生活保護世帯の子供も大学に進学できます。その暮らしの実態とは
配信日: 2018.01.15 更新日: 2019.08.27
執筆者:新美昌也(にいみ まさや)
ファイナンシャル・プランナー。
ライフプラン・キャッシュフロー分析に基づいた家計相談を得意とする。法人営業をしていた経験から経営者からの相談が多い。教育資金、住宅購入、年金、資産運用、保険、離婚のお金などをテーマとしたセミナーや個別相談も多数実施している。教育資金をテーマにした講演は延べ800校以上の高校で実施。
また、保険や介護のお金に詳しいファイナンシャル・プランナーとしてテレビや新聞、雑誌の取材にも多数協力している。共著に「これで安心!入院・介護のお金」(技術評論社)がある。
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生活保護世帯の子どもの大学等進学の問題点
生活保護世帯の子どもも大学等(大学、短大、専門学校)に進学できます。
しかし、今の生活保護制度は、子どもが高校卒業後に働くことを前提としているので、生活保護を受給しながらの大学等進学は認められていません。そのため大学等に進学するには「世帯分離」をする必要があります。なお、生活保護を受給しながらの公共職業訓練校へ通うことは認められています。
「世帯分離」により、子どもは保護の対象から外れ、親の保護費が減らされます。東京23区内の母子3人家族の場合、生活費に相当する「生活扶助」と母子家庭への加算が計約44,000円、家賃に当たる「住宅扶助」約6,000円がカットされます。
一方、子どもは、保護の対象から外れるので、医療扶助が受けられず、自ら国民健康保険に入る必要があります。また、学費と生活費を自ら賄わなければなりません。このため、内閣府の発表では、2016年4月時点の大学等の進学率は一般世帯が73.2%であるのに対し、生活保護世帯の子どもの大学等進学率は33.1%と大きく下回っています。
「堺市生活保護世帯の大学生等に対する生活実態調査」結果の概要
この調査では、一般世帯と比較するため、日本学生支援機構「学生生活調査」(平成26年度)(以下、JASSO調査)の質問項目を一部採用しています。堺市調査結果とJASSO調査結果では規模や時期等が異なるので、単純に比較することはできない点は留意する必要があります。
まず、収入についてみると、年間の収入合計は、堺市調査では181.1万円、JASSO調査では179.9万円となっています。「家庭からの給付」、「奨学金」、「アルバイト」のうち、「家庭からの給付」と「奨学金」の2項目が、大きく異なっています。JASSO調査では、「家庭からの給付」101.2万円、「奨学金」37.1万円、「アルバイト」36万円に対して、堺市調査では、それぞれ、11.8万円、127.8万円、38.8万円となっています。生活保護世帯の大学生等は親からの支援が受けられず、収入の70.1%を奨学金に頼っている実態がわかります(JASSO調査では20.6%)。
学生生活費(学費と生活費の合計)については、生活保護世帯の大学生等は年間 181.1万円、JASSO の調査結果では、年間 167.7万円となっています。このうち、約7割が、就学関係費(授業料、その他の学校納付金、修学費、 課外活動費、通学費の合計)です。生活保護世帯、一般世帯を問わず、就学関係費の負担が非常に大きいことがわかります。
日常生活費については、生活保護世帯の大学生等53.1万円に対して、JASSO調査では39.8万円となっています。項目別では、食費、住居・光熱水費、保健衛生費などの項目で生活保護世帯の学生等の負担が大きくなっています。生活保護の学生等は、自ら国民健康保険の保険料を支払っていることが要因のひとつと推測されます。娯楽・し好品は一般世帯の学生のほうが大きくなっています。
アルバイトの従事状況については、アルバイトに従事している割合が、JASSO調査(平成26年)では73.2%、堺市調査(平成28年)では82.5%となっており、生活保護世帯の大学生等の方がアルバイトに従事している割合が高くなっています。また、「週3日以上」(授業期間中)にアルバイトに従事している割合は、JASSO調査では49.9%であるのに対し、堺市調査では65.9%と、生活保護世帯の学生等がより多くアルバイトをしている傾向にあります。
生活保護世帯の学生等は学業とアルバイトの両立が厳しい状況にあるといえます。奨学金の受給状況については、生活保護世帯の大学生等の 86.6%が日本学生支援機構の奨学金を利用しています(JASSO調査では51.3%)。内訳は、「第一種奨学金(無利子)のみ」16.5%、「第二種奨学金(有利子)のみ」30.1%、「第一種と第二種の併用」39.2%と併用が最も多いです。
また、JASSO の調査結果では、授業料の減免制度の利用等の理由により、奨学金が必要ないと回答した学生の割合が 41.7%であったのに対し、生活保護世帯の大学生等は 5.2%でした。生活保護世帯の大学生等は奨学金に頼っている実態がわかります。
卒業までの奨学金の借入総額(見込み)については、生活保護世帯の大学生の場合、「400 万円~500 万円」、短大・専修学校生では「300 万円~400 万円」の回答が最も多くなっています。奨学金総額が 「400 万円以上」の大学生は全体の 74.1%(「 500 万円以上」55.6%)、短大・専修学校生では「300 万円以上」の学生が 56.8%です。「800万円以上」の大学生も9.3%存在します。
なお、当該設問はJASSO の調査項目にはありません。
学生の不安や悩みについては、経済的に勉強を続けることが難しいと感じている学生の割合(大いにある・少しある)が、生活保護世帯の大学生等52.8%に対して、一般世帯の大学生等17.3%と顕著な差がみられます。
一方で、卒業後にやりたいことがみつからないと感じている学生の割合(全くない・あまりない)は、生活保護世帯の大学生等70.6%、一般世帯の大学生等59.6%となっており、生活保護世帯の大学生等の方が目的意識をもって就学している生徒が多いと推察されます。
<資料>
「堺市生活保護世帯の大学生等に対する生活実態調査」結果の概要
www.city.sakai.lg.jp/kenko/fukushikaigo/seikatsuhogo/switch_research_result.files/result.pdf
課題と解決に向けて
生活保護世帯の大学等進学にも高校進学と同じように「世帯内就学」を認めるべきではないでしょうか。高校就学については1970年に世帯の自立助長に効果的と認められる場合において保護を受けながら高校に通う「世帯内就学」が認められました。
さらに、一般世帯の高等学校等進学率が97.3%(平成15年度)に達し、平成16年、高校の授業料等について「高等学校等就学費」(生業扶助の技能習得費)が支給されることとなりました。ただし、金額は公立高校相当分に限られています。
大学等の進学率が80.6%(2017年)であることを考えると、まずは、「世帯内就学」を認めても良いのではないでしょうか。「世帯分離」には生活保護の対象から外れるので、ケースワーカーからの支援を受けられないという問題もあります。
学費の高騰が、生活保護世帯の子どもの大学等進学の障害になっています。学費の高騰に関しては、国立大学では学費の減免制度が受けられますが、生活保護世帯の子どもの多くが専門学校に進学していることを考えると、専門学校にも学費の減免制度を拡充すべきだと思います。
また、日本学生支援機構の給付型奨学金の拡充もすべきでしょう。現在の給付額は月額2万円~4万円と少なすぎます。報道によると、政府は、2018年4月から入学時に一時金を支給する方針です。一時金の名称は「新生活立ち上げ費用」。パソコンや教材のほか、一人暮らしを始める場合は生活用品などに使うことが想定されています。親元を離れる場合は30万円、同居を続ける場合は10万円とし、さらに生活保護費の住宅費の減額ルールをやめる予定です。2018年の通常国会に提出する生活保護法の改正案に盛り込まれます。
さらに、2020年4月から低所得世帯に限定して、授業料減免措置と給付型奨学金が拡充される予定です。授業料の減免措置については、学生が大学等に対して授業料の支払を行う必要がないようにします。具体的には、住民税非課税世帯の学生に対しては国立大学の授業料が免除されます。
私立大学の場合には、国立大学の授業料(標準額535,800円)に加え、私立大学の平均授業料の水準を勘案した一定額を加算した額までの対応が図られます。また、1年生に対しては国立大学の入学金(標準額282,000円)を上限に免除されます。
授業料の減免措置の拡充と併せ、給付型奨学金の支給額が大幅に増える予定です。給付型奨学金については、学生生活を送るのに必要な生活費を賄えるような措置が講じられます。具体的には、下宿している場合で年間100万円程度、自宅から通学する場合で、年間65万円程度給付する案を軸に調整が進められています。
Text:新美昌也(にいみ まさや)
ファイナンシャル・プランナー。ライフプラン・キャッシュフロー分析に基づいた家計相談を得意とする。
http://fp-trc.com/