更新日: 2024.09.05 その他相続

親が亡くなって残った「実家」…住みたくない場合はどうすればいい?

親が亡くなって残った「実家」…住みたくない場合はどうすればいい?
親が亡くなり実家を相続したものの、自身は自宅を所有している、あるいは何らかの理由で実家に住みたくない場合、実家の処分に困るということがあります。今回は、実家を相続した場合で、かつ、自分が住まない場合、どのような選択肢があるのか、付随する税金はどうなっているのかをみていきます。
 
中村将士

執筆者:中村将士(なかむら まさし)

新東綜合開発株式会社代表取締役 1級ファイナンシャル・プランニング技能士 CFP(R)(日本FP協会認定) 宅地建物取引士 公認不動産コンサルティングマスター 上級心理カウンセラー

私がFP相談を行うとき、一番優先していることは「あなたが前向きになれるかどうか」です。セミナーを行うときに、大事にしていることは「楽しいかどうか」です。
 
ファイナンシャル・プランニングは、数字遊びであってはなりません。そこに「幸せ」や「前向きな気持ち」があって初めて価値があるものです。私は、そういった気持ちを何よりも大切に思っています。

選択肢1「売却する」

まず考えられるのは、売却することではないでしょうか。不動産は所有しているだけで、固定資産税、都市計画税がかかってきます。また、維持管理もしなければいけないため、早期に売却するのは、妥当な選択肢のひとつです。
 
では、土地や建物を売却した場合、どのような税金をどのくらい納める必要があるのでしょうか。かかってくる税金の種類と金額についてみていきましょう。
 
個人が土地や建物を売却し、利益が生じた場合は、その利益に対して「所得税」「住民税」「復興特別税額」を収める必要があります。税法上は、この利益のことを「譲渡所得」といいます。譲渡所得は、以下のように計算します。
 
譲渡所得 = 譲渡価額 - 取得費 - 譲渡費用 - 特別控除
 
相続した不動産を売却した場合、以下の特例を利用することで、譲渡所得を少なくすることができ、納める税金を抑えることができます。なお、以下の特例は、いずれか一方しか利用することはできません。
 
(1)被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例
(2)相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
(1)は「特別控除」として最高3000万円まで、(2)は「取得費」として相続税額のうち一定金額を加算することができます。
 
不動産を売却した場合の譲渡所得に対する所得税、住民税の税率は、所有期間によって異なります。所有期間とは、不動産を購入した日から売却した期間を指します。不動産を相続した場合は、亡くなった方が購入した日を指します。
 
所有期間の区分の仕方は、「5年を超える場合」か「5年以下の場合」かであり、売却した年の1月1日の時点で5年経っているかどうかを判断します。前者を「長期譲渡所得」、後者を「短期譲渡所得」といいます。実家を相続した場合、多くは「長期譲渡所得」に当てはまるものと考えられます。計算式は以下の通りです。

<長期譲渡所得の場合>

所得税額 = 長期譲渡所得 × 15%
住民税額 = 長期譲渡所得 × 5%
復興特別税額 = 所得税額 × 2.1%

<短期譲渡所得の場合>

所得税額 = 短期譲渡所得 × 30%
住民税額 = 短期譲渡所得 × 9%
復興特別税額 = 所得税額 × 2.1%
 

選択肢2「賃貸する」

次に考えられるのは、賃貸に出すということです。資産運用に興味のある方は、検討してみるのもよいかもしれません。では、不動産を賃貸して収入を得た場合、どのような税金をどのくらい納める必要があるのでしょうか。先ほどと同じように、掛かってくる税金の種類と金額についてみていきましょう。
 
個人が不動産を賃貸し、利益が生じた場合は、その利益に対して「所得税」「住民税」「復興特別税額」を収める必要があります(一定の規模以上の場合は所得や税金の取扱いが変わってきますが、ここでは省略します)。税法上は、この利益のことを「不動産所得」といいます。不動産所得は、以下のように計算します。
 
不動産所得 = 総収入 - 必要経費
 
青色申告をしている場合、上記の式に加え「青色申告特別控除」を受けられます。青色申告特別控除は、一定の条件を満たした場合は65万円または55万円、それ以外の場合は10万円が認められます。
 
不動産所得は、「総合課税」の対象となります。従いまして、不動産所得に対する所得税額の計算方法は、他の所得金額と合計し、その合計金額(総所得金額)から所得控除の合計額を控除し、その残額に税率を乗じて税額を計算するというものになります。なお、住民税額につきましては、申告した所得に応じて計算されます。
 
また、不動産所得の損失(赤字)の金額がある場合は、一定の要件を満たしている場合は、他の所得の金額(黒字)と差引計算(損益通算)ができることになっています。
 
不動産所得がある場合は、翌年の2月16日から3月15日までの間に税務署に申告をし、同年3月15日までに所得税を納税しなければいけません。住民税の納付方法、納期につきましては、前述の譲渡所得の場合と同じです。
 

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放っておいたらどうなる?

もしかしたら、一番多いのは「しばらく放っておく」ということかもしれません。売却するにせよ賃貸に出すにせよ、不動産取引というのは不動産業者や不動産投資家でない限り人生でそうそう経験するものではありません。
 
ただでさえ難しいと感じる不動産取引なのに、不慣れな相続手続きの後ということもあり、一層、難しい、面倒臭いと感じられ、結果として「しばらくそのままにしておこう」「負担は固定資産税だけ…」となってしまうのかもしれません。
 
しかし、そのままにしておくのはできるだけ避けたいものです。そのままにしておいたがために、空き家の屋根や外壁などが崩れ、通行人にけがをさせてしまう恐れがあります。そうなってしまった場合、損害賠償を請求される恐れもあります。
 
また、空き家は犯罪の温床になりやすいとも言われており、放火などの危険性もあります。さらに、「特定空家等(※1)」に認定され、市町村長による助言または指導(※2)、さらに勧告(※3)を受けた場合には、「住宅用地に対する固定資産税の課税標準の特例」は受けられなくなります(※4)。
 
そうならないためにも、できるかぎり様子を見に行き、建物に異常がないか点検したり、窓を開けて空気を入れ替えるなどして、建物の維持管理に努める必要はあるといえます。
 

どこへ相談に行くか

空き家になった実家を売却したい、あるいは賃貸に出したい場合、やはり不動産業者に相談に行くのがよいでしょう。
 
特に、実家のある地元の不動産業者であれば、近隣の不動産事情にも詳しいので、売りに出した場合の金額はどうか、賃貸に出した場合の収益性はどうか、それぞれの需要はどうかなど、いろいろ相談に乗ってくれます。
 
もし相談に乗ってくれる不動産業者が信頼できるのであれば、そのまま仲介や管理をお願いするのもよいでしょう。
 
また、自治体が運営する空き家バンクに登録するという選択もあります。空き家バンク制度を利用する場合、自治体によっては「耐震診断」や「建物状況調査(ホームインスペクション)」等の費用に対する補助金制度があるところもありますので、一度確認してみるのもよいでしょう。
 
税金につきましては、税理士や税務署に相談することをおすすめします。確定申告の時期には、税務署内で申告相談を行っています。税務署によっては税務署外に相談会場を設けて申告相談を行っているところもあります。
 
「実家」というのは、両親が住んでいた場所であり、自分が育った場所でもあることがほとんどです。思い出が詰まっている分、「処分する」ことに抵抗する気持ちもあるとは思います。
 
しかし、「お荷物」となってしまっては悲しいですね。できればそうなる前に、家族で話し合う機会を設けて「実家」をどうするのかを話し合ってみてはいかがでしょうか?
 
関連法規
※1 空家等対策の推進に関する特別措置法(平成26年法律第127号)第2条第2項
※2 空家等対策の推進に関する特別措置法第14条第1項
※3 空家等対策の推進に関する特別措置法第14条第2項
※4 地方税法第349条の3の2
 
執筆者:中村将士
新東綜合開発株式会社代表取締役 1級ファイナンシャル・プランニング技能士 CFP(R)(日本FP協会認定) 宅地建物取引士 公認不動産コンサルティングマスター 上級心理カウンセラー


 

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