更新日: 2020.07.07 遺言書
初心者でもできる自筆証書遺言のすすめ。今年7月からの新制度って?
今年は、自筆証書遺言書保管制度が新設されます。公正証書遺言は財産額によっては手数料が高くなりますが、自筆証書遺言であれば圧倒的に費用が安く済みます。今年7月から新設された、自筆証書遺言保管制度をご紹介します。
執筆者:當舎緑(とうしゃ みどり)
社会保険労務士。行政書士。CFP(R)。
阪神淡路大震災の経験から、法律やお金の大切さを実感し、開業後は、顧問先の会社の労働保険関係や社会保険関係の手続き、相談にのる傍ら、一般消費者向けのセミナーや執筆活動も精力的に行っている。著書は、「3級FP過去問題集」(金融ブックス)。「子どもにかけるお金の本」(主婦の友社)「もらい忘れ年金の受け取り方」(近代セールス社)など。女2人男1人の3児の母でもある。
遺言書は「なぜ」必要か?
遺言書を書いたほうがいい方は、財産の多い方ばかりではありません。
「子どもたちがしっかりしているから必要ない。」という理由も、遺言書を書かない理由としてよく聞かれますが、たとえ子どもがしっかりしていても、ひとりっ子でないなら、ちゃんと親の思いを書き遺してあげないと、子どもたちの中で複数の複雑な事情が絡み合い、対応に困る場面も珍しくないのです。
自宅の処分、お墓、祭祀承継などを誰かに引き継がせるのかなども、対応に迷うものの1つです。
親の思いとしては守ってもらいたい財産が、子どもにとっては負担になったり、親からの子どもに対する援助の仕方が兄弟で異なっているため、実は親に見せていない不満を子どもが抱えていることも珍しくありません。
親が子どもに住宅取得の援助をしたり、親子で一緒に同居している場合なども多いものですが、この場合、どうしても「自分はあまり援助をしてもらっていないので不公平だ」と感じる子どもが出てくるのは仕方がないことでしょう。
財産を「公平に」分割することができれば一番いいのでしょうが、それがなかなかできないので、少しでも相続人に自分の思いを伝えるというのも、遺言書が必要な理由の1つだと思います。
初めての遺言書。いったい何から始めるの?
では、財産もそれほど多くなく、子どもたちがしっかりしているから不要かもしれないけれど、とりあえず「書いてみようかな」という軽い気持ちの遺言書は、どう書くと正解なのでしょうか。
今年改正される自筆証書遺言保管場所となることが予定される法務局でも、遺言の内容についての相談は受け付けてくれません。どんな内容にすればよいのかを決定するのは、自分以外にいないのです。
最初は箇条書きでいいので、希望を書き出してみるといいでしょう。いくら親子でも希望がすべて一致することはなかなかありません。ですから、まずは自分にとって譲れる希望と、譲れない希望を整理してみましょう。
自分が亡くなるのはまだまだ先だし、死ぬまでいくら使うかわからない。自宅を売却して施設に入るかもしれないし、財産の詳細がわからないという場合でも大丈夫です。遺言の撤回はできますので、まずは思いついたことをすべて書き出してみてください。
自筆証書遺言の一番大変なところは、「全文」自分で書くという原則です。
財産目録についてはパソコンなどで作成し、ページごとに署名押印すればよいとの緩和策も認められるようになりましたが、全文自筆で書くのはとても大変な作業です。書いた後に気が変わることももちろんありますが、まずは書いてみなければ、自分の思いにも気づけません。
昔では普通だった、夫が亡くなったら妻がすべて相続し、妻が亡くなれば子どもたちで話し合って相続の分割をする、という流れは今では通用しないことがあります。
個人の事情は多様化しています。結婚する人もいれば結婚しない人もいる、夫婦に子どもがいなかったので、親戚の子どもに面倒をみてもらっている、など相続人以外の親戚が出てくることもあります。
個人の事情が複雑だったり、相続人の環境がバラバラな場合などは、財産の多寡に関係なく、そこに配慮してあげる遺言書を遺すことがとても大事になってきます。まずは、法務省が公開している遺言書の様式を参考にするといいでしょう。
*法務省 自筆遺言書の様式について(※)
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新設された自筆証書遺言書保管制度とは
自筆証書遺言については、「自筆で書く」ということや、相続発生後、家庭裁判所に検認する必要があるという点が大きなデメリットがありました。
また、自筆では書いたものの、誰かに見つかることもなく、仏壇の引き出しなどにひっそりとしまい込まれて、気がつけば遺言書とまったく異なる内容で遺産相続が行われたなど、他にもいくつかのデメリットが存在していました。
今回の保管制度は、そのデメリットをいくつかなくしてしまう制度です。実際この制度を利用する場合の手続きは、以下のようになります。(出所:法務省HP)
予約がない場合には受付ができませんので、保管場所の法務局を必ず予約しましょう。代理人や郵送ではできません。保管の申請先は住所地か本籍地、所有する不動産の所在地のいずれかを管轄する法務局が遺言書の保管所となります。遺言書の保管申請は1件3900円です。
*法務省 自筆証書遺言書保管制度(※2)
予約は2020年7月1日から始まります。詳細はこれからです。公証役場で作成する公正証書よりも、自筆証書遺言のほうが、作成するハードルが低いと感じる方も多いはずです。
終活でよく利用されるエンディングノートでは、法的な根拠とはなりませんので、相続の手続きにおいては利用できません。
今年は新型コロナの騒動もあり、これまでと異なる日常生活を送っている方も多いでしょうが、そんな中、家の中で断捨離をしたり、自分の財産を確認した方もいるでしょう。
自分の財産が確認できたのであれば、次の段階として身近になった自筆証書遺言にチャレンジしてみてはいかがでしょう。
(※1)法務省「06:自筆証書遺言書の様式について」
(※2)法務省
「法務局における自筆証書遺言書保管制度について」
「預けて安心! 自筆証書遺言書保管制度」
執筆者:當舎緑
社会保険労務士。行政書士。CFP(R)。