更新日: 2019.02.05 インタビュー
エキスパートに聞く「仕事とお金の話」⑬
消費者の選択が省エネにつながる時代が到来。知識を身につけ、賢く電気とつきあいましょう
Interview Guest : 藤森 禮一郎
「ファイナンシャルフィールド」でも〈身近な電気の話〉をテーマに記事を執筆しています。そんな藤森さんに、電力自由化や再生可能エネルギーなど、最近気になる電気の話題についてお聞きしました。
Interview Guest
中央大学法学部卒業後、電気新聞入社。電力・原子力・電力自由化など、主としてエネルギー行政を担当。編集局長、論説主幹、特別編集委員を経て2010年より現職。電力問題のコメンテーターとしてテレビ、雑誌などでも活躍中。『電力系統をやさしく科学する』『知ってナットク原子力』『データ通信をやさしく科学する』『身近な電気のクエスション』『火力発電、温暖化を防ぐカギのカギ』、『電気の未来、スマートグリッド』(いずれも電気新聞刊)など著書多数。
目次
電気技術のことをわかりやすくお伝えする
——現在の活動と、そこに至るまでの経緯をお聞かせください。
長年にわたり電気新聞の記者として活動してきましたが、東日本大震災の前年に退職しました。震災で大停電が起こったことをきっかけに、テレビや新聞、雑誌などで電力系統の解説をするコメンテーターとして活動するようになり、現在に至っています。在職中から何冊か本を執筆しており、一貫して電気技術のことを一般の方にわかりやすくお伝えすることを活動のベースにしています。なぜなら、日々起こるニュースを理解していただくためには、電気の知識も必要だからです。
たとえば、ヒートポンプという技術は、冷蔵庫やエアコンに使われていてとても身近なものですが、その原理を知っている人は少ないでしょう。ヒートポンプとは、低温から高温へ、高温から低温へ熱をくみ上げて移動させる技術のことです。空気中や水中など身の回りに散在する熱を汲み上げて、大きな熱エネルギーとして建物や部屋を効率的に冷やしたり、温めたりすることができます。ヒートポンプは、空気熱、地中熱、河川水熱など様々な再生可能エネルギーを効率的に利用でき省エネルギー技術としても注目されています。そんなことを少しずつ知ってもらえればという思いで活動しています。
——電気の問題で多くの人が気になっているのが電力自由化です。全面自由化から1年以上経ちましたが、どう選べばいいのか分からないという声も少なくありません。スイッチング(契約変更)する場合の選び方のコツを教えてください。
現在、電力の小売市場には300社以上が名乗りを上げており、消費者にとっては選択肢の幅が広がりましたが、安くなりますと言われても、どの会社のどのプランを選べばいいか分からないというのが消費者の受け止め方だと思います。というのも、消費者は今まで自分が電気をどこにどのように使っているか意識していなかったと思います。
家族構成や生活スタイルにより、電気の使い方は変わってきますから、まずは現状を把握することが重要。現在自分がどういう契約をしているか、そしてどんな使い方をしてきたかなどをチェックします。昼はあまり電気を使わないが、受験生がいるから夜は使用量が多いなど、家庭ごとの特徴が見えてくると思います。
スイッチングを検討する方法として一番簡単なのは「料金比較サイト」などで、価格を優先的に検討して一番安いところを探し、次にセット割引を選択します。ガス料金、インターネットやスマホの通信料金、ガソリン代、航空券代など自分の生活スタイルに最も適した組み合わせの割引サービスメニューを検討します。よく利用するポイントサービスが使えるかなどもチェックしてセット割引を選ぶのが良いでしょう。そうすると自分のライフスタイル、自分にとって最適な料金プランが見えてくると思います。
もう一つのポイントは、既存の電気会社も新しいプランをたくさん出していますから、そこをまず検討することで、スイッチングするよりも月々の料金が安くなることもあります。子どもが独立して家を出るなどのタイミングで、「契約電力(アンペア契約)」を50アンペアから30アンペアに変えてみるなど、ご家族の状況に合わせて見直してみてください。
新しい家電を選択することが節約につながる
——家庭の電気料金を節約するために、効果的な方法や考え方などがあれば教えてください。
基本は無駄を省くことです。照明をこまめに切るなどのちょっとした努力や心がけです。しかし、努力型の節約は限界がありますし、ストレスもたまります。そこで、家電を選択することによる節電がおすすめです。例えば、白熱灯をLEDに変えると電気料金は5分の1くらいになります。
日本の家電製品には、「トップランナー方式」という省エネ制度が導入され、その年に一番成績がよかった製品の性能に基づいて目標値を定める方式が採用されました。これは素晴らしい制度で、それ以来企業間の競争が促され、継続して省エネ化が進められています。例えば10年前の冷蔵庫を使っている方なら、最新の製品に買い替えれば数年で元が取れてランニングコストの節約ができます。買い替え時期がきているなら、修理するよりも買い替えることをおすすめします。
また、エアコンなどは起動するときに多くのエネルギーを使いますが、設定温度になった後はそれほど電気料金もかかりませんから、付けたり消したりするよりも、つけっ放しのほうが、電気料金が安くなる場合もあります。
——日中はずっと外出している場合も、付けっ放しのほうが良いのでしょうか?
そこまで使わないなら消したほうがいいと思います。しかし、これからはAI技術が進歩し、家電にも組み込まれてきますから、人間が電源のオン・オフをしなくても、家人が帰宅するときに室内がちょうど良い温度になっていることが当たり前になるかもしれません。
「HEMS(ヘムス)」という技術が広がりつつあります。「ホーム エネルギー マネージメント システム」の略ですが、家庭で使うエネルギーをトータルにコントロールして節約するためのシステムのことで、現在、開発と普及が進められています。電気メーターもデジタル化したスマートメーターに代わりつつあります。HEMSとつながると家電機器の自動制御が実現し、必要なエネルギーを使いながら省エネすることが可能になりますね。
新しい省エネシステムを選ぶことが省エネにつながる時代になると思います。賢い選択をして、電気と上手に付き合ってほしいですね。
再生可能エネルギーで地域を住みやすい町にする取り組み
——再生可能エネルギーへの関心が高まっています。今後、広まっていくのでしょうか? また、個人が再生可能エネルギー発展のためにできることはありますか?
世界的に地球環境問題がクローズアップされていますし、非化石燃料でエネルギーを調達する流れは、ますます強化されると思います。ただエネルギーのことを考える際に注意したいのは、国によって事情が全く違うということです。どこかの国で再生可能エネルギーの活用が成功しているからといって、日本もやるべきだとは言えません。
日本で利用可能な活用方法を最大限探し出すことが最も重要になります。ドイツでは海上での風力発電が盛んですが、それは遠浅の海岸と風況に恵まれているからです。日本の海岸はすぐに深くなりますから同じような風力設備はつくれません。日本の海上は風況が安定していません、変化が激しいのですね。柔らかい風もあれば、台風のような激しい風もありますから、風力発電にはあまり向いていません。
日本国内でも地域によって地形や気象条件が違いますから、急速に量を拡大するのは難しい面がありますね。また、太陽光発電なども集合住宅に住んでいる人にはチャンスがなく、一戸建てに住んでいる人しか参加できませんから公平性に課題があります。
再生可能エネルギーを使う努力をしても、それだけですべてを賄うのは不可能ですから、バックアップとして他のエネルギーを使うことも考えていかなければいけないと思います。
新しい技術開発に対して国民の理解が必要です。例えば各家庭で電気自動車のバッテリーを活用して、再生可能エネルギーの補助用の供給設備として使うことも可能になると思います。これまでのアイデアの延長線ではないところに、新しいアイデアがあって、再生可能エネルギーの弱みをカバーする技術が出てくると思います。皆が参加できるような社会的な仕組みを考えていくことが重要になってくるでしょう。
もう一つは地域活性化の手段として再生可能エネルギーが利用できるという視点があります。例えば林業が盛んな地域では、間伐材を燃料にして、木質バイオマスの発電所をつくり、地域の公共施設などに供給する取り組みがあります。この取り組みは地域に雇用を生み、地域経済の活性化につながります。
また、災害時の非常用電源として使うこともできます。畜産が盛んな地域は堆肥で発電するなどその地域の特徴を活かした発電をする自治体が増えてきています。これも自由化のメリットだと思います。再生可能エネルギーの利用促進のためにも良いことですね。
こうした視点は各家庭でも求められます。日本の電気の自給率は現在たった6%ほどですから、自分たちも電気をつくるんだという意識を持つことはとても大切だと思いますね。
エネルギー循環社会のために、未利用の熱エネルギーの活用に期待
——理想的な未来のエネルギーの形とはどのようなものでしょうか?
理想としては熱エネルギー循環社会を追い求めることだと思います。工場もオフィスも家庭も今までは使い捨てが基本でしたが、もったいないです。それを循環させ活用していくことが大事だと思いますね。
私たちが使うエネルギーは光エネルギーと機械(動力)エネルギーと熱エネルギーです。光エネルギーはLEDの登場により効率が良くなりました。機械(動力)の分かりやすい事例は自動車です。自動車はガソリンを燃やして動力を得ていますが、これは効率が悪いのですね。電気を動力に変える効率はほぼ100%ですので、ガソリン車は電気自動車に変わっていきます。問題は熱エネルギーです。現状では石油や天然ガスを燃やして熱にしていますが、これも効率が悪く、5割ほどがロスになります。
工場からの排熱、ホテルやレストランからの排熱、下水道排熱などの未利用排熱が沢山あります。私たちの周りには空気中にも河川水にも地中にも、未利用の自然エネルギーがいっぱいあり、誰でも利用できます。ヒートポンプの技術で活用すれば、冷暖房用の化石燃料を大幅に削減できますし、温暖化の原因である二酸化炭素の排出量も削減できるのではないでしょうか。手つかずの未利用熱や排熱を最大限活用する社会を追求していけば、地球温暖化に対応した低炭素化時代のエネルギー循環社会が現実するのではないかと思っています。
エキスパートに聞く「仕事とお金の話」⑬
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