4月〜6月の給料で社会保険料が決まる?その後に給料が変わったらどうなるの?
配信日: 2021.05.28
ただ、会社で届け出をしていることで、社会保険料がどのように決まっているのか、どう変化していくのか、どんなきっかけで増えているのか、社会保険料の仕組みはわかりにくいものです。
今回は社会保険料の決定の仕組みをお話しします。
執筆者:當舎緑(とうしゃ みどり)
社会保険労務士。行政書士。CFP(R)。
阪神淡路大震災の経験から、法律やお金の大切さを実感し、開業後は、顧問先の会社の労働保険関係や社会保険関係の手続き、相談にのる傍ら、一般消費者向けのセミナーや執筆活動も精力的に行っている。著書は、「3級FP過去問題集」(金融ブックス)。「子どもにかけるお金の本」(主婦の友社)「もらい忘れ年金の受け取り方」(近代セールス社)など。女2人男1人の3児の母でもある。
社会保険料は、4・5・6月、3ヶ月の給料の平均で決まる
社会保険料は、毎年7月1日時点の被保険者について、4・5・6月に支払われた給料を3ヶ月で割った金額を標準報酬月額表にあてはめて決定され、9月から翌年8月までその保険料が適用されます。
原則として17日以上(※1例外あり)出勤している月がなければ、その月は除外されます。ですので、例えば、いずれかの月に、たまたま何らかの都合で残業が増えた場合、もしくは郊外に引っ越して交通費が一気に跳ね上がった場合など、通常よりも給料が増加してしまうと、社会保険料は高くなる可能性があります。
パートで時給制の方も同様です。いわゆる短時間労働者で社会保険に加入した場合、最初は見込みの給料で社会保険に加入していたとしても、4・5・6月の3ヶ月で思いがけずシフトが多くなり、働きすぎたという場合には、見込みより急に社会保険料が跳ね上がるということもありえます。
途中で給料が変更? そんなときにも社会保険料は変更される
社会保険料の定期的な決定方法は、前段にあるように年1回ですが、それ以外にも手当がなくなって給料が下がったり、反対に昇給して給料が上がったりするときがあります。このように「固定的」な給料の変動によって、社会保険料が変更することもあります。
途中の変更の場合、残業の影響は加味されません。2020年以降、新型コロナの影響で、給料の変動以外に休業手当を受け取った方もいるでしょう。通常、給料が変更になった場合などには、変更になった月から4ヶ月目に社会保険料が変更になります。
ただし、2020年以降、新型コロナウイルスの影響で休業があった場合の特例があります(出典:日本年金機構ホームページ(※2))。
今回の特例は、令和3年7月までですが、手当などの固定的な賃金の変動がなくても、すぐに翌月から社会保険料を変更することが可能という点が特徴的です。ただ、注意点があります。社会保険料が下がるということは、将来の年金の計算上も「下がる」という点です。ですから、従業員の「同意」が求められているのです。
社会保険料を下げる裏ワザがあるの?
筆者は仕事柄、労働者からの「給料がそれほど多くもないのに、その中から天引きされる毎月社会保険料の負担は重い」。もしくは事業主さんの「毎月、労働者の社会保険料の負担を続けるのは大変」という声をよく聞きます。
そのため、ネットの情報として、「これで社会保険料が削減できる!」などのうたい文句で、社会保険料の対象とならない報酬にする裏ワザなるものも存在するようです。この是非はともかく、社会保険料の対象となる「報酬」とは何が含まれるのか、見てみましょう。
日本年金機構のホームページには、社会保険料の対象となる「報酬」として、以下のような具体的事例が挙げられています(以下、日本年金機構の資料より抜粋)。
1. 現実に提供された労働に対する対価に加え、給与規定等に基づいて使用者が経常的(定期的)に被用者に支払うものは、「報酬等」に該当する。労働の提供と対償の支払いが時間的に一致する必要はなく、将来の労働に対するものや、病気欠勤中や休業中に支払われる手当であっても労働の対償となり、「報酬等」に該当する。また、雇用契約を前提として事業主から食事、住宅等の提供を受けている場合(現物給与)も「報酬等」に含まれる。
【例】賃金、給料、俸給、賞与、インセンティブ、通勤手当、扶養手当、管理職手当、勤務地手当、休職手当、休業手当、待命手当
2. 労働の対償として受けるものでないものは、「報酬等」に該当しない。
【例】傷病手当金、労働者災害補償保険法に基づく休業補償、解雇予告手当、退職手当、内職収入、財産収入、適用事業所以外から受ける収入
(注)退職手当は、毎月の給与や賞与に上乗せして前払いされる場合、被保険者の通常の生計に充てられる経常収入と扱うことが妥当であり、「報酬等」に該当する。
3. 事業主が負担すべきものを被保険者が立て替え、その実費弁償を受ける場合、労働の対償とは認められないため、「報酬等」に該当しない。
【例】出張旅費、赴任旅費
4. 事業主が恩恵的に支給するものは労働の対償とは認められないため、原則として「報酬等」に該当しない。
【例】見舞金、結婚祝い金、餞別金
5. 恩恵的に支給するものであっても、労働協約等に基づいて支給されるもので、経常的(定期的)に支払われる場合は、「報酬等」に該当する。
【例】傷病手当金と給与の差額補填を目的とした見舞金
6. 労働の対償として支給されるものであっても、被保険者が常態として受ける報酬以外のものは、「報酬等」に含まれない(支給事由の発生、支給条件、支給額等が不確定で、経常的に受けるものではないものは、被保険者の通常の生計に充てられるものとはいえないため)。ただし、これに該当するものは極めて限定的である。
【例】大入り袋
※ここで挙げた【例】は一般的な場合を想定しており、その名称だけでなく、実態に合わせて「報酬等」に該当するかどうか判断を行うものとする。
(引用・抜粋:日本年金機構「標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集」(※3))
これらの説明を見ると、名称は何であれ、「労務の対象」とみなされれば、社会保険料の対象となることがわかります。名称を「出張旅費」や「退職手当」などに変更しても、社会保険料の対象から外れるわけではないので注意しましょう。
(※1)「17日以上の例外」
一般被保険者の方が短時間労働者になったり、短時間労働者が一般被保険者になったりする場合の特例あり。原則は17日以上だが、1月も17日以上ない場合でも11日以上ある月は算定の対象となる。また、もともとパート等で、17日以上ない場合には、15日以上ある月を算定の対象とする。
(※2)
日本年金機構「【事業主の皆さまへ】新型コロナウイルス感染症の影響に伴う休業で著しく報酬が下がった場合における、健康保険・厚生年金保険料の標準報酬月額の特例改定の期間がさらに延長されることになりました」
(※3)日本年金機構「標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集」
(参考・引用)
日本年金機構「定時決定(算定基礎届)」
日本年金機構「随時改定(月額変更届)」
厚生労働省「厚生年金保険料等の標準報酬月額の特例改定について」
執筆者:當舎緑
社会保険労務士。行政書士。CFP(R)。