夫の死亡後、夫の保険から入院給付金などを受け取ったら相続放棄できなくなるって本当?
配信日: 2020.01.15 更新日: 2020.04.07
執筆者:新美昌也(にいみ まさや)
ファイナンシャル・プランナー。
ライフプラン・キャッシュフロー分析に基づいた家計相談を得意とする。法人営業をしていた経験から経営者からの相談が多い。教育資金、住宅購入、年金、資産運用、保険、離婚のお金などをテーマとしたセミナーや個別相談も多数実施している。教育資金をテーマにした講演は延べ800校以上の高校で実施。
また、保険や介護のお金に詳しいファイナンシャル・プランナーとしてテレビや新聞、雑誌の取材にも多数協力している。共著に「これで安心!入院・介護のお金」(技術評論社)がある。
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相続放棄って何?
相続開始のときから、相続人は、被相続人(亡くなった方)の財産に属した一切の権利義務を承継します。プラスの財産だけではなく、マイナスの財産(借金など)も相続することになります。
多額の借金がある場合、相続したくないと考える相続人が通常だと思いますが、きちんと払っていこうと考える相続人もいるかもしれません。そこで、相続人には以下の3つの選択肢が与えられています。
(1)単純承認=プラスの財産もマイナスの財産も制限なく全て相続すること
(2)限定承認=プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を相続すること
(3)相続放棄=プラスの財産もマイナスの財産も相続しないこと
相続放棄や限定承認は、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3ヶ月以内に家庭裁判所に申述しなければならず、この期間を過ぎると、単純承認したとみなされます。
また、相続人が相続財産の全部または一部を処分したときなどは、単純承認をしたものとみなされてしまいます。これを法定単純承認といいます。 例えば、「処分」の例として、不動産(相続財産)の売却や被相続人名義の銀行預金を引き出して相続人が自分のために使う場合などがあげられます。
単純承認とみなされると、被相続人に多額の借金があるとき、相続放棄などができなくなり、相続人に大きな負担となります。なお、被相続人の葬式費用や生前の治療費を支払う場合などは処分に当たらないとされています。
入院給付金や手術給付金などの給付金の受け取りは単純承認になる?
まず、入院給付金など給付金の税金について整理しておきましょう。生存中、被保険者本人のみならず配偶者その他の親族が受け取った入院給付金等は「身体の傷害に起因して支払われるもの」として非課税所得とされ、所得税が課税されません(所得税法9条および所得税施行令30条)。
<非課税になる給付金等>
・入院給付金
・手術給付金
・通院給付金
・がん診断給付金
・特定疾病(3大疾病)保険金
・先進医療給付金
・高度障害保険金(給付金)
・リビング・ニーズ特約保険金
・介護保険金(一時金・年金)
など
では本来、夫が受け取るべき入院給付金などを夫の死亡後、妻が代わりに受け取る場合はどうでしょうか。
この場合、本来、被保険者である夫に支払われるべき入院給付金等に対する請求権を妻がその被保険者である夫から「本来の相続財産」として承継的に取得したと取り扱われます(相続税基本通達3-7の(注))。つまり、不動産(相続財産)や被相続人名義の銀行預金等と同様に扱われます。
したがって、妻が入院給付金等を夫の死亡後に受け取ると、「相続人が相続財産の全部または一部を処分した」、すなわち、単純承認したとみなされ相続放棄できなくなります。
なお、契約者・被保険者が夫、受取人が妻となっている生命保険の死亡保険金については、受取人固有の財産とされるため、相続放棄をしても死亡保険金を受け取ることができます。ただし、この場合、生命保険金の非課税枠(500万円×法定相続人の数)を利用できません。
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まとめ
夫に多額の借金があり、相続放棄をしようと考えている場合は、単純承認するつもりがなくても、「相続人が相続財産の全部または一部を処分」すると単純承認とみなされ、相続放棄できなくなってしまいます。
また、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3ヶ月以内に家庭裁判所に相続放棄の申述をしなければならず、この期間を過ぎると、単純承認したとみなされます。気を付けてください。
(参照)民法882条~940条
執筆者:新美昌也
ファイナンシャル・プランナー