが、「残念ながらそうです」と答えなければならないのも現実です。
個人的には、確立してしまっている裁判所の判断が世の中の現実に合っていないと思ったり、そもそも勝ち負けという考えになってしまうのが悲しいと感じたり、考えることはいろいろで複雑ですが、制度と実務の実態による不公平感が、“争族”の原因になりやすくなっていることは間違いありません。
こうしたケースは本当に難しいですが、せめて兄弟姉妹のうち離れて暮らしている人が、親の面倒を見てくれている兄弟姉妹に感謝の気持ちを伝えられる関係性を、作っていきたいものです。
兄弟姉妹間で、たどってきた人生に差異が生じているケース
例えば、2人いる兄弟姉妹のうち、一方は大学まで進学して親に学費を出してもらったけれども、もう一方は高校までしか進学できなかったなど、育ち方に何らかの差異があると、これもまた不公平感が募り、“争族”の原因となりやすいです。
単なる不公平感と言いきれるだけでなく、もはや気持ちが「親の愛の奪い合い」にまで発展しているように感じられるケースも、多々あります。
しかも厄介なことに、親による育て方とはまったく関係がないことまでもが、感情の対立となっているケースまで存在します。例えば、片や結婚相手に恵まれたけれどももう片方はそうでなかったとか、片や健康状態にまったく問題なく育ったけれどももう片方は病弱であったなどです。
自分のすぐ隣にいて一緒に育った兄弟姉妹が、自分と横並びではなく異なる境遇にある、そのことがもはや理屈を抜きにした感情的な契機として、“争族”に発展することが非常に多いのです。
こうしたケースも理屈ではなく感情が基になっているので非常に難しいですが、親が遺言等で「あなたたちに与えてきた愛情は等しいものだよ」と懸命に伝えていただきたいと思っています。
遺言書の作成がないケース
以上で述べてきたすべてのケースにも影響し得るものでありますが、親が遺言を遺していない、というのが根本原因となり“争族”となっているのが、実は最も多いかもしれません。
生前の親の遺志が遺言に遺っていないからこそ、子どもたちそれぞれが違う立場で異なることを想像してしまい、それが“争族”と化してしまう、といえます。せめて、親が自分の遺志をきちんと遺言に遺していれば、兄弟姉妹間ですれ違いや勘違いが起こることを防ぎ、“争族”の抑制・防止の大きな役に立つはずです。
遺書と遺言、一文字違って大違いです。遺書と違って遺言は何ら縁起の悪いものではありませんので、将来の“争族”を防止するために、必ず書きましょう。
出典
(※)ファイナンシャルフィールド 葬儀費用、誰の負担になる?
執筆者:佐々木達憲
京都市役所前法律事務所弁護士