更新日: 2020.02.26 その他相続

未登記や相続放棄で所有者不明の土地が急増 急がれる対応策

未登記や相続放棄で所有者不明の土地が急増 急がれる対応策
全国で所有者のわからない土地が急増しています。九州全体よりも大きな面積になる、との見方もあるくらいです。特に相続が円滑に進まなかったために、所有者の特定ができずに、その土地が放置されているケースが目立ちます。
 
また、土地税制の根幹である固定資産税の課税ができない、などの問題も発生しています。政府もようやく重い腰を上げ、本格的な対策の検討に乗り出しました。
 
黒木達也

執筆者:黒木達也(くろき たつや)

経済ジャーナリスト

大手新聞社出版局勤務を経て現職。

相続があっても所有者不明の土地に

所有者不明の土地が急速に増えた最大の理由は、相続による登記がなされずに放置されてきたことに大きな原因があります。土地の所有者が亡くなり相続が発生すると、通常は相続した人が登記を行い、管理と納税を続けることになります。しかし、登記の手続きが煩雑でかなりの費用もかかります。
 
実際に相続した土地に、本人が居住を続ける、市街地の土地で利用価値が非常に高い、といった事情であれば登記を選択すると思われます。しかし過疎地の利用価値の少ない土地の場合、相続したとしても、わざわざ登記をしない人が増えてしまいました。さらに最近では、登記どころか相続もせずに「相続放棄」を選択する人も増えています。
 
登記をためらうもう1つの理由は、登記することで支払いが発生する「固定資産税」です。固定資産税は登記がされている不動産に対して課税される仕組みで、仮に相続はしても登記をしない限り、現在は固定資産税を支払う必要はありません。
 
登記をすれば、土地に対する権利の確定はできますが、そのメリットに比べ、固定資産税の支払いというデメリットのほうが大きいと判断するからです。特に本人が居住しない過疎地の宅地や農地などは、登記すれば課税対象になるため、放置する行為が目立ってきました。

土地に対する国民の意識の変化

特に高度成長期の頃を中心に、「地価は値上がりする」「土地こそ最高の財産」といった土地に対する根強い信仰が日本人にありました。ところが人口減少が現実となり、土地価格も下落し始めました。
 
地方の過疎化の進行なども重なり、土地に対する意識が大きく変わってきています。ここ数年は、土地を所有しようとする意欲が大きく減退していることは間違いありません。
 
仮に相続という事態が発生しても、相続人の確定や登記はすぐには進みません。1人が相続するのではなく共有名義になったりすると、そこからさらに次なる相続人が生まれることで混乱が増し、所有者不明の土地が増え続ける事態になりました。
 
特に人口減少による過疎化が進み、利用されない土地、所有者不明の土地が増えることに拍車がかかっています。さすがに政府としても対策を講じる必要に迫られ、2019年から、所有者不明の土地への対応策を策定しつつあります。

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登記の義務化と手続きの簡素化

まず相続後の登記が義務でなかったため、これまで登記されない土地が増え続けたことへの反省から、相続時の「登記の義務化」を進める方針です。相続が行われても登記が行われずに放置される、という現象を減らすことが重要との考え方です。
 
これと同時に「登記の簡素化」も進め、登記に関する煩わしい手続きを簡単にし、登記費用も安く変更することも検討します。もし登記をしない場合は、相続の意思がないとの判断を行い、土地所有権の放棄に関する要件も定める方向です。
 
これにより、相続時の遺産分割のルールづくりと所有者の確定を円滑に行い、同時に所有権が放棄された土地に関しての有効活用を模索します。
 
相続をせずに放棄する人も増えているため、その土地が所有者不明とならないようにします。例えば、公共施設などの用地として利用する、土地購入を希望する個人や事業者に比較的安く提供する、など土地の適切な利用法を具体化すると思われます。

登記なしでも土地所有者へ課税を

所有者不明の土地に関しては、当然登記もされていないため課税ができません。税を回避するため、相続後も登記をせずに土地を放置する人が多いことも事実です。
 
こうした土地の実質的な所有者を特定し課税することが必要です。登記が前提ではなく、実質所有していることを前提に課税する方法です。調査自体は市町村が進め課税します。
 
登記を済ませ、固定資産税を支払っている人から見れば、土地をただ同然で利用している人との「不公平感」をなくし、登記を促進させる狙いがあります。
 
また、登記は従来のままの状態なのに売買等で所有権のみが移転している場合は、旧来の所有者に引き続き課税することも検討します。これにより所有権の移転と登記を促す効果があります。新たな法体系を整備し、税体系の効率化を図る狙いです。

新たな法体系の整備も進める

以上の政策を進めるために、法体系の整備が不可欠です。そのためには、土地基本法、国土調査法、民法などの見直しが必要になります。
 
土地基本法関連では、土地に関する「管理」の観点から所有者の義務を明確にし、さらに利用の促進を促す項目も追加します。
 
国土調査促進特別措置法では、所有者不明の土地であっても地籍調査などが可能なように改め、円滑に土地の内容が把握できるようにします。民法に関しては、相続と登記に関する規定を見直し、登記情報の最新化を進める方向で見直します。
 
このようにして所有者不明の土地を少しでも減らし、土地利用の健全化を図る努力がようやく進みそうです。
 
執筆者:黒木達也
経済ジャーナリスト


 

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