更新日: 2020.09.07 遺言書
公正証書遺言と自筆証書遺言の違いについて
執筆者:篠原まなみ(しのはら まなみ)
1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP認定者、宅地建物取引士、管理業務主任者、第一種証券外務員、内部管理責任者、行政書士
外資系証券会社、銀行で20年以上勤務。現在は、日本人、外国人を対象とした起業家支援。
自身の親の介護、相続の経験を生かして分かりやすくアドバイスをしていきたいと思っています。
遺言書とは
元気でいるうちは、自分が亡くなることはあまり考えたくないものだと思います。子供たちは仲が良いし、遺せる財産もあまりないので自分たち家族には相続争いは関係ないと思われているかもしれません。残念なことに仲が良い兄弟が、親の相続の発生とともに仲たがいをし、修復可能になった例はいくらでもあります。
また遺産分割でもめて、家庭裁判所の調停や審判までもつれ込んだ遺産分割事件の件数は、平成30年度には7507件ありました。そのうち1000万円以下が2476件の33%、1000万円超5000万円以下が3249件の43%で、5000万円以下が全体の4分の3以上(76%)を占めます(出典:裁判所 司法統計 平成30年度)。
それでは、自分の死後、子供たちがもめない方ようにする方法はないのでしょうか。その1つの方法に、遺言をするという方法があります。
遺言書の種類
代表的な遺言に、公正証書遺言、自筆証書遺言があります。公正証書遺言の平成30年の件数は、11万471件です(出典:日本公証人連合会ホームページ)。
一方、自筆証書遺言の作成件数は不明ですが、平成30年度の家庭裁判所での遺言書の検認事件数は、1万7847件です(出典:最高裁判所 平成30年度[司法統計年報])。両件数ともに年々増加しています。
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公正証書遺言
公正証書遺言は、公証人が遺言者の代わりに遺言者の真意を文章にまとめ、公正証書遺言として作成するものです。
実務的には、遺言者と公証役場の(公証人の代理で)書記が、メールやFAXで遺言の内容についてやり取りをし、最終的に遺言が作成された時に、遺言者が公証役場を訪れ、公証人が遺言者と証人2人の面前で、遺言の内容について口述します。証人2人の立ち合いが義務付けられていますが、遺言者が適当な証人を探せない場合は、公証役場で紹介をしてもらえます。
公正証書遺言は、原本、正本、謄本と3通作成され、原本が公証役場に保管され、正本と謄本が遺言者に渡されます。通常は、正本は遺言者の手元、謄本は信頼できる人に預けます。
公正証書遺言のメリットは、信用力です。公証人という法律のプロが作成しているので、内容や方式の不備で遺言が無効になることはありません。また家庭裁判所での検認の手続きを取る必要もありません。デメリットは、手数料がかかるということです。手数料は、遺言の目的である財産に対応する形で、一律に決まっています。
自筆証書遺言
自筆証書遺言は、紙に自ら遺言の内容を全文(財産目録は、パソコン可)手書きし、かつ日付、氏名を書いて、署名・押印をします。
自筆証書遺言のメリットは、自分で書けばよいので、費用がかからないことと、証人が不要だという点です。
デメリットは、内容不備、方式不備で無効になってしまうリスクがあるということです。また自筆証書遺言は、遺言書の保管者(遺言執行者等)や遺言を発見した相続人が家庭裁判所に持参し、その遺言書を検認するための手続きを経なければなりません。これは、偽造・変造の危険性があるからです。
自筆証書遺言保管制度
自筆証書遺言保管制度とは、法務局が自筆証書遺言書を保管する制度です。遺言者が、遺言書の保管を申請する時に法務局の事務官が形式を審査するので、形式不備で無効になることはありません。偽造・変造のおそれもないので、家庭裁判所の検印も必要ありません。
また、遺言書の紛失・隠匿が大きな問題でしたが、2021年度以降、遺言書保管官は遺言者の死亡届により市町村役場から法務局に通知されることにより、遺言者の死亡の事実を確認した場合、あらかじめ遺言者が指定した者(相続人、受遺者、遺言執行人等から1名)に対して、遺言書が保管されている旨を通知します。
また、こちらはすでに始まっていますが、相続人等が、保管されている遺言書の閲覧等の申請をすると、遺言保管官が他のすべての相続人に通知します。
まとめ
自筆証書保管制度の創設により、自筆証書遺言のデメリットの大部分が解消されました。手数料も保管申請費用が一律3900円(出典:法務省ホームページ 令和2年4月20日)と公正証書遺言の手数料(下表参照)と比較して割安です。
ただし、公正証書遺言の場合は、公証人に自分の思いを伝えることにより、自分の真意を発見することがありますし、内容についてのアドバイスももらえますので、お金に換えられない価値があります。どういう目的で遺言を遺すのかが最終的には、選択の決め手となるでしょう。
出典:日本公証人連合会ホームページ
執筆者:篠原まなみ
AFP認定者、第一種証券外務員、内部管理責任者